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「3密」から「3疎」への社会戦略
ネットワーク分析で迫るリモートシフト
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2020年11月20日
- 書店発売日
- 2020年11月20日
- 登録日
- 2020年11月6日
- 最終更新日
- 2021年4月13日
紹介
日本再興のカギは「中心のない社会的空間モデル」の実践だ。社会学・経営学・ネットワーク科学等を駆使する研究者が、豊富な図解と学問的根拠を併せつつ、パンデミックに動じない新時代の働き方(リモートワーク)と国家的生存戦略(リモートシフト)を提示。
目次
はじめに
序章 コロナ禍でわれわれの生活はどうなったか
1 現代資本主義社会とコロナ感染
2 リモートシフトした働き方と学び方
第1章 ソーシャル・ネットワーク論を導入する
1 社会をどう見るか――ネットワーク思考
2 具体例によるソーシャル・ネットワーク入門
3 統合的理論の概観
第2章 管理中枢からの社会的距離戦略――いかに自由に、自立して働くか
1 テレワークを3つのベクトルに分解する
2 テレワークを長いキャリアの中で位置づける
3 テレワーカー調査で探るコロナ禍前のテレワーク
4 フリーエージェントという生き方
5 労働者からフリーランス、創造階級にいかに飛躍するか
第3章 中央=東京からの社会的距離戦略――移住と地方への分散戦略
1 地方移住への関心の高まり
2 移動と「よそ者」――イノベーションの源泉?
3 地域での起業という戦略
第4章 人からの社会的距離戦略――イノベーションのネットワークをどうつくるか
1 自立した強い個人の確立のためのネットワーク戦略
2 知識資産とは何か? 仕事上のネットワークをどうつくるか?
3 女性はいかに100年人生のキャリアを築けるか
終章 「3密」から「3疎」への社会戦略はデジタル環境マルクス主義に通じる
おわりに
注
参考文献一覧
前書きなど
はじめに
2020年初頭から全世界を襲い始めた新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の急速な拡大は私たちの生活を一変させ、経済社会において新たな生活様式を普及させつつある。同時に、この厄介な伝染病は通常の年であれば易々と流行語大賞を獲ったかもしれない数々の新語・流行語を誕生させている。最初は「クラスター」「不要不急の外出」「ロックダウン」などが言説空間を賑わせた。やがて緊急事態宣言に応じて職場や学校、店舗が休止状態に追い込まれる中、「オンライン授業」「オンライン会議」「オンライン飲み会」「オンライン婚活」「オンライン副業」や「リモートワーク」「リモート出演」「リモート観戦」「リモートドラマ」といった遠隔的活動に関する言葉が充満し始めた。「オンライン演劇」「オンラインライブ」などの新たなアートや芸能活動の試みも始まっている。
折しも筆者が勤務する大学でも新たにTeamsを導入し、5月11日からリモートによる授業が開始された。去年からずっと行くのを楽しみにしていたパリでのソーシャル・ネットワーク分析の国際会議(「サンベルト会議」と呼ばれる)もヴァーチャルなオンライン形態の学会に変更された。発表を予定していた地元京都での観光学術学会も中止になった。そして現在は再開しているものの、筆者が大好きな現代アートを観賞できる美術館やギャラリーも一時は休館の憂き目を見て、京都・岡崎、東京・六本木での現代アート探索の散歩や遠出もできなくなった。
ポスト・コロナ社会の言説空間の中で最も響いた言葉は、「3密(密閉、密集、密接)」と「社会的距離化=ソーシャル・ディスタンシング(国際的には「ソーシャルディスタンス」とは言わない)」である(図を参照)。これは筆者がソーシャル・ネットワークやソーシャル・キャピタルの研究者であることによる。この言葉は、文字通りスーパーの買い物で2メートル離れて列に並ぶとか、対面の話し合いを避けて、離れて座るという物理的な距離をとるという意味で使われていることはもはや誰でも知っているが、筆者がこの本で提案するのは、各個人が社会集団、組織からある程度全面的な「社会的距離」をとることを良しとする社会関係構造の再編成である。
以下の章において提唱されるのは、旧来しばしば唱えられてきた「持続可能な循環型社会」でも単純な「分権的な地域社会」でもない、ソーシャル・ネットワークによる「中心のない社会的空間モデル」である。つまり個人が「ネットワークの中心」に依存、埋没せず、個人が遠隔に位置しても組織、企業と「一腕置いた(arm's-length)距離感」「ゆるやかな社会的距離」「疎な関係」をとる社会モデルである。
この社会的距離戦略の構想のためには、幅広い知識と批判的思考、分析力、エビデンスが必要となる。そのために、この本では筆者がこれまでに行なった創造都市の社会地理学的研究(金光 2017a; 2020)と在宅労働に関する労働社会学的研究(金光 2017b)、アート・フェスティバルに関する研究(金光 2018a; 2019)、他の経営学的研究(金光 2010)で得た知見、エビデンスが利用される。また筆者が長年培ってきた社会ネットワークモデル、理論による補強が試みられる(金光 2003; 2011; 2014)。ここでは社会学、経営学、ネットワーク科学、経済地理学といった学際的なアプローチを採用している。
この本では少しだけ難しい数学用語や統計用語も出てくるが、それらには簡潔な解説を加えており、一般読者にも理解できる内容となっている。コロナ危機の最中にある経済社会システムに不安を抱えている多くのビジネスパーソン、労働者、行政の立案者、生き方を模索している若い読者、とりわけ将来のキャリア形成に迷っている女性や志のある社会的起業家、就活を控えている大学生に手にして頂き、コロナ禍で不確実な将来の羅針盤にしてもらいたい。
上記内容は本書刊行時のものです。