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ストレンジャーの人類学
移動の中に生きる人々のライフストーリー
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2020年6月1日
- 書店発売日
- 2020年6月1日
- 登録日
- 2020年5月12日
- 最終更新日
- 2021年4月16日
紹介
複数の国家/社会を移動し、複数の言語、文化を跨いで生きる5人の「ストレンジャー」が語るライフストーリーを記述することで、彼ら/彼女らがどのように差異と向き合い、自己・他者認識をし、他者と関わっているのかを「折り合い」をキーワードに考察する。
目次
はじめに
序章 ストレンジャーの人類学に向けて
1 はじめに――「〇〇人」では捉えきれない人々
2 「外国にルーツを持つ人」に関する研究
(a)つながる先のルーツの探究から見えてくるもの
(b)「ストレンジャー」の視点から移動を捉える
3 理論的背景
(a)ストレンジャー論
(b)コスモポリタニズム
(c)文化相対主義をめぐる議論
4 分析の視点
(a)周縁化と受容
(b)「差異の渡り越え」と「差異の橋がけ」
(c)「他者」との接触と交流の断念
(d)差異の折り合い
5 調査方法
(a)方法としてのライフストーリー
(b)本書におけるライフストーリー
(c)オートエスノグラフィ
(d)インタビューの手法と脚注と仮名の使用について
6 4人の調査対象者のプロフィール
(a)ヨシ
(b)ナタリア
(c)サラ
(d)ケン
7 本書の構成
第1章 移動の複雑性
1 移動の遍歴
2 「移動する子ども」としての経験
ヨシの「移動する子ども」という経験
ナタリアの「移動する子ども」という経験
サラの「移動する子ども」という経験
ケンの「移動する子ども」という経験
ファビオの「移動する子ども」という経験
3 「自分探し」の移動
ヨシの「自分探し」
ナタリアの「自分探し」
サラの「自分探し」
ケンの「自分探し」
ファビオの「自分探し」
4 移動を繰り返す生き方
第2章 いかに「他者」を語るか
1 何を「ちがい」と捉え、何を「あたりまえ」と捉えるのか
ヨシの語り
(a)日本と韓国の「家」を往来する経験から見えるもつれ
(b)漫画とアニメをめぐる「他者」のイメージ
(c)「貴人のスポーツ」
(d)ホストファミリー
(e)多様性と場違いなトランスナショナル的状況
ナタリアの語り
(a)ランドセルと制服と体格
(b)「想像される世界」
サラの語り
(a)家族同士のつながり
(b)クウェートに引っ越して
(c)クウェートの日本人学校
(d)群れるということと恥の共有
ケンの語り
(a)言語に対する関心
(b)同質性に対する違和感
(c)「アメリカン」と「外人」と呼ばれて
(d)理不尽だけど「あたりまえ」
ファビオの語り
(a)食と関連付けた「他者」の認識
(b)閉鎖的な外国人
(c)あいさつ
(d)ブルーホ
2 「他者」への評価と反省
ヨシの語り
(a)複数言語間の「移動」と「こだわり」
(b)自己他者化
ナタリアの語り
(a)「日本人らしさ」
サラの語り
(a)地元の小学校
ケンの語り
(a)人気者の交渉
(b)「good」と「bad」の判断基準
ファビオの語り
(a)日本人を警戒する
(b)偏見は崩すのは難しい
(c)メキシコ人は怠け者
3 「他者」との関わりの中で認識するもの
第3章 他者評価に反映される自己の位置付け
1 何が許容され、何が排斥されるのか
ヨシの語り
(a)日本とロサンゼルスで就労
ナタリアの語り
(a)半分日本人
サラの語り
(a)帰国子女に対するまなざし
ケンの語り
(a)年功序列としきたり
ファビオの語り
(a)言語
(b)日本人学校に通うメキシコ人
(c)他者の想定内であれば何人にでもなれる
2 許容範囲内の「何者か」
第4章 脱ストレンジャー化
1 互いの持つ「差異」を乗り越えて
ヨシの語り
(a)「貴人のスポーツ」の試行錯誤
(b)人種のヒエラルキーと自分の位置付け
(c)「尊敬」と「リスペクト」をめぐる交渉
(d)メヒカーノのアミーゴ
ナタリアの語り
(a)「名乗り」をめぐる折り合い
(b)おにぎりとサンドイッチ
サラの語り
(a)共通点を見出す
ケンの語り
(a)ファッションとスケートボード
(b)日本社会で生き抜くストラテジーとしての英語とテニス
(c)米軍基地で英語を活用したアルバイト
(c)自己表現ができた
ファビオの語り
(a)弁当のおかずの交換
(b)話題の共有
(c)偏見を茶化したジョーク
(d)スニッチだと疑われないためになだめる
2 「他者」との距離を縮める
第5章 「何者か」になりすます
1 「他者」を演じる
ヨシの語り
(a)「ハーフ」、「日本人」、「韓国人」を演じる
(b)賛美歌を弾いて「クリスチャン」になる
(c)「アメリカ人」になりたかった
ナタリアの語り
(a)「外国人」をアピール
ファビオの語り
(a)オアハカ弁
(b)都合よく「外国人」を装う?
