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変容するフリースクール実践の意味
設立者のナラティヴ分析から
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2020年8月10日
- 書店発売日
- 2020年8月10日
- 登録日
- 2020年7月17日
- 最終更新日
- 2021年4月16日
紹介
なぜフリースクールという組織を立ち上げ、運営し続けるのか。公教育制度に組み込まれず厳しい財政状況にありながらも300以上存在するフリースクールの「設立者」に初めて焦点を合わせた国内唯一の研究書。設立者の高齢化に伴う世代交代問題についても考察。
目次
序章 フリースクールにおける設立者という存在
第1章 先行するフリースクール研究の到達点と課題
第1節 フリースクールに関する先行研究
第2節 近接領域に関する先行研究
第3節 先行研究の到達点と課題および本書の位置づけ
第2章 フリースクール研究の研究手法の再考――新たな視点と方法の提示
第1節 日本におけるフリースクールという概念とその実践
第2節 先行研究における日本のフリースクールの分析手法
第3節 設立者のナラティヴと経験の意味づけへの着目
第4節 複線径路・等至性モデリング(TEM)によるナラティヴの分析
第3章 フリースクールという経験の意味づけ(1)――設立者のナラティヴ分析から【周囲の変化に対応した事例】
第1節 Aさんの事例
第2節 Eさんの事例
第3節 Fさんの事例
第4章 フリースクールという経験の意味づけ(2)――設立者のナラティヴ分析から【設立前の価値観が貫かれる事例】
第1節 Bさんの事例
第2節 Cさんの事例
第3節 Dさんの事例
第5章 フリースクールの世代交代における継承問題――指導者としての設立者の役割に着目して
第1節 本章の背景と課題の設定
第2節 サマーヒル・スクールにおける設立者ニイルの存在
第3節 指導者としての設立者の役割
第4節 事例に関する考察
第5節 フリースクールの継承をめぐる問題
第6節 指導者論への示唆
結章 フリースクールおよびフリースクール研究の今後の展望
第1節 本書の知見
第2節 本書の学術的意義と実践的意義
第3節 今後の研究課題
第4節 フリースクールを持続可能な運営体制に導くために求められる研究
あとがき
引用・参考文献
前書きなど
序章 フリースクールにおける設立者という存在
(…前略…)
本書の構成は以下の通りである。まず、第1章では、フリースクールに関する先行研究を網羅的にレビューし、それらが概して不登校の子どもに焦点を当ててフリースクールを描き、フリースクールに欠かせない設立者の存在を見落としてきたことを明らかにする。また、フリースクールに近接する領域として、フリースペース・居場所やオルタナティブスクールに関する研究についても概観し、それとの対比から理論的一般化というフリースクール研究の課題を提示する。そのうえで、設立者という先行研究が見落としてきた視座から個別の実践に対する理解を深めるという本書の位置づけを明らかにする。
第2章では、本書の方法論について述べる。具体的には、まずフリースクールに関する先行研究の手法について批判的に検討する。それにより、フリースクールを様々な実践の総体として捉える視点の弱さ、時間の経過に伴う変化に関する研究の少なさ、何をもって「フリースクール」と称されているのかが不明という方法論上の課題を提示する。それらの課題を乗り越えるために、フリースクールを静的な「場所」ではなく設立者の人生に付随する動的な「経験」と捉える本書独自の視点を提示する。そして、その視座からフリースクールに接近する新たな手法として、不登校に関する先行研究を参照し、フリースクール研究では前例のない、語り手による意味づけおよび語ることを通した自己の変容を射程に入れたナラティヴ・アプローチを導き出す。そのうえで、フリースクールを設立者の人生における1つの経験として捉えるという本書の視座に合わせて、設立者のナラティヴの分析手法として選定した複線径路・等至性モデリング(TEM)について説明する。
第3章以降では、第1章・第2章で明らかになった本書の位置づけと課題を踏まえ、設立者のナラティヴから浮かび上がるフリースクールに対する意味づけとその変容、および世代交代という問題を通して見えてくる設立者の存在の大きさについて記述する。
第3章・第4章では、時間や社会的文脈に埋め込まれた個人の経験のプロセスを図示する方法論である複線径路・等至性モデリング(TEM)を用いて、10年以上の運営経験を持つ6名のフリースクール設立者のナラティヴを分析する。それにより、フリースクールを設立・運営するという設立者の人生における経験の個別性について明らかにするとともに、設立者の生き方と密接に関連するフリースクールのありようを描き出す。第3章では周囲の変化に対応しながらフリースクールを設立・運営してきた事例3つを、第4章では個々の設立者の人生における価値観を設立後も貫いた事例3つを扱う。
第5章では、世代交代というフリースクールにとっての目下の課題に焦点を当てる。設立者がフリースクールにおいて果たす役割について社会教育研究における指導者論を用いて明らかにするとともに、設立者の存在が世代交代における継承にどのような影響を与えうるのかについて、設立者の語りから明らかにする。
結章では、本書の知見と意義を整理し、今後の研究課題について記す。特に、フリースクールの世代交代後の展望について、持続可能な運営体制を構築するための道筋と、フリースクールを設立者の人生における経験として捉える本書の視座に即した展望という2つの側面から述べる。
上記内容は本書刊行時のものです。