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ポピュリズムの理性
原書: On Populist Reason
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2018年12月25日
- 書店発売日
- 2018年12月25日
- 登録日
- 2018年12月19日
- 最終更新日
- 2018年12月25日
紹介
政治理論家エルネスト・ラクラウによるポピュリズム論の金字塔的著作。ポスト・マルクス主義の政治理論を深化させ、侮蔑的に論じられるポピュリズムを政治的なものの構築の在り方として精緻に理論化。根源的、複数主義的な民主主義のために、政治的主体構築の地平を拓く。
目次
序文
第Ⅰ部 大衆への侮蔑
第1章 ポピュリズム――多義性と逆説
ポピュリズムに関する文献の袋小路
代替アプローチを求めて
第2章 ル・ボン――暗示と歪曲された表象
第3章 暗示、模倣、同一化
暴徒と社会の解体
催眠術と犯罪学
タルドとマクドゥーガル
フロイトによる突破
結論――出発点に向かって
第Ⅱ部 「人民」を構築する
第4章 「人民」、空虚の言説的産出
存在論に関する幾つかの瞥見
要求と人民アイデンティティ
等価性の冒険
敵対、差異、代表
「人民」の内的構造化
名指しと情動
ポピュリズム
補論――なぜ幾つかの要求を「民主的」と呼ぶのか?
第5章 浮遊するシニフィアン、社会的異質性
浮遊すること――シニフィアンの劫罰ないしは運命か?
異質性が登場する
第6章 ポピュリズム、代表、民主主義
代表の二つの相貌
民主主義と人民アイデンティティ
第Ⅲ部 ポピュリズムの諸形態
第7章 ポピュリズムの遍歴譚
第8章 「人民」の構築にとっての障碍と限界
オマハ綱領から一八九六年選挙での敗北へ
アタテュルクの六本の矢
ペロンの帰還
結論
ジジェク――火星人を待ちながら
ハートとネグリ――神は与え給う
ランシエール――人民の再発見
注
解説――『ポピュリズムの理性』に寄せて[山本圭(政治学)]
訳者あとがき
索引
前書きなど
訳者あとがき
本書は、Ernesto Laclau, On Populist Reason, Verso, 2005の全訳である。
著者ラクラウの略歴およびその思想的展開における本書の位置付けについては、山本圭氏の的確な解説を参照されたい。
(…中略…)
まさしく、山本氏が解説で指摘されている通りであろう。本書の原著の出版から十数年を経て(さらには著者ラクラウの死去からも数年を経て)、本邦でも、「ポピュリズム」の語は人口に膾炙し、ある種の政治的状況を記述・解説する概念として一般に広く用いられるようになった。移民排斥を声高に掲げる諸政党のEU各国議会への公然たる進出、アメリカでのトランプ政権の成立、イギリス国民投票でのEU離脱(ブレグジット)の選択、等々。「ポピュリズム」的な事態が報道で目に触れない日は(そして、それに憂慮の念が表明されるのを耳にしない日は)ほとんどないといってもよい。かつては必要だった「大衆迎合主義」等の補足説明すら次第に省略されつつある。「ポピュリズム」を題名に冠した書物の出版も相次ぐ。
だが、ある人物や組織、事象について「○○はポピュリズムである」と指摘されるとき、そうして、それによって何ごとかが説明されたように見えるとき、そこでは本当は何がなされているのだろうか。この言明は、「客観的な」事実認識を行う「事実確認的(コンスタティヴ)」な文でありながら、それと同時に(その裏面で)、「したがって、それを真剣に受け取る必要はない(受け取ってはならない)」という価値判断を下す「行為遂行的(パフォーマティヴ)」な文でもあるのではないだろうか。「ポピュリズムである」という記述は、その対象を、侮蔑と非難と(若干の)憐憫が加えられるべき標的として自動的に位置付けてしまうものではないのか。それに対して唯一まともになすべきことがあるとすれば、この病理への適切な治療法を何とか案出することであると、そう聴き手に思わせてしまうものとなってはいないか。そうだとすれば、ポピュリズムは不条理な逸脱現象として、それ自身の理由(リーズン=理性・言い分)をあらかじめ奪されてしまっているのではないか。
従来のポピュリズム概念に対して著者ラクラウが抱く深刻な違和感は、このようなものであろう。そして、これはまた、われわれの多くが、「ポピュリズム」を持ち出す説明に直感的に感じ取る「居心地の悪さ」の背景にあるものかもしれない。ラクラウにとって、ポピュリズム概念の重要性は、絶対的なまでに否みようのないものである。だが、一方で、この概念のうちの何かが、右で述べたような「行為遂行的」価値判断を導いていると思われるのもたしかだ。この概念を用いると、問いを発したと同時に即座に答に辿り着いてしまう。何かしら思考を短絡させてしまう仕組みがそこに組み込まれているようなのである。この短絡の仕組みを解除(=解明)して、問いと答を引き離すための、ラクラウの曲折に満ちた長い苦闘、その結晶が本書『ポピュリズムの理性』である。
(…後略…)
上記内容は本書刊行時のものです。