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持続可能な暮らしと農村開発
アプローチの展開と新たな挑戦
原書: Sustainable Livelihoods and Rural Development
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2018年11月20日
- 書店発売日
- 2018年11月20日
- 登録日
- 2018年11月21日
- 最終更新日
- 2019年3月7日
紹介
グローバル化が進む中で我々の食と農をめぐる問題は大きな転換期を迎えている。環境破壊を引き起こさない持続可能な開発を目指すには、どのようなアプローチが必要なのか。歴史的な展開から視野に入れるべき分野まで、開発の基本となる枠組みを概説する入門書。
目次
「グローバル時代の食と農」シリーズの刊行にあたって
日本の読者へのメッセージ
謝辞
序文
第1章 暮らしに注目すること:アプローチの展開を振り返る
暮らしに注目する考え方
持続可能な農村の暮らし
キーワード
核心の問題
第2章 暮らし、貧困、ウェルビーイング
暮らし方が生み出すもの:概念上の基礎
暮らし方が生み出す成果を測る
不平等の評価
多次元的な計測基準と指数
誰に関する指標が重要なのか?
貧困の動態と暮らしぶりの変化
権利、エンパワメント、不平等
結論
第3章 暮らし(生計)の分析枠組みとその先にあるもの
人びとの暮らしの背景(context)と戦略
暮らしを営むための資産、資源、資本
暮らしの変化
政治と権力
枠組みの構成要素は何か?
結論
第4章 アクセスとコントロール:制度、組織、政策のプロセス
制度と組織
アクセスと排除とを理解すること
制度、慣習、行為主体
相違、認識、意思表示と発言権
政策のプロセス
ブラックボックスの中身を明らかにする
第5章 人びとの暮らし、環境、持続可能性
人間と環境:動的な関係
資源の不足:マルサスを越えて
平衡状態にない生態系
適応の仕方としての持続可能性
生計と生活様式
持続可能性のポリティカル・エコロジー
持続可能性の再構築:政治と交渉
第6章 人びとの暮らしと政治経済学
多様なものの統一性
階級、人びとの暮らし、農業の動態
国家、市場、市民
結論
第7章 的確な問いを立てる:拡張された暮らし分析のアプローチ
政治経済学と農村の暮らしの分析:6つの事例
明らかになったテーマ
結論
第8章 暮らしの分析のための方法
方法の組み合わせ:分野の縦割りを越えて
人びとの暮らしの評価を実際に利用するうえでのアプローチ
人びとの暮らしの政治経済学的分析に向けて
先入見を問い質す
結論
第9章 「政治」を中心に据え直す:暮らしの観点に対する新たな挑戦
利害関心の政治学
個々人をめぐる政治学
知識をめぐる政治学
エコロジーをめぐる政治学
新たな暮らしの政治学
訳者解説
参考文献
前書きなど
「グローバル時代の食と農」シリーズの刊行にあたって
私たちの食生活は、世界中から集められた「美しい」食材で溢れている。しかし皮肉なことに、これらの食材は、だれがどのように生産したのかが分からないために、不安とよそよそしさを生み出してもいる。そこで改めて、食と農、さらにはその基になっている自然と地域社会を見直そうという機運がかつてなく高まっている。そのことは、この数年間で私立大学に農学部およびそれに類する学部が相次いで開設されたことによく示されている。また地方大学では、農業や地域産業を含む地域立脚・地域志向型学部(地域協働学部や地域創成学部など)への再編を行ったところも少なくない。
しかし、こと日本の農業について語るときには常に過疎化、高齢化、後継者不足という、ステレオタイプの理解がつきまとっている。この理解は、今のままでは日本農業に未来がないので、大胆な改革が必要であるという言い分につながる。この言い分は、コスト競争力を強化し、農産物をどんどん輸出して「儲かる農業」に変えていくことを求める。中小規模の「農家」が多数を占める、現在のような日本農業ではダメで、少数の大規模家族経営や法人経営のような効率的「農業経営体」を育成しなければならない。これからはICT(情報通信技術)やロボットを駆使する最先端の農業を行える「農業経営体」だけが世界規模の大競争に勝ち抜き、生き残っていける。このような情報技術を使うアグリカルチャー4.0の時代に対応できない中小規模の農家や高齢経営者には「退場」してもらうしかない。
こうした効率優先、利益第一、市場万能、競争礼賛の考え方は、まさに新自由主義的な経済思想にほかならない。この経済思想は、生命と自然を大事にする地域密着の農業から利益優先の農業・食料システムへの転換を図っている。しかし、本当にそれで私たちは幸せになれるのだろうか。翻って、日本から目を転じたときに、世界の農業もまた新自由主義的な方向性に覆いつくされているのだろうか。世界的な視野から日本の農業を見直すと、ステレオタイプの言説に囚われた理解を乗り越えて、新しい視野を獲得することができるのではないだろうか。
この問題を考えるうえで、「グローバル時代の食と農」シリーズ(原書版シリーズ名Agrarian Change and Peasant Studies Series)はとても有益な示唆を与えてくれる。本シリーズは、効率性や市場万能主義が跋扈しているかに見える世界の農業とそれを取り巻く研究が、「だれ一人取り残さない」視野に立脚し、新自由主義とは大きく異なるパースペクティブを持っていることを教えてくれる。食と農は人間の生命と生活の根源に深くかかわっているし、農の営みが行われる農村空間は社会的にも景観的にも経済にとどまらない多彩な意味を持つからである。
確かに、新自由主義的なグローバリゼーションが深化していく中で、農業とそれを取り巻く社会関係は大きな変容を迫られてきた。しかし私たちは、その変容がもたらす意味についてきちんと考えてはこなかったように思う。また、この変容の中で農民がどのように生きているのか、農民たちが世界中の農民と連帯し、またNGOなどの市民社会組織、さらには国際機関と連携を強めていることに無関心であったように思う。本シリーズによって、私たちは日本からの視点だけでは見えにくい農の全体性をしっかり理解できるだろう。
(…後略…)
上記内容は本書刊行時のものです。