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東日本大震災後の持続可能な社会
世界の識者が語る診断から治療まで
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2013年3月
- 書店発売日
- 2013年3月29日
- 登録日
- 2013年4月4日
- 最終更新日
- 2013年4月4日
書評掲載情報
2021-11-14 | 読売新聞 朝刊 |
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紹介
シンポジウム「地球にやさしい資源・エネルギー利用へ~東日本大震災から1年」をもとに、3・11東日本大震災以降の社会をどう構想するかを論じる。真鍋淑郎、エルンスト・フォン・ワイツゼッカー、ハンス=ペーター・デュール、米本昌平ら世界的識者による論考。
目次
序文(林良嗣)
第1部 特別講演
第1章 地球温暖化と水――基礎科学から臨床環境学へ(真鍋淑郎)
温暖化と水
1900年以降の急速な温度上昇
温度上昇をもたらしたCO2の上昇
温暖化を予測する
グローバル・グリッド・システムモデルによる乾燥地帯の再現
モデルから算出した全球平均気温の上昇
大気の循環と水蒸気の輸送
温暖化が起きるとどうなるか
温暖化による土壌水分の変化
深刻化する水不足
水問題の診断、そして治療
エコラボトーク(1) 科学的好奇心と社会的使命の遭遇(真鍋淑郎×神沢博)
第2章 ファクター5――資源消費最小の豊かな社会の実現に向けて(エルンスト・ウルリッヒ・フォン・ワイツゼッカー)
持続可能な条件を満たす国とは
資源効率を5倍に高める
グリーンランドで起きていること
今必要な、脱炭素のクズネッツカーブ
脱炭素のための3つの方法
再生可能エネルギーで達成できることとは
1人当たり排出権を平等にするという考え方
豊かさとCO2の排出を切り離すチャレンジ
エネルギー価格を上げる必要性
勝つのは誰か
エコラボトーク(2) 技術効率×社会システム=転換(エルンスト・ウルリッヒ・フォン・ワイツゼッカー×井村秀文)
第3章 エネルギーと原子力利用(ハンス=ペーター・デュール)
地球上の物質、エネルギーは有限
化石燃料は太陽がくれたエネルギーの蓄積
生命、物質は不安定な存在
持続可能性とは何か
我々の現実と直面する問題とは
エネルギースレイブとCO2の排出
なぜ原子力の使用に反対するのか
頼るべきは太陽のエネルギー
エコラボトーク(3) 多様性×協調性=地球環境の持続(ハンス=ペーター・デュール×林良嗣)
第4章 地球変動のポリティクス――温暖化という脅威(米本昌平)
冷戦後の理想主義の終焉と温暖化問題
核の脅威に替わる温暖化の脅威
3・11後の日本がなすべきこと
環境外交――科学政策と外交の合体
東アジアにおける国際共同研究の必要性
エコラボトーク(4) 問題を志向し、垣根をはずして、領域をつなぐように、地球環境問題を考えよう(米本昌平×安成哲三)
第2部 パネルディスカッション
「東日本大震災後に考える持続可能な社会」
《モデレーター》飯尾歩×林良嗣
《パネリスト》真鍋淑郎×エルンスト・ウルリッヒ・フォン・ワイツゼッカー×ハンス=ペーター・デュール×米本昌平
3・11後の持続可能な社会へ向けた論点整理
巨大地震を前提にした国際協力のフレームワークを
エネルギーソースの多様性と原子力
原発事故がドイツに与えた影響
日本は何を選択していくのか
合意、そして、診断と治療に向けて
前書きなど
序文
名古屋大学では、平成21~25年度にかけて、環境学研究科・生命農学研究科・工学研究科からメンバーが集まり、グローバルCOEプログラム「地球学から基礎・臨床環境学への展開」を実施している。本書は、その趣旨に沿った研究教育活動の一環として、平成24年2月29日に中日新聞と共同で開催した国際シンポジウム「地球にやさしい資源・エネルギー利用へ――東日本大震災から1年」の内容をまとめたものである。
このシンポジウムを開催したのは、東日本大震災、そして原子力発電所の事故による壊滅的な被災を体験して1年が経過したときであり、エネルギー源をどうするかに国民の大きな関心が向けられたときでもあった。
