教員の報酬制度と労使関係
労働力取引の日米比較
- ISBN
- 978-4-7503-4988-6
- Cコード
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C0037
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一般 単行本 教育
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2020年10月31日
- 書店発売日
- 2020年10月31日
- 登録日
- 2020年10月12日
- 最終更新日
- 2020年11月4日
紹介
教員の評価はどのようにおこなわれ、それはどのように報酬に結びつくのか。丹念な事例調査やインタビュー調査の結果をもとに、日本と米国の公立学校の教員の評価に基づく報酬制度の違いや、そうした課題をめぐる労使関係の実情を明らかにする。
目次
はじめに
第1章 教員の報酬制度と労使関係への着目
第1節 問題意識
第2節 方法の吟味
第3節 調査と構成
第2章 勤評闘争下における教員の抵抗
第1節 問題の所在
1-1 問題意識
1-2 勤評闘争の経過
1-3 先行研究
1-4 分析の視角
第2節 愛媛県での勤評闘争
2-1 第一次愛媛勤評闘争:1956年11月~1957年6月
2-2 第二次愛媛勤評闘争:1957年10月13日~1957年12月15日
第3節 勤評闘争下の現場教員たちの抵抗の源泉
3-1 人間関係の連帯と分断
3-2 評価差による昇給への抵抗
3-3 親や住民との関係
第4節 結論
.
第3章 勤評実施側からみた愛媛勤評闘争
第1節 問題の所在
1-1 問題意識
1-2 勤評実施側の主体とその意図
1-3 目的と方法
第2節 自民党からみた勤評闘争
2-1 勤評実施の方策
2-2 自民党からみた愛媛勤評闘争
第3節 愛媛県教育委員会からみた勤評闘争
3-1 勤評実施に対する竹葉の構え
3-2 竹葉からみた愛媛勤評闘争
第4節 日教組対策としての勤務評定の意味
第4章 学校現場における教員評価制度の展開
第1節 問題の所在
1-1 問題意識
1-2 先行研究
1-3 課題と方法
第2節 県レベルの教員評価制度
2-1 教員評価制度導入のねらい
2-2 教員評価制度における評価
2-3 評価結果の活用:開示と反映
2-4 まとめ
第3節 学校現場レベルの教員評価制度
3-1 評価対象
3-2 実際の評価
3-3 普段の仕事ぶりと評価の関係
3-4 3つの問題
第4節 秩序と評価の整合性
第5章 教員評価と報酬制度の結合
第1節 問題の所在
第2節 課題と方法
第3節 教員の賃金決定
3-1 教員に対する評価
3-2 勤務成績区分の決定:勤務成績等に基づく推薦と業績評価
3-3 教員の昇給
第4節 管理職の賃金決定
4-1 管理職に対する評価
4-2 管理職の昇給
4-3 管理職統制
第5節 東京都の教員評価制度:危険の回避
第6節 政策的示唆と今後の研究課題
第6章 米国教員の賃金制度と業績給の概略
第1節 はじめに
第2節 賃金制度
2-1 モンゴメリー学区の賃金制度
2-2 デンバー学区のプロファイルと労使関係機構の概観
2-3 デンバー学区の賃金制度
2-4 小括
第3節 業績給
3-1 米国における業績給の概要
3-2 モンゴメリー学区の業績給に対する態度
3-3 デンバー学区のProComp
3-4 小括
第4節 おわりに
第7章 コロラド州デンバー学区における公立学校教員の報酬制度――ProCompの細部とその運営機構
第1節 はじめに
第2節 児童・生徒の成長
2-1 高業績校
2-2 高成長校
2-3 期待の凌駕
2-4 児童・生徒の成長目標及び児童・生徒の学習目標
第3節 市場報酬
3-1 任命困難職
3-2 指導困難校
第4節 知識と技能
4-1 専門性向上ユニット
4-2 授業料と学生ローンの返済
4-3 上級学位と上級免許
第5節 包括的専門職評価
5-1 効果的教育実践の構成
5-2 観察
5-3 専門職性
5-4 児童・生徒の認知
5-5 専門職の実践
5-6 児童・生徒の成長:学区成長と児童・生徒の学習目標
