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多文化社会の偏見・差別
形成のメカニズムと低減のための教育
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2012年4月
- 書店発売日
- 2012年4月20日
- 登録日
- 2012年4月17日
- 最終更新日
- 2012年5月31日
紹介
偏見はどのように形成され、人を苦悩させるのか、そして偏見低減のためにどのような可能性と実践があるのか? 偏見形成のメカニズムに関する実証データや行動観察、当事者の語りを考慮し、社会心理学の理論とヒューマンライブラリーを中心とした教育実践を詳解する。
目次
はじめに
第1部 多文化社会における偏見形成
第1章 グローバル社会における多様性と偏見(加賀美常美代)
はじめに
1.データから見た日本社会の変化
2.日本の地域社会における外国人との異文化接触と受容
3.外国人留学生の異文化接触における被差別感
4.外国人児童生徒たちの同化要請と排除
5.集団間コンフリクト
6.偏見はどのように形成されるか
7.偏見が生じる原因
8.偏見はどうすれば低減されるか:接触仮説から
9.どのように偏見を低減・解消していくか:シェリフのサマーキャンプ実験から
10.グローバル社会の多様性:対岸の火事にしないために
おわりに
第2章 幼児の前偏見の生成と低減の可能性(佐藤千瀬)
はじめに
1.前偏見とは
2.前偏見の生成と形成
3.前偏見低減の可能性
おわりに
第3章 差別の体験がどのように当事者を苦しめるか──ライフストーリー
3-1 ユニークフェイス(手塚章太朗)
はじめに「ユニークフェイス」とは?
当事者の立場から──「差別」の体験
おわりに
3-2 異文化体験と障がいをもつ家族との関係(坂田麗子)
1.はじめに──私はいつもマイノリティだった
2.帰国子女であること
3.障がい者の姉がいること
4.今回お話ししたいこと
5.いつ頃から障がい者の姉妹であることを意識するようになったか──アルゼンチン~マレーシア時代
6.帰国子女であることの壁──高校時代
7.高校生活でのある変容──高校1年の夏休み
8.高校時代に家庭で抱えていたこと
9.帰国子女であるコンプレックス──大学時代
10.アルゼンチン留学(異文化社会に適応するまで)
11.カウンセリングから始まる自我への目覚め
12.帰国子女に固執する大学院時代
13.過去のステレオタイプからの脱却(アメリカへ)
14.家族との関係性の変化
15.今、私が思うこと
第2部 偏見低減の理論と方法
第4章 偏見低減のための理論と可能性(浅井暢子)
はじめに
1.偏見の形成
2.偏見の低減
おわりに
第5章 大学における偏見低減のための教育実習とその効果(加賀美常美代・守谷智美・村越彩・岡村佳代・黄美蘭・冨田裕香)
はじめに
1.偏見と差別の教育実習授業の目的と概要
2.カテゴリー化・ステレオタイプ・偏見に関する実習授業(1回目)を通した受講生の学び
3.差別と差別解消に関する実習授業(2回目)を通した受講生の学び
4.2回の実習授業を通した受講生の学びの変容
5.偏見・差別の教育実習を通した実習生の振り返り
おわりに――まとめ
第6章 ヒューマンライブラリーとは何か──その背景と開催への誘い(横田雅弘)
はじめに
1.具体的な体験を通して学ぶ教育実践
2.3つの教育実践
3.ヒューマンライブラリーの歴史
4.ヒューマンライブラリーの組織と開催場所
5.ヒューマンライブラリーを開催してみる──開催の手引き
おわりに
第7章 大学におけるヒューマンライブラリーの実践――駒澤大学坪井ゼミの取り組みから(坪井健)
はじめに
1.なぜヒューマンライブラリーに取り組んだか
2.「本」探しとチームづくりのプロセス──苦闘と成長の3ヶ月
