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トランスジェンダーと現代社会 石井 由香理(著) - 明石書店
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トランスジェンダーと現代社会 多様化する性とあいまいな自己像をもつ人たちの生活世界

発行:明石書店
四六判
296ページ
上製
価格 3,500円+税
ISBN
978-4-7503-4656-4
Cコード
C0036
一般 単行本 社会
出版社在庫情報
在庫あり
初版年月日
2018年3月
書店発売日
登録日
2018年3月29日
最終更新日
2018年4月11日
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紹介

割り当てられた性に対して非同調の人々、トランスジェンダー。性自認の性を女性とも男性とも断定できないなど、性別(ジェンダー・アイデンティティ)のとらえかたは多様であいまいである。医療言説の分析、当事者、運動団体、親へのインタビュー等により、現在生じている新たな現象を概観し、自己像を多様であると見なす認識のあり方や、他者との関係性をあきらかにした意欲作。

目次

 はじめに

序章 性別越境概念とその社会的意味づけ
 1 現在国内で流通する性別越境概念
  1・1 医療概念としての「性同一性障害」
  1・2 「当事者概念」としてのトランスジェンダー
  1・3 同性愛との違い
  1・4 異性装者
 2 性別越境についての国際的な動向と歴史
  2・1 近代社会における性別越境の抑圧と性科学の台頭
  2・2 性の脱アイデンティティ化と脱医療化の動き
 3 日本における性別越境概念の変遷
  3・1 近代化以前
  3・2 明治から1990年代まで
  3・3 性別越境の医療化と人格化
  3・4 特例後の状況と脱医療化
 4 本書の構成

第1章 独自化する自己像とライフストーリー
 1 二元的ジェンダー観と自己像との間で
 2 「性同一性障害」概念とカテゴリー化
 3 調査の概要
 4 3人の語りから見えてくるもの
  4・1 既存のアイデンティティ表象に同一化されない自己像
  4・2 カテゴリーへの同一化を試みた時期
  4・3 当事者との出会いと既存のカテゴリーに重ならない自己の受容
  4・4 予定調和ではない未来
 5 ずれの中に構築されるアクチュアル・アイデンティティ
 6 認識の変化が及ぼす影響

第2章 医療言説における揺らぐジェンダー概念と再帰的自己
 1 多様性尊重言説は人々にどのような作用をもたらしたのか
 2 新しい性別越境概念の登場と医療化に対する反応
 3 「性同一性障害に関する診断と治療のガイドライン」の分析
  3・1 初版
  3・2 第2版
  3・3 第3版
  3・4 第4版
 4 ガイドラインの変遷から見えてきたもの

第3章 「性同一性障害」カテゴリーと非当事者の関係性――当事者団体の活動に着目して
 1 当事者の自己像と他者像
 2 性同一性障害当事者運動の現況と自己像の変遷
  2・1 当事者運動の現状
  2・2 カテゴリーからのずれをもつ自己像と他者
 3 分析方法・対象
  3・1 団体Qの概要
  3・2 交流会L
 4 多様化する当事者像と非当事者の関係性
  4・1 団体Qの主催者にとって「性同一性障害」とは何か
  4・2 本質主義的なジェンダー観をもつ他者像と当事者の多様化した自己像
 5 当事者が背負おうとするもの

第4章 当事者演劇におけるジェンダー・イメージの変遷
 1 「抵抗」からクイアへ
 2 分析対象と方法
 3 TPの性に関する意識はどのように変遷したか
  3・1 第1回公演
  3・2 第2回公演
  3・3 第3、4回公演
  3・4 第5回公演
  3・5 第6回公演
 4 自己像と他者像の変遷

第5章 トランスジェンダーの子どもをもつ親の語り――受容と関係性再構築をめぐって
 1 トランスジェンダーの子と親との関係に見られる特質
  1・1 トランスジェンダーと多様性言説
  1・2 親とジェンダー規範
  1・3 親の性差
 2 調査内容及び対象者
 3 子の受容と多様性言説
  3・1 子どもの性を受容するまで
  3・2 親と子の関係性再構築
  3・3 性の多様性言説の親への影響
  3・4 母親と父親の関わり方の違い
 4 親の語りからみえてきたもの

