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近代中国の救済事業と社会政策
合作社・社会調査・社会救済の思想と実践
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2019年8月15日
- 書店発売日
- 2019年8月15日
- 登録日
- 2019年8月1日
- 最終更新日
- 2019年9月20日
紹介
1920年代から1940年代の「中華民国」の時期の近代中国を対象として、農村を中心とする貧窮問題の解決を図ろうとした知識人の思想を検討し、その可能性と限界がどこに存在したのかを明らかにする歴史社会学的な研究。
目次
刊行のことば(首藤明和)
序章
1.シティズンシップと「共同社会」
2.歴史のなかの社会政策と福祉国家形成
3.貧窮問題と中国の近代
4.本書の構成
第1章 災害体験と貧窮問題の形成――1920年華北大飢饉
1.大飢饉の近代中国史
2.「赤地千里」の中国――華北大飢饉の概要
3.メディアの中の災害体験――ナショナリズムと災害ユートピア
3-1 新聞業の発展と報道競争
3-2 ナショナリズム
3-3 災害ユートピア
4.災害体験と学生のアイデンティティ
4-1 五四運動と学生の高揚感
4-2 被災民と学生の出会い
4-3 「五四運動」への自己批判
5.災害体験と貧窮問題の形成
第2章 協同組合と農村救済――日本の産業組合政策と華洋義賑会の合作事業
1.近代中国における「合作国家」の可能性
2.日本の産業組合政策――地縁的紐帯と「好意の独裁」
2-1 明治政府の産業組合政策
2-2 信用組合と「郷党の結合心」
2-3 柳田國男の産業組合論――「好意の独裁」の克服
3.華洋義賑会の合作事業
4.合作社における成員の理念と表象
4-1 合作社と「成員役割」
4-2 好人」と「不良分子」
4-3 「情面」「面子」の論理
5.「好人」の矛盾と困難
第3章 合作社の思想と救貧事業――于樹徳における「好人」の自治
1.貧窮問題と合作社の思想
2.近代中国における協同組合の実践と試行錯誤
3.「地方の人格者」への期待――于樹徳の初期合作社思想
3-1 「農荒予防と産業協済会」
3-2 「わが国古代の農荒予防策――常平倉・義倉と社倉」
3-3 合作社と「人」の問題
4.華洋義賑会における「合作」の実践
5.残された課題と矛盾
第4章 社会調査の実践と困難――李景漢の社会調査論
1.社会調査と社会政策の実践
2.民国期中国の社会学と社会調査
3.李景漢と中国社会調査運動
4.李景漢の社会調査実践――「人情」と「同情心」
5.「以農立国」と農村合作社の構想
6.社会調査を通じた貧窮者との連帯
第5章 救貧制度と社会的権利の成立過程――日本と中国における「慈善」概念の比較
1.「慈善」と「社会連帯」のあいだ
2.「慈善」のパターナリズムを超えて――日本
2-1 「郷党の善人」による防貧
2-2 「私達の社会」と「慈善」の対立
2-3 「無報酬の心」による「社会連帯」
3.「組織」と「人」を求めて――中国
3-1 慈善事業の遺産と「亡国」の危機
3-2 「各自為政」としての「慈善」
3-3 「社会連帯主義」と「人」の問題
4.「人治」による「組織」の創出
第6章 「社会連帯主義」の可能性――柯象峰の社会救済論
1.「社会救済」の歴史的な文脈
2.タルドの社会学思想と人口問題研究
3.貧窮問題と中国の救済事業――「人材」への期待
4.「社会救済」の思想と「人」の問題
4-1 新県制と「人材」問題
4-2 社会救済法と「社会連帯主義」
4-3 「人」による「人治主義」の解決
5.「人」の共同社会
終章
1.本書の要約
2.「人」の共同社会のゆくえ
3.今後の課題と展望
年表
参考文献
あとがき
索引
【資料】
前書きなど
刊行のことば
21世紀「大国」の中国。その各社会領域――政治,経済,社会,法,芸術,科学,宗教,教育,マスコミなど――では,領域相互の刺激と依存の高まりとともに,領域ごとの展開が加速度的に深まっている。当然,各社会領域の展開は一国に止まらず,世界の一層の複雑化と構造的に連動している。言うまでもなく私たちは,中国の動向とも密接に連動するこの世界のなかで,日々選択を迫られている。それゆえ,中国を研究の対象に取り上げ,中国を回顧したり予期したり,あるいは,中国との相違や共通点を理解したりすることは,私たちの生きている世界がどのように動いており,そのなかで私たちがどのような選択をおこなっているのかを自省することにほかならない。
本叢書では,社会学,政治学,人類学,歴史学,宗教学などのディシプリンが参加して,領域横断的に開かれた問題群――持続可能な社会とは何であり,どのようにして可能なのか,あるいはそもそも,何が問題なのか――に対峙することで,〈学〉としての生産を志す。そこでは,問題と解決策とのあいだの厳密な因果関係を見出すことよりも,むしろ,中国社会と他の社会との比較に基づき,何が問題なのかを見据えつつ,問題と解決策との間の多様な関係の観察を通じて,選択における多様な解を拓くことが目指される。
確かに,人文科学,社会科学,自然科学などの学問を通じて,私たちの認識や理解があらゆることへ行き届くことは,これまでにもなかったし,これからもありえない。ましてや現在において,学問が世界を考えることの中心や頂点にあるわけでもない。あるいは,学問も一種の選択にかかわっており,それが新たなリスクをもたらすことも,もはや周知の事実である。こうした学問の抱える困難に謙虚に向き合いつつも,そうであるからこそ,本叢書では,21世紀の〈方法としての中国〉――選択における多様な解を示す方法――を幾ばくかでも示してみたい。
2018年2月 日中社会学会会長 首藤明和
上記内容は本書刊行時のものです。