書店員向け情報 HELP
出版者情報
在庫ステータス
取引情報
戦争社会学
理論・大衆社会・表象文化
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2016年10月
- 書店発売日
- 2016年10月15日
- 登録日
- 2016年10月5日
- 最終更新日
- 2016年10月5日
紹介
2015年の日本社会学会大会シンポジウムのテーマ「戦争をめぐる社会学の可能性」をベースに、第一線の社会学者たちが、これまで社会学が正面から向き合ってこなかった「戦争」と社会学理論や現代社会・文化との関連などについて掘り下げて分析する。
目次
序 戦争をめぐる社会学の可能性[関礼子]
1.社会学はいかに戦争と向き合うか
2.プログラムに書かれなかった「わたしの戦争体験――ピカドンが襲いかかった日」
3.「わたしの戦争体験」が語らう「終わりなき戦争」
4.社会学が戦争を主題化することの意味
5.越境、表現、継承をめぐる社会学的応答
第1章 戦争と社会学理論――ホモ・ベリクス(Homo bellicus)の発見[荻野昌弘]
1.社会学における戦争の不在
2.戦争が生み出す社会変動
第2章 大衆社会論の記述と「全体」の戦争――総力戦の歴史的・社会的位格[野上元]
1.はじめに――社会学における集合性の観察と「戦争」
2.社会記述と戦争の理念型
3.「総力戦」の起源
4.「総力戦」としての2つの世界大戦
5.総力戦論としての大衆社会論/大衆社会論としての総力戦論
6.おわりに――「総力戦」の忘却と拘束力
第3章 モザイク化する差異と境界――戦争とジェンダー/セクシュアリティ[菊地夏野]
1.はじめに
2.戦争をジェンダーの視点で批判する
3.行き詰まり
4.境界を超える――セックス・ワーク論の変化
5.戦争とフェミニズムの関係の変化
6.新たな性の政治の登場
7.おわりに
第4章 覆され続ける「予期」――映画『軍旗はためく下に』と「遺族への配慮」の拒絶[福間良明]
1.「予期」への問い
2.「遺族への配慮」をめぐる欲望
3.「学徒兵の神話」の瓦解
4.予期の転覆と美の虚飾
5.記憶をめぐる「仁義なき戦い」
第5章 戦死とどう向き合うか?――自衛隊のリアルと特攻の社会的受容から考える[井上義和]
1.古くて新しい
2.「未来の戦死とどう向き合うか」をめぐる新しい文脈
3.「祖国のために命を捧げる」というフィクショナルな準拠枠
4.「過去の戦死とどう向き合うか」をめぐる新しい文脈
5.過去の戦死と未来の戦死をどうつなぐか?
第6章 証言・トラウマ・芸術――戦争と戦後の語りの集合的な分析[エリック・ロパーズ]
1.はじめに
2.引揚者の歴史/「会」の起源
3.歴史、証言、トラウマ
4.ナラティブと表象的戦略
5.読むこと、見ること、分析すること
6.結論
第7章 戦後台湾における日本統治期官営移民村の文化遺産化――戦前・戦後の記憶の表象をめぐって[村島健司]
1.はじめに
2.吉野布教所から慶修院へ
3.文化遺産化によって表象される記憶
4.文化遺産化によって表象されない記憶
5.おわりに
第8章 「豚」がプロデュースする「みんなの戦後史」――グローバルな社会と沖縄戦後史再編[関礼子]
1.他人事でない戦後史の来歴
2.愛郷心と無関心とが引き合って「海から豚がやってきた!!」
3.演じられた沖縄戦後史
4.「豚」から「豚」へと「奇跡は巡る」
5.戦争とはグローバルな人の移動を隔てるもの――むすびに代えて
第9章 被爆問題の新たな啓発の可能性をめぐって――ポスト戦後70年、「被爆の記憶」をいかに継承しうるのか[好井裕明]
1.観光地としての原爆ドーム
2.2015年の映像作品から
3.同伴者の実践を見直す意義
4.原点を外さない「被爆の記憶」の継承とは
あとがき――「怒り」をこそ基本に[好井裕明]
前書きなど
あとがき――「怒り」をこそ基本に[日本大学:好井裕明]
(…前略…)
さて本論集を読まれて、みなさんは何を考え、何を感じられただろうか。
戦争と一口に言っても、先のアジア・太平洋戦争だけを指すものでもないし、具体的な人間を殺戮する武器を使用しない冷戦もあるし、国家間ではなく宗教対立や民族紛争も含まれる。また闘う形態もこの70 年で大きく変貌し、軍事社会学や軍事研究など戦後日本で育っていない現実を考え、はたして今の日本の社会学で戦争を捉えることができるのだろうか、また捉えられるとして、いったい戦争とはどのような出来事なのだろうか、という問いが確実に湧いてくる。
社会学がこれまで多様に変遷してきた社会的現実を把握する知的営みだとして、社会学の理論構築にどのように戦争という要素が関連していたのか。そもそもこれまで社会学史とされる専門領域で社会学理論構築と戦争との関連で緻密に調べ、たとえば社会学の巨人と呼ばれる人々がつくりあげた多様な理論と当時の戦争との関わりを検討した研究は存在したのだろうか。たとえば本論集で荻野昌弘が述べているように社会学理論はいったいどのような人間存在を前提として社会や人間関係を考えようとしていたのだろうか。
(…中略…)
今回、本論集に優れた論考を寄せていただいた執筆者たちも、それぞれに戦争への思いや理解、戦争を社会学することの意味や意義、具体的な現象へのアプローチの仕方の違いがあり、多様である。私は、この多様性をいま、「戦争の社会学」というテキストを編纂したりして性急に標準化する必要はないと思っている。そうではなく、本論集でも明確に世代差を感じ取れるし、各研究者が語り出そうとする社会学的な研究成果を十分に味わい吟味し、多様な関心の発露のなかから、戦争をめぐる社会学的実践の可能性を探っていくべきではないだろうか。
(…後略…)
上記内容は本書刊行時のものです。