第6章 多様性言説と新しい主体
 1 「多様性」について考えるために
 2 脱真理化する性
  2・1 近代社会と性の真理
  2・2 性の真理の脱構築
  2・3 ポストモダニティにおける性からの脱埋め込み
 3 新たな性の作用と多様性言説
 4 多様性言説の議論の水準
 5 性的人格からの撤退がもたらすもの

 あとがき
 注
 初出一覧
 文献

前書きなど

序章 性別越境概念とその社会的意味づけ

 (…前略…)

4 本書の構成
 こうした現状を踏まえて、では、社会学が提供すべき視座は何であろうか。ジェンダー規範や、異性愛規範、アイデンティティの一貫性を維持させる規範等々に対しては有益な指摘を行ってきた反面、多様性や独自性を重んじるなかで、既存の社会的表象との差異の中に自己像を見出させる作用については、一歩引いた視座をあまり有していない。本書は、そうした新しい性のあり方について、個人レベルから、医療/当事者言説レベル、そして、当事者団体の運動等について考察したものである。また、時間にも注目し、当事者の自己像やジェンダー・アイデンティティやトランスジェンダーに関する言説が時系列的にどう変化したかについて描き出した。
 本書の章立てについて確認しよう。まず第1章では、個々の当事者たちのジェンダー・アイデンティティに焦点を当てた分析を行った。特に、性別に対してあいまいな自己像を有する当事者に注目し、かれらへのインタビューを分析し、考察を行った。(……)
 第2章では、性同一性障害という概念を生み出し、法の制定にも影響を与えた、国内医療言説の変遷について考察をした。現在、性別越境者の治療方針として、国内で最も権威を有する、日本精神神経学会の「性同一性障害に関する診断と治療のガイドライン」に注目し、それぞれの版の改定後に、ジェンダー、あるいは性別越境概念がどのように定義され、扱われるようになっているかを把握する。(……)
 続く第3章では、国内当事者団体の活動に焦点を当てて、それが、どのように変化していったのか、及び、その理由について明らかにした。この団体の活動は、はじめは、「性同一性障害」についての社会への啓蒙であったが、調査時点では、当事者個人を支援する活動へと変わっていた。(……)
 第4章では、トランスジェンダーを題材にした演劇団体の台本の分析を行った。2000年から、2011年までに上演された、この団体の本公演の台本すべてを分析し、通時的に、主人公像の描かれ方や、テーマがどのように変遷しているかを考察した。(……)
 第5章では、トランスジェンダーの子をもつ親を対象に行った調査の結果について記述した。子の受容過程と、親のジェンダー・アイデンティティへの影響、また母親と父親ではどのような差があるかを考察した。(……)
 そして、6章では、現代社会論と接合しながら、性別越境概念の現代的特徴が、近代的なジェンダー観や人々の自己像、身体像に与えている影響について社会学の見地から理論化を試みた。フーコーが描いた近代的な性のあり方と、現代のそれは何が異なるのかに関して考察を行い、言説が人々に及ぼす新しい作用についても言及を行った。また、1章から6章までに得られた知見を総合し、現代的な性の特徴について描きだした。
 本書が明らかにしようと試みるのは、性を多様なものとしてとらえようとする、現代的な人々の意識であり、言説であり、また、その社会的構造である。それらが見えてきて、かつ近代的な性の様相が変化していることが読み取られるのであれば、本書の試みはひとまず成功したといえるだろう。

著者プロフィール

石井 由香理  (イシイ ユカリ)  (

神奈川県出身。首都大学東京大学院人文科学研究科博士後期課程単位取得退学、博士(社会学)。日本学術振興会特別研究員(PD)、南オーストラリア大学客員研究員を経て、現在、東洋大学社会学科助教。専門は、ジェンダー、セクシュアリティ、障がい学。

上記内容は本書刊行時のものです。