書店員向け情報 HELP
出版者情報
在庫ステータス
取引情報
右翼ポピュリズムのディスコース
恐怖をあおる政治はどのようにつくられるのか
原書: The Politics of Fear: What Right-Wing Populist Discourses Mean
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2019年10月7日
- 書店発売日
- 2019年10月7日
- 登録日
- 2019年9月17日
- 最終更新日
- 2019年10月11日
紹介
「他者」を否定し、排除する修辞を暴く! 排外主義、外国人嫌悪、人種主義、反ユダヤ主義……。欧米における右翼ポピュリスト政党の台頭とその常態化について、批判的談話研究の手法をもちいて詳細かつ精緻に分析する。
目次
最近の欧米の右翼ポピュリズムのうねり――日本の読者のみなさまへ
凡例
序文
謝辞
第1章 ポピュリズムと政治――規範とタブーを侵す
1.1 右翼ポピュリズムのミクロ政治を分析する
右翼ポピュリズム――形式と内容
右翼ポピュリズム――スケープゴートを生み出す
1.2 恐怖を生み出す――排除の政治を正統化する
右翼ポピュリズム――危機と失業の増大
1.3 ポピュリズムという概念
右翼ポピュリズム――最初の定義
19世紀から20世紀のポピュリズム――歴史的発展と国家間の相違
ポピュリズムとファシズム
1.4 「なんでもありだ!」――いかに挑発とスキャンダル化がアジェンダを決定するか
右翼ポピュリズム――メディアを巧みに利用する
エピソード1 否定の政治――「ダビデの星はない」
1.5 右翼ポピュリスト政党の永久運動
1.6 「恐怖をあおる政治」を構築する
第2章 理論と定義――アイデンティティの政治
2.1 分類と定義
需要側・供給側モデル
権威主義か、それとも民主主義の再政治化か?
2.2 右翼ポピュリズムの台頭
1990年代からの選挙結果
2.3 選挙における成功を概観する
2.4 アイデンティティの政治――排除の政治
エピソード2 全体主義の経験―― 過去の扱い
エピソード3 欧州懐疑論と欧州アイデンティティ
2.5 まとめ――アイデンティティの政治の常態化?
第3章 境界と国民を守る――排除の政治
3.1 ディスコース、ジャンル、右翼ポピュリズムのアジェンダ
「二重思考」――左翼と右翼のポピュリズム
3.2 ディスコース・ストラテジーと排除の論証
ディスコースの歴史的アプローチ
論証スキーマ、トポス、誤謬
3.3 安全保障に訴える――排除を正当化する
欧州懐疑主義と9.11
エピソード4 ヒェールト・ウィルデルスとヨーロッパにおける
「ユダヤ・キリスト教の遺産」
3.4 人種主義の否定――免責、否定、正当化のストラテジー
エピソード5 イェルク・ハイダーと過去の政治――計算された両義性
3.5 両義的な謝罪
エピソード6 ハンガリーにおける反ユダヤ主義――被害者と加害者の逆転
3.6 まとめ――恐怖をあおるミクロ政治
第4章 言語とアイデンティティ――ナショナリズムの政治
4.1 ナショナリズムの(再)創生
言語政策――「本当の」ハンガリー人を定義する
身体と境界の政治
ナショナリズムと帰属
4.2 境界、家族/身体、国家を守る
エピソード7 スイスの境界の政治――排除の視覚的修辞の再コンテクスト化
エピソード8 英国の主流派ディスコース――「彼らは私たちに属さない」
エピソード9 排除の常態化――「不法移民は出て行く」ことを求める
4.3 「母語」と市民権
エピソード10 「母語」と「ドイツ語オンリー政策」
第5章 反ユダヤ主義――否定の政治
5.1 永遠のスケープゴートとしてのユダヤ人
例のフェイスブック事件に戻る
警戒それとも否定?――二次的反ユダヤ主義現象
5.2 反ユダヤ主義的修辞を定義する――「困ったときのユダヤ人」ストラテジー
混合反ユダヤ主義
反ユダヤ主義ステレオタイプのいくつか
非難と否定のストラテジー
5.3 ホロコーストの否定
憎悪の煽動と言論の自由
ホロコーストの否定を定義する
5.4 オーストリアの事例
「禁止法」
エピソード11 「ローゼンクランツ事件」
5.5 英国の事例
BBCテレビ番組「クエスチョン・タイム」
エピソード12 ニック・グリフィンと「クエスチョン・タイム」
5.6 まとめ――挑発のストラテジー
第6章 パフォーマンスとメディア――カリスマの政治
6.1 政治における「ニューフェイス」――新しい瓶に古い酒か?