5-7 最終評価の確定
第6節 ProCompに対する現場教員の受け止め方
第7節 ProCompの課題
第8節 ProCompの運営機構
8-1 実施面の管理:トランジション・チーム
8-2 財源管理:教員報酬財団
8-3 苦情処理手続き:専門調査委員会
第9節 おわりに
第8章 米国における学区教員組合の構造と機能――DCTAの事例調査を中心に
第1節 問題の所在
第2節 DCTAのプロファイル
第3節 組合の階層と諸機関の構造
3-1 組合の階層構造
3-2 諸機関の構造
3-3 小括
第4節 諸機関及び組合員の機能
4-1 DCTA団体交渉チーム会議
4-2 役員会会議
4-3 代表理事会会議
4-4 地区会議
4-5 職場会議
4-6 組合員の投票権
4-7 小括
第5節 DCTAの構造と機能
第9章 米国教員の業績給をめぐる団体交渉
第1節 研究の課題と方法
第2節 団体交渉の風景と日程
2-1 交渉現場の風景
2-2 交渉日程
第3節 団体交渉を通じた提案と合意
3-1 DCTA 3月提案(2015年3月16日)
3-2 DPS 3月提案(2015年3月26日)
3-3 DCTA 4月提案(2015年4月9日)
3-4 覚書(2015年4月23日)
3-5 最優先校報酬の新設とDCTAの非難
3-6 最終協約(2015年12月21日)
第4節 前進の程度と組合規制
第10章 報酬制度と労使関係の日米比較
第1節 要約
第2節 日米における報酬制度の相違
第3節 今後の研究課題
あとがき
参考文献
索引
前書きなど
はじめに
本書の目的は日米における評価に基づく教員の報酬制度と労使関係をよく分かりたいということに尽きる。
日本の教員の報酬は、2000年代以降、勤続年数に基づいて決定する仕組みから、能力・実績・意欲に基づいて決定する仕組みへと変わった。米国については、メリットペイやパフォーマンス・ペイ等と称される報酬制度の仕組みの導入と撤廃とが断続的に繰り返されている。これら報酬制度の仕組みに関して、多くの研究者はその評価方法の是非、評価可能性、評価導入によるメリット・デメリットを含めた効果について論じてきた。評価に基づく報酬制度を論じる際、「教員評価」「メリットペイ」「パフォーマンス・ペイ」等の標語が使われてきた。しかし、これらの標語が分からなかった。私が教員であれば、どのように評価されて、結局、いくらもらえることになるのか。実に素朴な問いである。本書の問題関心の出発点はこの素朴な問いにある。しかし、素朴な問いに答えてくれる研究がなかなか見当たらなかった。
思い返せば、私は学部時代に労使関係論と出会った。人々の働き方やものの考え方がルールによって規定され、このルールは環境の変化や政府の規制にさらされながらも最終的には労使関係によって産出される。さらにルールは法律や条例に留まらず職場の慣行も含まれる。このようなルールに関心を持つようになった。当時、私は自身の身近な組織の慣行を整理してみると、やはり組織内の当事者たちは組織内の慣行に従って行動し考える人たちであった。現在も慣行の発見と解釈に重点を置いているのも、おそらく、労使関係論のルールへの執着という認識方法に魅せられたからだと思う。
冒頭に、報酬制度と労使関係がよく分かりたいと述べた。分からなさの理由は、私の勉強不足に加えて、教員に対する研究の多くが慣行を含めて現にあるルールに関心を寄せてこなかったためではないか。このように考えている。法律や条例を整理するだけでは、職場のルールは分からない。また、あるべきルールを論ずるだけでは、やはり職場のルールは分からない。だから、よく分かりたかった。
加えて、できる限り当事者の視点からルールをみたかった。第三者として、ルールを把握し、そのルールに良し悪しの判断をし、こうしないさいというような指南をするのではなく、当事者たちが何に悩みその悩みをひとまず解決するためにどのようなルールを産出しているのか。この点に関心があった。
本書は良き教育を提供するためにはどのような政策が必要なのかを提案する内容になってはいないが、本書が教員の働き方に関する議論をする際の素材を提供できるようであれば幸いである。
(…後略…)