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中国系新移民の新たな移動と経験
世代差が照射する中国と移民ネットワークの関わり
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2018年10月15日
- 書店発売日
- 2018年10月15日
- 登録日
- 2018年10月3日
- 最終更新日
- 2018年10月17日
紹介
海外在住の中国系移民、とりわけ、現地化の進んだ若年世代である「中国系新移民」に着目し、インタビューなど実証的な調査研究に基づき、彼/彼女らの日常生活の中で、創造・実践される文化と、ルーツである中国との関わりあいについて論じる。
目次
刊行のことば[首藤明和]
序章 中国系新移民の新たな移動と経験[奈倉京子]
1.はじめに
2.「中国系新移民」
3.「華人ディアスポラ」の批判的検討
4.中国のナショナリズムと中国系新移民
5.本書の構成
第一部 中国から/への新たな移動,そこから逆照射される新たな中国像
第1章 「中国新移民」の現状[朱東芹]
1.「新移民」とは?
2.新移民の基本状況とその特徴
3.近年における新移民の変化の特徴,直面している問題および思考
第2章 フィリピンへ向かう中国新移民――歴史,現状と展望[朱東芹]
1.はじめに
2.フィリピン新移民形成の歴史と背景
3.フィリピン新移民の時代区分とその特徴
4.フィリピン新移民の現状
5.フィリピン新移民が直面する問題および展望
第3章 現代中国の移民政策――移民受け入れ国への転換[呂雲芳]
1.来華外国人の歴史
2.現在の移民の類型
3.新中国成立以降の移民政策
4.結び
コラム 日本と中国を単身で移動する中国人女性――新たな越境家族のあり方[大石かさね]
第二部 中国系新移民の経験と葛藤
第4章 中国-スペイン間を移動する華人子孫[イレネ・マスデウ・トルエジャ]
1.はじめに
2.スペインへ向かう華人の変容
3.世代を超えて:移民子孫の移動経路の多様性
4.「トランスナショナルな家庭教育」と青田人の移民ハビトゥスの変容
5.中国への移住と帰国:異世代移民カップルの中国への移住
6.結論
第5章 在オランダ華人二世の宗教信仰――仏教徒を例に[呂雲芳]
1.はじめに
2.先行研究の論点と問題意識の所在
3.調査の概要
4.考察
5.おわりに
第6章 在マレーシア華人の海外移住[何啓才]
1.はじめに
2.マレーシアから海外への移住
3.在マレーシア華人の海外移住の原因
4.おわりに
第7章 家のない女たち――ロウ・イエ『パリ、ただよう花』とグオ・シャオルー『中国娘』に見られる中国人女性の移動[及川茜]
1.はじめに
2.家族・同胞との断絶
3.接線としての性関係・婚姻関係
4.銀行口座と通じない言葉
5.歩き続ける女
6.おわりに
第三部 中国政府の移民ネットワークの援用と創出
第8章 中国の文化外交における中国系移民の媒介的作用[奈倉京子]
1.はじめに
2.公共外交と華人社会
3.中国留学・訪問の増加
4.中国系移民組織の媒介的作用
5.おわりに
第9章 在アメリカ華人と中国の「文化的ソフト・パワー」[李其栄・沈鳳捷]
1.はじめに
2.在アメリカ華人が中華文化を伝達するルートとその方法
3.在アメリカ華人による中国の「文化的ソフト・パワー」向上の主要な方法
4.おわりに:中国の「文化的ソフト・パワー」を向上させるために
おわりに
索引
前書きなど
序章 中国系新移民の新たな移動と経験[奈倉京子]
1.はじめに
本書は,「中国系新移民」の新たな移動と経験に着目し,各執筆者が実証的な調査研究に基づき,彼/彼女らの生の経路,日常生活の中で創造・実践されている文化,そして中国との関わりについて論じたものである。考察を通して得られた知見から,「華人ディアスポラ」を批判的に検討し,中国系新移民のヴァナキュラーな文化と「中国文化」がどのような相互作用を展開しているかについて探求することを目的とする。
改革・開放以降,海外華人の中国に対する投資が経済発展の道を開く一つの先駆けとなった。しかし,彼/彼女らの世代交代が進むにつれて,中国語ができず,現地の国民としてのアイデンティティを強くもつこと等を特徴とする現地化した若い世代が増加した。中国に対するノスタルジックな思いやルーツへの愛着といった感情的要素だけではこのような世代を「祖国」中国へ引き付けることは難しくなった。他方で,中国国内に目を向けると,中国は目覚しい経済発展を遂げる一方で,地域格差,貧富の差,環境問題,民族問題等が深刻となり,中国政府は対応に迫られている。
こうした中国内外の社会背景の下に2012年から発足した中国の習近平政権は,「中華民族の偉大な復興」というスローガンを掲げた。中華民族は,漢民族と55の少数民族を合わせた呼称であるが,個人の実質的な身分証明となっているというよりは,人民を統一するための政治的な概念「装置」として考えられてきた。習近平政権では,中華民族に中国大陸の外に定住する「海外の同胞」,すなわち,台湾,香港,マカオの人々および世界各地に居住する華人の人々も含めて語られる傾向にある。つまり,民族を主軸に内外の「中国人」(中華民族)を束ね,国内ではともに「中国の夢」を実現させようと人民の一致団結を謳い,国外では,海外在住の中国系移民のネットワークを援用・構築することを通して現代中国のグローバル化を推し進めようとしている。
本書のねらいは,国民国家を超えて展開されるこうした「中華圏」における相互作用を,中国を「中心」,海外在住の中国系移民を「周辺」として捉えるのではなく,海外在住の中国系移民を「中心」とする立場から考察することである。とりわけ,現地化の進んだ若年世代に注目し,彼/彼女らが中国とどのように出会い,目の前にどのような中国像が浮かび上がってくるのか,その諸相を考察することに力点を置いている。
本章では,本書を貫く問題意識と考察の視座について言及する。まず,対象とする人々を本書では「中国系新移民」と総称することについて述べる。次に,「中国系新移民」のそれぞれの特徴を紹介するために,①華人ディアスポラの批判的検討とヴァナキュラーな文化の自覚,②中国政府の移民ネットワークの援用と創出,③移民受け入れ国としての中国,の三つの視座を設けて論じることにする。
(…後略…)
上記内容は本書刊行時のものです。