3.ヒューマンライブラリー実施のプロセス
4.ヒューマンライブラリーの効果
おわりに──ヒューマンライブラリーのすすめ
第8章 偏見低減に向けた地域の取り組み──オーストラリアのヒューマンライブラリーに学ぶ(工藤和宏)
はじめに
1.オーストラリアにおけるヒューマンライブラリーの広がり
2.リズモー・ヒューマンライブラリーの今
3.オーバン・ヒューマンライブラリー
おわりに
おわりに
編者・執筆者紹介
前書きなど
はじめに
近年、国内外でのグローバル化が進行する中で、文化的に多様な背景をもつ人々との共生は現代的・社会的課題である。異文化間教育学会ではこうした現状を踏まえ、これまで学会大会における公開シンポジウムや特定課題研究などを通して検討してきたが、「偏見形成のメカニズムと偏見低減」というテーマについては、重要かつ深刻な問題であるにもかかわらず、これまで正面から取り組んで来なかった。このような問題意識をもとに、第32回大会公開シンポジウムでは、偏見形成のメカニズムと低減のための教育実践をテーマに、次のとおり課題を設定した。1)偏見はどのように形成されるのか、2)偏見・差別はどのようにその人を苦悩させるのか、3)偏見低減のためにどのような可能性があり、どのような効果的な教育実践があるか、4)社会心理学の理論から研究と実践を交差させ偏見低減の可能性をどのように考えていくかである。これらの課題を研究、実践、理論的側面から、また、マイノリティ、当事者の視点を考慮しながら、多文化社会において多様性の尊重とは何かを探り、誰一人切り捨てられない社会、学校コミュニティを目指し、4名のシンポジストに登壇していただき、多角的な視点から検討していった。
本書はこうした第32回大会公開シンポジウムの報告を土台に、異文化間教育を学ぼうとする学生たちのためのテキストとして、シンポジストの書き下ろし原稿のほかに、海外体験者事例、大学における偏見と差別に関する実践、ヒューマンライブラリーの概説やオーストラリアでの取り組みなどを付加し、まとめ上げたものである。偏見と差別のテーマは重く、解決の見通しの立たないトピックと考えがちであるが、著者たちはそれぞれの立場からそのトピックに対峙し、偏見低減に向けたメッセージを学生たちのこころに届くようにわかりやすく伝えてくれている。
本書は2部、全8章から構成されている。第1部は、偏見の形成メカニズムに関する実証データ、行動観察、差別体験をもつ当事者の事例などを通して示したものである。第2部は、偏見低減の社会心理学的理論と大学における偏見低減の実践活動、ヒューマンライブラリーに関する取り組みなどを示したものである。
まず、第1部の第1章はグローバル社会における偏見と多様性について、日本社会がどのように変化したかを明らかにしたうえで、日本人ホスト側の受容意識はどのようなものか、外国人が感じる偏見はどのようなものか、その現状と偏見形成のメカニズムを探っている。それらを踏まえたうえで偏見低減の可能性とグローバル社会における多様性を容認することはどのようなものか考えていく。第2章は、日本の幼稚園で日本人幼児と外国人幼児(片親または両親が外国籍の子ども)が、どのような前偏見(幼児独自の偏見)を形成しているのかを事例、フィールドワークを通して明らかにする。第3章は差別体験をもつ当事者の事例を2つ取り上げた。事例1では、ユニークフェイスの当事者の立場からこれまでの人生を振り返り、差別体験と対処行動などを語り、障がいをもつ人々の社会的認知の重要性を示している。事例2では、複数の国での海外生活体験と障がいをもつ家族との生活の中で、当事者およびその家族がどのような苦悩をもっているか、半生を振り返り、現在の肯定的自己感に至るまでを語っている。
