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GHQ「児童福祉総合政策構想」と児童福祉法
児童福祉政策における行政間連携の歴史的課題
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2017年9月
- 書店発売日
- 2017年9月25日
- 登録日
- 2017年9月22日
- 最終更新日
- 2017年9月22日
紹介
児童の福祉を保障する行政間連携とはなにか。その答を求めて、戦後の児童福祉政策の基底にあるGHQの児童福祉政策構想を起点に、当時の厚生省・司法省・文部省等、それぞれの役割分担と統合的な施策について、どのような議論がされたのかを子細に検討した労作。
目次
序章 被占領期児童福祉政策研究の視角
第一節 研究の目的
第二節 研究の視点及びその方法
1 「被占領期」の特殊性
2 検討の枠組み~四つの変容過程
3 研究資料
第三節 本論文の構成
第一章 児童福祉法制定過程の研究とその課題
はじめに
第一節 寺脇隆夫の児童福祉法立案過程の研究
1-1 法立案期前史(1945年9月~1946年9月)
1-2 児童保護法立案期/児童保護法案①~③(1946年9月~12月)
1-3 児童福祉法立案前期/児童福祉法案④~⑧(1946年12月~1947年3月)
1-4 児童福祉法立案後期/児童福祉法案⑨~⑪(1947年3月~11月)
第二節 児童福祉法及び行政の「問題性」
2-1 児童問題に対する法と行政特色
2-2 児童福祉法の問題性
2-3 児童福祉行政の問題性
第三節 児童福祉法制定30周年の研究課題
3-1 「法成立の経過と法案の推移」
3-2 「法対象の拡大とその限界」
第四節 本研究における児童福祉法制定過程研究の課題
第二章 被占領期における児童福祉政策研究
第一節 村上貴美子の厚生省公文書分析による被占領期児童福祉政策研究
1-1 戦時下の児童保護対策
1-2 生活困窮者対策としての「児童の保護」
1-3 児童局設置に至る過程
1-4 児童という特殊ニード
第二節 岩永公成のGHQ資料分析による被占領期児童福祉政策研究
2-1 終戦以前の米国対日児童福祉政策方針
2-2 被占領初期のGHQ児童福祉政策構想
第三節 本研究における被占領期児童福祉政策の研究課題
第三章 GHQ「児童福祉総合政策構想」
第一節 被占領期の福祉政策概要とその方針
1-1 GHQセクションの概要
1-2 PHWの「総合的な福祉政策」
第二節 GHQ「児童福祉総合政策構想」第一期(1946年9月~10月)
2-1 記録用覚書・日本帝国政府宛覚書「世話と保護を要する児童」について(9月9日)
2-2 記録用覚書「『世話と保護を要する児童』の提案の検討に関する会議」(9月17日)
第三節 GHQ「児童福祉総合政策構想」第二期(1946年10月~11月)
3-1 GHQ「児童福祉総合政策構想」の発令(10月18日)
3-2 記録用覚書「児童福祉」
3-3 「完全な意味における児童福祉計画」(1946年11月)
第四章 GHQ「児童福祉総合政策構想」変容過程1(ABC)~厚生省における「不良児対策」の「一元的統合」議論~
第一節 前史――児童福祉政策をめぐる二つの歴史的課題
1-1 「非行児」の行政所管における内務省と文部省の対立
1-2 「大正少年法」をめぐる内務省と司法省の対立
1-3 戦時下の厚生省「児童福祉」構想と「児童局」構想
第二節 戦後の厚生省官制における児童行政の変容
2-1 「児童婦人局事務分掌一覧(案)」(1946年10月)
2-2 GHQ構想以降の児童局所管の変容
第三節 「児童福祉総合政策構想」変容過程A
3-1 児童保護法案とGHQ構想の相違点
3-2 中央社会事業協会の「意見書」(1947年1月)
3-3 行政統合方針における厚生官僚の強い意志
第四節「児童福祉総合政策構想」変容過程B
4-1 「児童の総合立法」としての児童福祉法案と「一元的統合」議論
4-2 参議院厚生委員会における「児童院」構想(1947年9月~11月)
4-3 児童保護の歴史的課題と近き将来の一元化
第五節 「児童福祉総合政策構想」変容過程C
5-1 被占領期の司法省・法務庁における少年法制度確立の概要
5-2 少年法改正をめぐる歴史的課題解決への手がかり
5-3 「児童福祉の基本方針」における法制的整備
5-4 「虞犯少年」をめぐる調整
第五章 GHQ「児童福祉総合政策構想」変容過程2(D)~青少年不良化防止対策をめぐる「連携的統合」議論~
第一節 前史――戦時下の青少年不良化防止対策
1-1 内務省の青少年不良化防止対策概要
1-2 文部省の不良化防止対策概要
1-3 厚生省・司法省の青少年不良化防止対策概要
第二節 「児童福祉総合政策構想」変容過程D
2-1 児童福祉法制定後の青少年不良化防止対策の議論
2-2 法務庁における青少年犯罪防止対策の検討
2-3 「青少年犯罪防止に関する決議」に至る国会審議
2-4 「青少年指導不良化防止対策基本要綱」に至る議論
2-5 「青少年不良化防止に関する決議」に至る厚生省関係者の議論