本シンポジウムには、名古屋大学特別招へい教授および環境学研究科客員教授であって世界の多くの人に知られる3名の学者と、気候変動に関する国際政策動向に詳しい専門家の合計4名にご参加いただいた。そして、この問題に対して直接的な答えを求めるのではなく、人間社会、国際社会がいかなる視点を持つべきかについての根源的な問いを投げかけ、解決のための大局的道筋を描くべく企画された。
第1部は4名のみなさんによる講演の記録である。
第1章で語るのは、大気と海洋の水のやりとりを組み込んだ数値シミュレータを世界で最初に開発したパイオニアであり、ブルントラント女史、マータイ女史とともに「KYOTO地球環境の殿堂」第1号の一人である真鍋淑郎プリンストン大学上席研究員である。地球水循環の基本原理から、人類の経済活動に伴うCO2排出が地球温暖化をもたらし、旱魃や豪雨・洪水を引き起こすことを解明し、それを乗り越えるために、診断から治療に至るさまざまな学問分野が連携することの重要性をわかりやすく説き起こしている。
第2章で語るのは、資源消費を半減しつつ豊かさを倍増するという「ファクター4」の概念を1992年のローマクラブレポート「第一次地球革命」で提案し、現在ローマクラブ共同会長を務めるエルンスト・フォン・ワイツゼッカー教授である。このように資源効率を高めるには、工業製品などの技術進化とともに、税制といった社会経済システムの再設計も必要であること、そして豊かな生活を送るには、弱肉強食的市場主義に基づく効率追求ではなく、ヒューマニティこそが根底に必要であると説いている。
第3章で語るのは、統一場理論および不確定性理論に関するハイゼンベルクの共同研究者であり核物理学の後継者、そして、ラッセル-アインシュタイン宣言2005年版を編んだ哲学者でもある、マックス・プランク物理学・宇宙物理学研究所名誉理事長のハンス=ペーター・デュール教授である。地球という生命体が太陽の恩恵を受けて地下資源を蓄えてきた過程、そして動物や植物と共存してきた人類が産業革命によって化石燃料を使い始め、さらには核エネルギーを手にしたことによって地球生命体のバランスを崩す大罪を犯す結果となったことを説いている。
第4章で語るのは、地球環境問題、バイオエシックス、遺伝、医療などの問題に鋭く切り込み、科学技術文明論を展開する科学史家であり思想家である米本昌平氏である。ここでは、地球温暖化問題が冷戦終結とともに政治課題となったいきさつや、予防原則に基づき科学的知見を参考に対応が進められた稀有な例であることを示したうえで、この問題についての日本の役割を論じ、人口や食料といったマルサス主義的問題設定から、温暖化の被害とアジア等の国際間協力、巨大地震・津波など自然の脅威も因子に入れた新しいフューチャオロジー(未来学)への転換の必要性を説いている。
以上の4名の講演を受け、第2部のパネルディスカッションでは、飯尾歩中日新聞論説委員と私がモデレーターとして加わり、次のような議論が展開された。
(1)東日本大震災を経験した日本は、自然の脅威として、大気に蓄積するCO2がもたらす気候変動と同様に、地殻に蓄積するひずみがもたらす巨大地震を位置づける立場にあること
(2)文明を維持し人々の幸福を獲得するためのカスケード的な方法を探求すべきであること
(3)地球から資源を盗んで儲けることにほかならない、非持続的な化石燃料や原子力に依存する考え方を転換し、太陽エネルギーに頼るべきであること
(4)素晴らしい文化の下にエネルギー効率を上げてトップの競争力を獲得した日本のサクセスストーリーを再現すること
(5)核廃棄物は高エネルギーによって完全に破壊してしまうのが唯一の最終処分方法であって、それはコスト的に実現不可能であること
シンポジウムのゴールとして、人類が地球の資源を略奪するのではなく、地球に財産を残して人類以外の生命システムと共存できる能力を備えるために、技術の向上とともに、アウェアネスを重視しつつ社会経済・政治システムを再構築して、自らも将来世代も幸せに生きていくことのできるサイクルを築いていく道筋への多くのヒントが示された。
(…後略…)
上記内容は本書刊行時のものです。