第2部の第4章では、社会心理学の集団間接触理論を紹介し、それに基づき偏見の低減の可能性について概説している。第5章では大学の異文化間教育関連の実習授業で扱った偏見と差別について、受講生(学部生)と実習生(大学院生)の学びと偏見低減に向けた効果についてデータから分析した。第6章では、世界的に注目されているヒューマンライブラリーの紹介と日本への導入について概説した。第7章では、ヒューマンライブラリーの大学における実践活動について詳細に論じている。この実践を通して、運営者である学生がどのような気づきを得たか、偏見低減の可能性がどのようなものか示した。第8章ではオーストラリアのある都市におけるヒューマンライブラリーの実践とコミュニティにおける根づきと広がりを現地調査から報告している。
(…後略…)
追記
執筆者
佐藤 千瀬(さとう・ちせ)
東京都生まれ。東京学芸大学大学院連合学校教育学研究科修了(教育学博士)。現在、聖学院大学人間福祉学部専任講師、聖学院大学大学院人間福祉学研究科兼任講師。専門は異文化間教育、幼児教育。
[主な著書]『特別支援教育への扉』(鈴木陽子他と共著、八千代出版、2004年)
手塚 章太朗(てづか・しょうたろう)
新潟県生まれ。単純性血管腫(赤アザ)を顔の左半面にもつ。大正大学人間学部人間福祉学科臨床心理学専攻卒。精神保健福祉士。大学卒業後、障がい者福祉施設で指導員、生活支援員として勤務。現在、所沢市社会福祉協議会職員。2010年より「ユニークフェイス」「マイフェイスマイスタイル」に協力し、当事者活動に参加。2010年に駒澤、獨協、明治の3大学で、2011年には駒澤、明治の2大学でヒューマンライブラリーに「本」として参加。
坂田 麗子(さかた・れいこ)
東京都生まれ。早稲田大学日本語教育研究科修了(日本語教育学修士)。早稲田大学日本語教育研究センターインストラクター任期付を経て、現在、韓国ソウル特別市淑明女子大学校日本学科専任講師。専門は年少者日本語教育。
浅井 暢子(あさい・のぶこ)
千葉県生まれ。神戸大学大学院文化学研究科修了(学術博士)。名古屋大学博士研究員、東北大学研究員を経て、現在、京都文教大学総合社会学部特任講師。専門は社会心理学。
[主な著書]Inequality, Discrimination and Conflict in Japan: Ways to Social Justice and Cooperation(共編著、Trans Pacific Press、2012年)
守谷 智美(もりや・ともみ)
岡山県生まれ。お茶の水女子大学大学院人間文化創成科学研究科博士後期課程単位取得退学。博士(人文科学)。桜美林大学非常勤講師、お茶の水女子大学アソシエイト・フェロー等を経て、現在、早稲田大学日本語教育研究センター准教授。専門は異文化間教育、日本語教育。
村越 彩(むらこし・あや)
宮城県生まれ。お茶の水女子大学大学院人間文化創成科学研究科博士前期課程修了(人文科学修士)。現在、同大学大学院博士後期課程在学中。お茶の水女子大学グローバル教育センター非常勤講師。専門は異文化間教育、日本語教育。
岡村 佳代(おかむら・かよ)
静岡県生まれ。お茶の水女子大学大学院人間文化創成科学研究科博士前期課程修了(人文科学修士)。現在、同大学大学院博士後期課程在学中。お茶の水女子大学グローバル教育センター非常勤講師。専門は異文化間教育。
黄 美蘭(こう・びらん)
中国吉林省生まれ。お茶の水女子大学大学院人間文化創成科学研究科博士前期課程修了(人文科学修士)。現在、同大学大学院博士後期課程在学中。江東区立豊洲北小学校にて中国人生徒に対する日本語指導非常勤講師。専門は異文化間教育。
冨田 裕香(とみた・ひろか)
富山県生まれ。お茶の水女子大学大学院人間文化創成科学研究科博士前期課程修了(人文科学修士)。現在、お茶の水女子大学グローバル教育センター教務補佐員、非常勤講師。専門は異文化間教育。
上記内容は本書刊行時のものです。