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新版 差別論
偏見理論批判
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2018年12月20日
- 書店発売日
- 2018年12月20日
- 登録日
- 2018年11月22日
- 最終更新日
- 2018年12月20日
紹介
偏見や差別意識に関する従来の理論を批判的に捉え好評を博した初版に、2017年、安倍首相の街頭演説における「こんな人たち」発言の事例分析を加える。「三者関係モデル」「他者の客体化」「われわれ」といった新たな概念で「どのようにして人は差別するのか」「どうしたら差別はなくなるのか」という問いに正面から答える実践的な理論書、待望の新版。
目次
はじめに
1 差別論について
2 差別という言葉をめぐる混乱
(1)定義の問題
(2)認識のズレ
(3)差別の不当性
3 本書の構成と方針
第1部 理論編
第1章 差別の定義
1 社会的カテゴリーと差別
2 差異モデルと関係モデル
3 不当性の論理
4 差別論と人権論
5 排除による差別行為の定義
第2章 排除の理論
1 共同行為としての排除
2 他者化、同化、見下し
3 三者関係モデル
4 差別行為の類型化
(1)利害関係主導型差別
(2)同化主導型差別
(ⅰ)攻撃的排除
(ⅱ)象徴的排除
5 差別行為の連鎖
(1)認知的連鎖
(2)儀礼的排除
6 差別行為の認識可能性――認識のズレとその解決
(1)他者の抽象化
(2)他者の客体化
(3)他者化に着目する差別の認識
(4)同化に着目する差別の認識
(5)同化メッセージのあいまい性
7 批判と差別
補論
1 スケープゴーティング論について
2「われわれ」カテゴリーについて
第3章 偏見理論批判
1 偏見理論とは何か
2 差別は心の問題か
3 カテゴリー化とステレオタイプ
4 二者関係のモデルと三者関係のモデル
5 偏見理論の問題点
第4章 差別論の射程と解放の戦略
1 差別論の射程
2 差別の無効化という戦略
3 偏見理論からの脱却
4 行為の対象化
5 差別行為の「ワクチン」化
6 「ワクチン」の作り方
第2部 事例編
第5章 小説のなかの差別表現――筒井康隆「無人警察」
1 はじめに
2 筒井康隆「無人警察」をめぐる議論に見られる「差別表現」観
(1)「無人警察」とそれをめぐる評価
(2)三つの「差別表現」観
3 差別論の問題点
(1)「被差別」の論理
(2)悪意の差別論
(3)偏見と差別意識の理論
4 差別問題の「ねじれ」構造
5 「無人警察」における「てんかん」の意味
6 差別論のオルタナティブ
7 おわりに
第6章 あいまいな表現としての差別語と「ワクチン」――石原都知事「三国人」発言
1 分析
(1)外国人
(2)三国人
2 ワクチン
第7章 性別役割分業の非対称性――林道義『父性の復権』『母性の復権』
1 『母性の復権』と『父性の復権』の相違点
(1)母性本能と父性本能
(2)女性性と男性性
(3)母性の問題と父性の問題
(4)母性の保護と父性の保護
2 分析
3 性別役割分業の非対称性
第8章 指差しと視線による他者化――安倍首相「こんな人たち」発言
1 なぜこの事例を取り上げるのか
2 「こんな人たち」発言は何が問題なのか
3 指差しと視線による分断
4 カテゴリー化
(1)「自民党」というカテゴリー
(2)「こんな人たち」というカテゴリー
5 同化メッセージ
6 「こんな人たち」発言は成功したのか
7 ワクチンとしての「こんな人たち」発言
補論
差別語簡易判定法
おわりに
参考文献
索引
前書きなど
はじめに
1 差別論について
世の中には多くの差別があり、それぞれに固有の問題を抱えています。そして、それぞれの差別に固有の状況を明らかにし、その原因を突き止め、解決の方法を見出すために多くの研究がなされてきました。
これらの個別の差別についての研究は、互いに影響を与え合いながらも独自に発展し、それぞれの理論的な枠組みを作ってきました。たとえば、性差別についての理論(フェミニズム)の中心的な概念のひとつに「家父長制」というものがありますが、これはあくまでも性差別についての理論であり、そのままほかの差別に流用できるものではありません。
しかし一方では、さまざまな差別は「差別問題」という言葉で表される限り、何らかの共通性を持っているはずです。それではその共通性はどこにあるのでしょうか。
大雑把にいえば、さまざまな差別の共通性は「差別する側」にあります。人はどうして差別をするのか。あるいは特定の人々を排除したり攻撃したりおとしめたりする理由は何か。このような問題は、さまざまな差別の問題に共通のテーマとして設定することが可能だし、現に特定の差別に依拠しない理論が作られてきています。その代表格が、本書が批判の対象とする偏見や差別意識に関する理論です。
本書のタイトルである「差別論」という言葉は、個別の差別について論じるのではなく、さまざまな差別の共通点を扱うのだということ、そして、「差別する側」に着目して考えていこうとしているのだということ、とりあえずはこの二つを頭に入れてもらえればいいと思います。
実は「差別論」という視点には、もっと大きな意味があるのですが、それは本書を読み進めていただければ徐々に明らかになってくると思います。
(…後略…)
上記内容は本書刊行時のものです。