用語を定義する――表舞台と舞台裏、ハビトゥス
神経言語学的プログラミング、プロパガンダ、繰り返し
右翼ポピュリストのアジェンダを演じる――真正性とカリスマ性
6.2 メディア、商品化、ブランド化
エピソード13 右翼ポピュリストの政治を演じる――HCシュトラーヒェ
オーストリア自由党のアジェンダを演じる――排除の修辞
第7章 ジェンダーに基づく身体の政治――家父長制の政治
7.1 矛盾する現象、傾向といくつかの知見
プラスティックの女性と段ボールの男性
交差性と「権威主義的パーソナリティ」
右翼ポピュリストを支持する有権者におけるジェンダー・ギャップ
エピソード14 ヘッドスカーフとブルカ――身体の政治
「スカーフ」をめぐるオーストリアでの議論
7.2 妊娠中絶をめぐるアメリカの議論 ――ロー対ウェイド裁判に対する
プロチョイス派のキャンペーンとその結末
「無知の傲慢」――グリズリー・ママ
エピソード15 女性の権利について男性が論争する――妊娠中絶の場合
7.3 補遺
第8章 主流化――排除の常態化
8.1 ヨーロッパのハイダー化
オーストリアの「ファウスト」同盟――戦後タブーを破る
ハイダー現象
8.2 主流化と常態化
8.3 生得的排外主義の身体の政治――東と西
8.4 恐怖をあおる政治
8.5 罠に陥るか、陥らないか
問題を一挙に解決する――別の選択肢となる枠組みを設定する
8.6 おわりに
付録 右翼ポピュリスト政党一覧
1 オーストリア オーストリア自由党(FPÖ)
2 ベルギー フラームス・ベラング(VB)(フラーンデレンの利益)
3 ブルガリア アタカ(攻撃党)(ATAKA)
4 キプロス 国家人民戦線(ELAM)
5 デンマーク デンマーク国民党(DPP)
6 フィンランド 真のフィンランド人党
前書きなど
編訳者あとがき
「右翼ポピュリズム」「恐怖をあおる政治」という語が含まれるタイトルをみて、社会学か政治学の本かと思って手にとった人が多いと思われる。しかし「ディスコース」が示すように、本書は、言語学の下位分野である談話分析の書である。とはいえ、本書のおこなう「批判的談話研究」は、政治学、社会学、歴史学等々との学際的、かつ協働的な研究を進める、きわめてダイナミックな学問分野といえる。
本書は2015年に英国の出版社SAGE Publicationsより上梓されたルート・ヴォダック(Ruth Wodak)氏の著書The Politics of Fear: What right-wing populist discourses meanの全訳である。メインタイトルの‘Politics of Fear’は直訳すれば「恐怖の政治」ともなるが、その言葉から想起される、フランス革命時のジャコバン党や20世紀中葉のスターリンによる恐怖政治といったものを指すのではない。「恐怖政治」の場合の「恐怖(terror)」はテロリズムの語源ともなったフランス語‘terreur’、つまり暴力的弾圧などによって引き起こされる非常な恐怖心であるのに対し、‘fear’はある感情からもたらされる漠然とした恐怖心や不安感、懸念などを表す。本書で扱われる‘fear’とは何を指すのか、‘fear’をもたらすものは何であろうか。それは、言うまでもなく、人々の心理に訴える目に見えない恐怖である。
本書を読破された読者には改めて繰り返す必要はないだろうが、原書の裏表紙に本書の概要が記載されている。「右翼ポピュリスト政治が表舞台に現れてきた。なかには選挙戦で首位を勝ち取った政党もある。しかし、私たちはその理由を知っているだろうか、またなぜ今なのか。ルート・ヴォダックは、政界の周辺から中央へとのしあがった党派の軌跡を追い、これまで非主流であった声が、アジェンダを掲げメディアにおける討論の流れをつくるような説得力ある政治家に変貌する道筋を理解し解明しようとする。ナショナリズム的で、外国人嫌悪、人種主義、および反ユダヤ主義の修辞の常態化を明らかにしながら、国民やジェンダー、身体の新たな分断を定着させつつある「恐怖をあおる政治」についての新しい枠組みを打ち立てる。その結果、右翼ポピュリズムのミクロ政治の姿が暴露される。公的な状況と日常的な状況との両方において、ディスコースやジャンル、あるいは画像やテクストがどのように用いられ巧みに操作されると、憂慮すべき結果になるかが明らかにされる。本書は、我々の政治空間を作り変えるこうした力学を理解しようと願う言語学、メディア、政治学の研究者、学生の必読書である」。
(…後略…)
上記内容は本書刊行時のものです。