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マイノリティの人権を護る
靖国訴訟・指紋押なつ拒否訴訟・BC級戦犯者訴訟を中心として
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2019年10月10日
- 書店発売日
- 2019年10月10日
- 登録日
- 2019年10月2日
- 最終更新日
- 2019年10月21日
紹介
靖国訴訟、指紋押なつ拒否訴訟、韓国朝鮮人BC級戦犯者の国家補償請求訴訟など宗教・民族にかかわる裁判に弁護士として関わってきた著者がその経験を踏まえ、多数決で奪うことのできない「少数者の人権」を確立し、民主主義を確かなものとするために綴る書。
目次
プロローグ
*青い鳥
【エピソード】
Ⅰ 弁護士のこころ
1 反射効*ピエロ
2 事務所便り*ベラと人権
3 妹尾晃(せのお あきら)弁護士の遺産〈洗礼・遺稿・われわれの弁論〉*時
【自治会と神社・マンションの日の丸】
Ⅱ 少数者の人権――中学生と考える多数決主義の限界
1 心の中の自由――思想と良心〈嵐の日・新興仏教青年同盟事件〉
2 宗教を信ずる自由・信じない自由
3 国家と宗教と平和――政教分離原則
4 精神的自由と多数決主義〈自治会と神社・マンションの日の丸〉
【津地鎮祭違憲訴訟】
Ⅲ 最高裁と神々
1 大法廷
2 市主催の神式地鎮祭
3 住民訴訟
4 ミニ靖国訴訟
5 「マイノリティの人権」の主張
6 住民側逆転勝訴
7 「歴史的考察」
8 住民側逆転敗訴――十対五の「合憲」判決
9 「少数者の人権」の意味
10 五裁判官の「少数意見」
11 苦い乾杯〈感謝する会・十五人の“中央決起大会”・『神のたそ
がれ』〉
12 地搗(じつき)音頭で起工式
【愛媛玉串料違憲訴訟】
Ⅳ 靖国訴訟
1 住民側逆転勝訴――十三対二の「違憲判決」*闘争
2 愛媛玉串料違憲訴訟の背景〈①靖国神社法案の廃案・②内閣総理大臣の靖国神社参拝・③平和保障の原則・④小泉靖国参拝の企図〉
3 アジアの遺族たちの気持ち(講演抜粋)
【自衛官「合祀」拒否訴訟】
Ⅴ こわされた小さな願い
1 夫の死の意味を求めて
2 「お断りします」
3 靖国神社・護国神社
4 「合祀」通知
5 「公」の宗教
6 脅迫状*うさぎ
7 「師団長」の要望
8 国家から「ひとりで放っておいてもらう権利」
9 山口地裁勝訴判決――「宗教上の人格権」
10 最高裁判所大法廷弁論――天下の大事件
11 逆転敗訴の予感
12 「人権の感覚」
13 日本人の宗教的寛容性――雑居的信仰
14 唯一の少数意見
15 “権力におもねる”
16 湯田温泉*ろば
【指紋押なつ拒否訴訟】
Ⅵ 赤い手袋の少女
*ひとさし指の自由
1 法廷
2 ルーツ
3 異邦人
4 赤い手袋
5 赤ちょうちん
6 帰化
7 梟(ふくろう)
【韓国・朝鮮人BC級戦犯者の国家補償請求訴訟】
Ⅶ カンナの花――高校生と語る戦後補償・人権
1 アジア太平洋戦争
2 捕虜の権利
3 コリアンガード
4 泰緬(たいめん)鉄道
5 アルヒルの難所*泰緬鉄道
6 戦争犯罪裁判
7 Pホール
8 上官の命令
9 パク・ユンサンの述懐
10 チョウ・ムンサンの遺書
11 Q&A*戦争責任
【「日本」という国】
Ⅷ 『わたくしたちの憲法』を読む
1 神国・日本
2 「国民主権」の憲法
3 首相らの伊勢神宮参拝
4 戦争をしない国
エピローグ
前書きなど
プロローグ
近年、トランプ政権下の米国をはじめ世界各国で、一国主義が横行し、「民族的少数者の人権」がないがしろにされている。グローバルな世界のあちこちで民主主義が壊されていくとき、足もとの日本の民主主義を顧みよう。
私が弁護士になって五十年余の年月が流れた。この間、それ以前に気づかなかったこの国の精神的風土(精神的社会環境)が見えてきた。
哲学者の久野収さんは、およそ次のように指摘している。「日本人は、昔から村落共同体の中で、大きな流れに同調することなく、自分の判断をはっきり表現して、まわりに波風を立てるのは、村の平和を乱すものだから、村八分にされても仕方がないという伝統に抱えこまれて生きております」。
この「同調的伝統」の下で多数決でも奪うことのできない「少数者の人権」(マイノリティの人権)はしばしば侵害され、憲法訴訟ともなっている。
しかし、最高裁判所大法廷事件の多数意見においてさえ、「少数者の人権」をかえりみることのない判例が見られ、この国の精神的風土には民主主義に悖るものがあり、驚くばかりである。
私が携わった津地鎮祭違憲訴訟(Ⅲ最高裁と神々)や自衛官「合祀」拒否訴訟(Ⅴこわされた小さな願い)はその例である。
また、この国の民族的少数者である在日韓国・朝鮮人を管理するために、犯罪者と同様に行政により強制されていた指紋押なつを拒否した日本生まれ、日本育ちの中学生少女の事件(Ⅵ赤い手袋の少女)では、家庭裁判所でさえも、少女は「まちがい」をおこしたとし、「保護者も本人が再び『まちがい』をおこさないための適切な指導と監督をして下さい」としるした通知書を交付しているのである。
この国に、多数決でも奪うことのできない「少数者の人権」を確立し、この国の民主主義を確かなものとしたい。
また、この国の戦争責任の問題も、他民族のアイデンティティーへの侵略であったことを自覚して謝罪し、その謝罪のしるしとしての象徴的補償をなすべく政府・国会に訴え続けていきたい(Ⅶカンナの花)
終わりに、日本国憲法が確立しているこの国のありようを再確認したい(『わたくしたちの憲法』)。
本書は弁護士五十年のあいだに携わった「少数者の人権」と「平和主義」をめぐるさまざまな問題の意味を、そのつど綴った詩とエッセイを交えて、中学生や高校生にも伝えようとして編んだ文集である。「隠語」(法律用語)を駆使する法律家の論考にならぬよう心して綴ったのであるが、はたして大方のご理解を得られるであろうか。
上記内容は本書刊行時のものです。