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人とウミガメの民族誌
ニカラグア先住民の商業的ウミガメ漁
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2019年1月31日
- 書店発売日
- 2019年1月31日
- 登録日
- 2019年1月18日
- 最終更新日
- 2019年2月13日
紹介
ニカラグアのカリブ海岸、ミスキート村落。今では絶滅危惧種に指定されているウミガメを、古くから食用をはじめ生活の中で消費してきた人々がいる。ウミガメとともに営む彼らの暮らし、そしてそれが時代につれて変わりゆく様をきめ細かに綴った貴重な記録。
目次
第一章 序論
一.問題の所在
二.先行研究と本書の学術的位置づけ
三.現地学術調査について
第二章 大航海時代の発見の片隅で
一.ウミガメ諸島(Las Tortugas)の発見
二.富と名声の象徴として
三.二つの民族集団と二つの宗主国
四.英領ケイマンとモスキート・コーストへの南進
五.米開発資本とワシントン条約、自治州の設立
第三章 インディアンたちの生産科学
一.資源管理下の先住民漁業
二.換金できる海産物をめぐる領海の分割
三.集団編成の論理
四.現代のアオウミガメ漁獲作業
五.海上での航路と空間的合理
六.漁の季節と海流
七.生産性の向上
第四章 富や財としての価値
一.ミスキート社会における希少動物の価値
二.換金商品のロブスターが生み出す莫大な富
三.港町での流通
四.金銭的な価値とその交換
五.村の交換財として価値
六.海産物交易の中で
第五章 肉としての価値
一.高依存度とその解釈について
二.偏在するウミガメの肉
三.商品化の模様
四.現代のキッチン
五.欧風の味付けや調理法の導入
六.家畜動物の肉
第六章 討論
一.問題に対する本研究の位置づけ
二.文明社会における希少動物アオウミガメの保護や管理方法について
三.「地球」という空間に対する意識の変化の中で
第七章 結論
付録
1 老漁師の話〈原文〉
2 老漁師の話〈訳文〉
3 大きな船の建造方法
4 アオウミガメ漁獲作業の航路
5 港町(Bilwi)や近郊の漁村での流通・消費に関するデータ
あとがき
参考文献
前書きなど
第一章 序論
一.問題の所在
「(私たちのいる現代には、)地球時代という時代がやってきて、何事を考えるのにも地球という背景で考えなければ、真の解決はないということが非常にはっきりとしてきた」、梅棹忠夫がそう述べたのは、一九八三年の対談集『地球時代の人類学』の上でのことであった(梅棹 1983, p.14)。
当時、地球上の人口の増加によってもたらされていた資源の有限性やその枯渇に対する危機意識が、世界各地で広がっていた時代であった。
梅棹の先見の明には脱帽せざるを得ない。しかしこれは、本書が最も批判的に考えていかなければならない概念である。氏のように地球のような果てしない大きさを実感できるものなど、どれほどいるのだろうか。普段の生活とかけ離れたその馴染みのなさに、私などはどうしても実感がわいてこない。地球を基準とする新たな時代など本当に存在するのだろうか?
近年、氏のこうした地球時代というものに対する大きな意識改革の訴えに対して、人類学的な研究が盛んに行われている(池谷2003; 2009; 2017)。なかでも池谷は、諸人類がどのようにこの地球時代を歴史的に発展させてきたかを狩猟採集時代の自然財の利用という観点から再現しようと試みて、注目を集めているが、もし、氏の言うように、地球という時代が形をなしてきているのであれば、それはどのような経緯で誕生したというのだろうか。戦後の復興と高度経済成長、探検の時代や環境のムーブメントの中を生きた氏の存在は、ゼロ成長の時代を生きる私たちにはあまりにも眩しい。その熱が冷めたように見える今、私たちの間に浸透しているようにみえる地球像について、深く腰を据えて分析するには確かに良い時期を迎えているのかもしれない。
本書、『人とウミガメの民族誌』と題した研究書は、こうした地球時代というものに対する人類学的な学術問題意識の連続の中で育まれ、その一つとして派生したものである。
(…後略…)
上記内容は本書刊行時のものです。