基地問題の国際比較
「沖縄」の相対化
- ISBN
- 978-4-7503-5125-4
- Cコード
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C0031
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一般 単行本 政治-含む国防軍事
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2021年1月20日
- 書店発売日
- 2021年1月13日
- 登録日
- 2020年12月25日
- 最終更新日
- 2021年1月13日
紹介
世界の基地問題の比較を行い、そこから沖縄基地問題解決のための政策を導出する国際共同研究。基地問題を比較分析する試みは世界的に見ても稀有。9つの国・地域で展開される紛争とその発生要因を、当地の歴史・文化・宗教的背景を押さえた執筆者たちが解明。
目次
序文[川名晋史]
第1章 なぜ,どのように比較するのか[川名晋史]
1 基地問題(base problem)と基地紛争(base dispute)
2 比較の構造/類型
3 ケースの配置
第2章 国内政治への転回――基地研究の理論的系譜[川名晋史]
1 はじめに
2 推力
3 抗力
4 BPT以後
5 おわりに
第3章 トルコの反基地運動が沖縄に与える示唆――アイデンティティ・ポリティックスを手掛かりとして[今井宏平]
1 はじめに
2 1960年代のトルコにおける反基地運動
3 2003年イラク戦争とトルコにおける反基地運動
4 2010年代のトルコにおける反基地運動
5 基地政治をめぐるアイデンティティ・ポリティックス
6 沖縄における反基地運動とアイデンティティ・ポリティックス
7 おわりに
第4章 米韓同盟における基地政治――「同盟の再調整」と基地契約の見直し[石田智範]
1 はじめに
2 同盟協議の背景
3 在韓米軍プレゼンスのあり方をめぐる交渉
4 軍の作戦運用上の裁量権をめぐる交渉
5 おわりに
第5章 有機フッ素化合物汚染をめぐる政治・行政対策過程――ドイツ連邦を事例に[森啓輔]
1 はじめに
2 先行研究と課題
3 PFOA/PFOSのEUおよび連邦・連邦州レベルでの規制
4 PFOS/PFOA汚染と地位協定の絡まり合い
5 議論:ドイツの事例から見る沖縄でのPFAS汚染
6 おわりに
第6章 空母艦載機部隊の岩国基地への移駐――基地政策における負担と経済的利益の配分[辛女林]
1 はじめに
2 国内政治における基地問題
3 移駐計画の経緯と関連主体
4 移駐反対から政府のインセンティブによる選好変化まで
5 合意焦点の変化
6 おわりに
第7章 サウジアラビアにおける米軍基地と基地政治[溝渕正季]
1 はじめに
2 湾岸諸国における米軍基地の概要と近年の動向
3 サウジアラビアにおける米軍基地と基地政治
4 おわりに
第8章 対話の基地政治――グリーンランド・チューレ空軍基地の今日的位相[高橋美野梨]
1 はじめに
2 玉城デニー県政における対話と基地政治
3 在グリーンランド米軍基地をめぐる政治と対話
4 三者の意図をたぐる
5 おわりに
第9章 スペインの民主化と基地の返還合意――1980 年代後半のトレホン基地返還をめぐる二国間交渉と米国の対応[波照間陽]
1 はじめに
2 スペインの米軍基地縮小要求の背景
3 米国の国内外情勢に対する認識
4 二国間の問題を多国間で解決する
5 おわりに
第10章 シンガポールの「準基地」政策――基地紛争の予防と管理[古賀慶]
1 はじめに
2 「準基地」概念と理論
3 国際戦略環境:地域自立性の歴史的発展
4 国内環境:「基地紛争」の予防策
5 おわりに
第11章 イタリアの米軍基地――冷戦の前線から戦力投射の中心へ[マッテオ ディアン]
1 はじめに
2 冷戦期の在イタリア米軍基地
3 冷戦期のイタリア国内政治における米軍基地
4 地位協定と法的枠組み
5 ポスト冷戦期の米軍基地の戦略目的と構造の変化
6 現代イタリアの政治論争における米軍基地
7 冷戦後の地位協定と法的枠組み
8 おわりに
終章 政策の処方箋[川名晋史]
1 不可視化
2 多国間枠組み
3 三者間協議
あとがき
執筆者紹介
前書きなど
序文[川名晋史]
本書を執筆している2020年は,今日の沖縄基地問題の震源となる米兵による少女暴行事件が起きてちょうど四半世紀にあたる。この25年,沖縄の基地問題は解決の兆しがみえるどころか,ますます混迷を深めているようである。当初,沖縄にあった米軍に対する反発は,いつしか日本政府(ないし沖縄県)への反発へと様変わりし,「基地問題」は国内政治の問題へと少しずつその位相を変えてきた。沖縄と日本本土のもつれた糸を解きほぐそうとする努力は今もいたるところでみられるが,一方ではそこに立ちはだかる問題を前に嘆息する人も少なくない。ただ問題は,そこで努力する人も諦める人も,どちらにせよこの問題が「デッドロック」だと考える点で一致していることだろう。にもかかわらず,現実的に検討可能な政策の選択肢は未だほとんど示されていない。
(…中略…)
本書はそうした新たな基地研究の知見に基づき,とりわけ接受国の内部において展開される政治のメカニズムを複数のケース・スタディによって考察する。取り上げるケースは,①トルコ,②サウジアラビア,③韓国,④ドイツ,⑤イタリア,⑥スペイン,⑦デンマーク/グリーンランド,⑧シンガポールである。さらに,沖縄を考察するための国内の参照点として,⑨日本の山口県も対象とする。これら9つのケースは,そのほとんどが従来の研究で考察されてこなかったものである(ケース選択の根拠は第1章を参照されたい)。
ケースの分析を担うのは,当該の国/地域の政治・安全保障を専門とする研究者である。彼/彼女らは当地の言語に精通しているのみならず,個別の基地の歴史や米国との関係性,あるいは基地の問題を構成する文化的・宗教的背景を捉えることができる。このことは,従来の基地政治の理論が接近しきれなかった特定の地域/接受国に固有の問題を析出するのに大きな意味をもつ。
さて,ここまでで本書の目的――沖縄の「相対化」と政策の選択肢の検討――を示すことができただろう。そのような目的のために,本書は具体的には次の2つのことを行う。それは,第1に特定の接受国において特定の基地問題が政治化/紛争化する条件の推定である。そして第2に,一旦,生じた基地紛争(base dispute)を沈静化させる政策パターンの記述である。この点先んずれば,海外の事例からは基地問題が解決へと向かう政策として,①基地の不可視化,②多国間枠組みの構築,③三者間協議(米国,日本政府,自治体)の実施,の3つが浮かび上がる。これらの政策が沖縄の基地問題に応用できるかどうかは,本書の最後で検討する。