2-6 「青少年不良化防止に関する決議」に至る国会審議
第三節 戦後の文部省による青少年不良化防止対策の検討
3-1 戦後初期、文部省「青少年不良化防止」対策の検討
3-2 青少年教護委員会による三つの建議
3-3 「青少年研究所設立」に関する「事務」所管の議論
第四節 青少年問題対策協議会設置
4-1 青少年問題対策協議会設置過程
4-2 「青少年問題対策協議会決定事項中本年度内に実施すべき緊急対策要綱」(1949年8月30日)
4-3 青少年問題対策協議会の「連携的統合」に関する国会審議
終章 行政統合議論とGHQ構想の変容と着地点
第一節 混合型改革としての被占領期児童福祉政策
1 GHQ構想における対象範囲拡大と行政統合の方針
2 混合型改革としての児童福祉政策
第二節 GHQ「児童福祉総合政策構想」と厚生省の歴史的課題
1 感化院と矯正院をめぐる所管の議論
2 戦時下の厚生省社会局児童課長の児童福祉構想と対象拡大
3 戦時下の関係省庁の「連携的統合」による青少年不良化防止対策
第三節 児童行政の対象範囲
1 1938~1947年までの厚生省官制の児童行政の変容、及び児童保護の対象の変容
2 「一般児童」と「特殊児童」の保護と不良化防止対策の位置づけ
第四節 GHQ「児童福祉総合政策構想」変容過程1
1 対象範囲の拡大、児童保護から児童福祉への理念転換(変容過程A)
2 児童保護行政の「一元的統合」(変容過程B)
3 児童福祉法研究会が指摘した児童福祉法の「矛盾」生成過程
4 「不良児対策」の「一元的統合」(変容過程C)
第五節 GHQ「児童福祉総合政策構想」変容過程2
1 戦後の青少年不良化防止対策をとりまく状況
2 青少年不良化防止対策の行政統合方針の転換
3 青少年問題対策協議会設置過程
第六節 本研究の限界と課題
文献
おわりに
前書きなど
序章 被占領期児童福祉政策研究の視角
(…前略…)
第三節 本論文の構成
本論文は全七章で構成される。
序章では、本研究の目的、研究の視角、研究方法、論文の構成について述べた。
第一章は、1970年代の児童福祉法研究会及び寺脇隆夫の児童福祉法制定過程研究に関する研究の検討と残された課題について考察し、本研究の課題について明らかにした。これらの先行研究は、児童の権利という視角から、児童保護法案から児童福祉法案までの法内容の変容過程を詳細に検討しているが、厚生官僚の歴史的課題の認識、行政機構改革、GHQの児童福祉政策との関係等の視点が欠けていた点に課題が残されていた。
第二章では、被占領期の児童福祉政策に関する先行研究として、厚生省公文書を中心に検討した村上貴美子の1987年の研究、また2002年にGHQの一次資料を中心に検討した岩永公成の研究を取り上げた。この二つの研究の成果は、戦後の児童福祉政策の基底に、GHQの全児童福祉計画があると指摘した点である(……)
第三章では、GHQ構想の対象範囲、行政統合方針を、改めて検討した。その結果、GHQ構想では、特に司法省及び文部省との「連携的統合」が厚生省に指示され、青少年不良化防止対策は関係行政の「連携的統合」によって実施されるべきこととされていた。また、GHQ構想の対象範囲は、岩永のいうように一貫して「一般化」だったわけではなく、「児童福祉の全般的問題」と表現されており、またその関心は非行問題にあったことを確認した。
第四章は、GHQ構想に示された「児童福祉の全般的問題」を「連携的統合」で対応するという方針が、1946~1949年における児童福祉法制定及び改正過程の中で、対象範囲と行政統合方針が変容させられていく過程ABCを検討した。(……)
(…中略…)
第五章は、児童福祉法及び少年法第三次改正、犯罪者予防更生法制定過程、青少年問題対策協議会設置過程(1948年1月~1949年6月)における厚生省と法務府の青少年不良化防止対策所管をめぐる議論である。(……)
終章では、結論として以下の三点を挙げた。第一に、被占領期の児童福祉政策は、GHQの民主化政策の先取りと厚生省の歴史的課題解決のための抵抗という要素で構成された混合型改革であった。ここから、児童福祉法における総則と内容の「乖離」が生み出された。第二に、児童福祉法研究会等が指摘してきた「一般児童」と「要保護児童」という二分法的対象理解とは異なり、児童福祉の「対象」把握やそのカテゴリー名には、GHQにおいても、厚生省児童局においても、かなりの変遷がある。またGHQの関心も、厚生省の抵抗も、司法省所管の非行・「不良児」保護が中心にあり、司法省解体を契機として14歳未満の犯罪少年及び18歳未満の虞犯少年を児童福祉法に吸収する形で決着したことになる。第三に、残された歴史的課題である青少年不良化防止対策の所管問題は、結果的にGHQ構想の「連携的統合」方針に沿った形となった。これは基本的に各省の財政難が主な理由である。
なお本研究における限界として二点指摘した。第一にアクターとなった厚生官僚の歴史的課題認識についての、より掘り下げた検討である。第二に文部省と重複した厚生省の「健康及び文化」についての議論の検討も残されている。
上記内容は本書刊行時のものです。