(c)「YOU」は何人?
2 「差異」を隠して「何者か」を演じること
第6章 再ストレンジャー化
1 折り合いがつかない
ヨシの語り
(a)「大阪人」だからという言葉に起因
ファビオの語り
(a)譲歩とその限界
2 接触のためらい
ナタリアの語り
(a)新しい環境に馴染めない
サラの語り
(a)どうせ2年で帰るから
ケンの語り
(a)ひきこもり
ファビオの語り
(a)Jリーグチームにアイデンティティを見出す
(b)多様性の承認の限界
3 思い切り
ヨシの語り
(a)差別に対する感情的な抵抗
(b)金のもつれ
サラの語り
(a)会社を辞めて、留学した
ケンの語り
(a)「恋愛がしたい」
4 「折り合いがつかない」ということの帰結
終章 移動と他者との出会いがもたらすもの
1 ストレンジャーとの関係の在り方
移動を繰り返すという生き方
(a)ヨシ
(b)サラ
(c)ナタリア
(d)ケン
(e)ファビオ
(f)複数の「何者か」の境界を往来する
差異の折り合い
(a)周縁化と受容
(b)「渡り越え」と「橋がけ」
(c)断念、失敗、ためらい
2 「ストレンジャー」から考える
ストレンジャー論について
コスモポリタニズム論について
文化相対主義の実践について
個人誌について
3 移動の軌跡と行方
参考文献
おわりに
索引
前書きなど
序章 ストレンジャーの人類学に向けて
(…前略…)
7 本書の構成
本論の構成は、以下の通りである。
第1章では、5人の「ストレンジャー」の移動の遍歴を明らかにする。「ストレンジャー」の移動の経緯と動機を「移動する子ども」と「自分探し」の2つの議論に依拠しながら検討する。「移動する子ども」の議論では、幼少期に複数言語環境で成長した5人の複数言語を習得する過程を描く。「自分探し移民」の議論では、彼ら/彼女らを他方へ押し出す、他方へと引き寄せる要因を作り出す文化・社会構造を探り、個々の移動の動機を検討する。
第2章では、5人の「ストレンジャー」の持つ「他者」に対する姿勢がいかなるものであるかを検討する。5人が、何を準拠枠として、「あたりまえ」と「差異」を認識し、「自己」と「他者」の差異化をするのか、誰を「他者」と認識するのか、誰を「同じ文化を持つ人」と認識するのかを記述していく。すなわち自己・他者認識の生成過程と変容を描く。次に、「自己」と「他者」の持つ「差異」を5人がどのように評価しているのかを検討する。
第3章では、「他者」の認識から反映される「自己」が、生活する社会の中でどのような位置付けにあるのかを明らかにする。「ストレンジャー」の持つ「差異」が生活する社会の中でどのような処遇を受けるかの過程を見ていく。
第4章では、「ストレンジャー」がどのようにして「他者」の持つ「差異」を自分に取り入れているのか、どのようにして「他者」から自分の持つ「差異」を承認してもらい許容してもらうのかという「脱ストレンジャー化」の過程を検討する。自分の持つ「差異」と移住先の社会に暮らす人々の持つ「差異」の「渡り越え」と「橋がけ」を、「差異の折り合い」と捉えなおし、その交渉の意味について論じる。
第5章では、「ストレンジャー」が「何者か」を演じて他者と接する様子を描写する。生活する社会の中で、自分の持つ「差異」が許容されないものだと認識し、許容されやすい「何者か」になりすます過程を明らかにする。
第6章では、5人の「ストレンジャー」が「他者」との関わりを断念したり、ためらったりするという「再ストレンジャー化」の過程に注目する。それによって、移動の遍歴の中で出会った人々の持つ特定の「差異」を受容することを拒否したり、移住先に暮らす人々の持つ「差異」に対して障壁をつくったりして、「差異」を持つ人々と交友関係を断ち、自分と類似する背景を持つ人々を模索するのはなぜかを考察する。
終章では、序章で取り上げた先行研究を参照しながら、5人の「ストレンジャー」のライフストーリーを通して見えるストレンジャーの特性と異文化理解または他者関係に「折り合い」をつけることについて考察し、本書を終える。
上記内容は本書刊行時のものです。