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多文化社会ケベックの挑戦
文化的差異に関する調和の実践 ブシャール=テイラー報告
原書: Fonder l'avenir : Le temps de conciliation
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2011年8月
- 書店発売日
- 2011年8月20日
- 登録日
- 2011年8月22日
- 最終更新日
- 2012年2月20日
紹介
グローバル化とともに増加する移民に戸惑うホスト社会。民族、文化、宗教を異にする集団への偏見を乗り越え、多文化共生社会を築くことはできるか。現代の民主主義国家が直面する課題に正面から取り組んだケベックの事例はわれわれにとって貴重な指針となるだろう。
目次
日本語版への序文(ジェラール・ブシャール、チャールズ・テイラー)
解題 ケベック・アイデンティティの再構築に向けて――多文化的自由主義からの問いかけ(竹中豊)
多文化社会ケベックの挑戦――文化的差異に関する調和の実践 ブシャール=テイラー報告
はじめに
第1章 「妥当なる調整」委員会
(A)委員会の任務
(B)調査形態およびケベック人の反応
(C)本報告の全般的な方向性
第2章 「妥当なる調整」の危機――それは存在するのか
(A)訴訟事件をめぐる流れ
(B)事実関係とその検証
(C)「妥当なる調整」にたいする不満
第3章 公共機関における調和の実践――現場の状況
(A)「妥当なる調整」の意義
(B)各分野における調和の実践
第4章 ケベックを規定する枠組み――共通の価値規範
(A)既存のガイドライン
(B)統合とインターカルチュラリズム、そのモデル
(C)ケベックにとってのライシテ(脱宗教化)
第5章 「調和」の実践を尊重した政策提言
(A)「妥当なる調整」と協議による和解
(B)3種類のガイドライン
(C)ふたつの論争的な問題
(D)いくつかの事例
第6章 批判的意見への回答
第7章 変容するケベック
(A)アイデンティティをめぐる不安
(B)西洋諸国における多様性の挑戦
(C)不平等と差別
(D)未来に向かって
第8章 最優先されるべき勧告事項
結論
訳者あとがき
巻末資料 ケベック州データ集
前書きなど
日本語版への序文(ジェラール・ブシャール/チャールズ・テイラー)
このたび、われわれの報告書が日本語に翻訳されるはこびとなり、まことにうれしくかつ光栄に思う次第である。これには十分な理由があるわけで、われわれにとってもきわめて重要なことだと考えている。
われわれの調査委員会報告書は、カナダおよび北アメリカのなかのケベックの状況という、きわめて特異な、しかも独自のかたちをとりながら変化の渦中にある状況を扱っているわけだが、しかしわれわれの取り組んできた問題は、普遍的なものである。われわれは、すべての民主的国家が直面している挑戦と無関係ではないのである。その挑戦とは、民主的社会として機能するのに必要な凝集力を維持しつつ、どのようにして真に開かれた社会を構築したらよいのかというものである。そこから誕生した社会とは、多様な民族をこころよく受け入れ、正義が実践される社会なのである。
歴史が示すように、非民主的な社会といえども異なるアイデンティティをときとして認めていたし、ある程度の自治も与えていた。よく例に出すのだが、オスマン帝国や、ムガール帝国、その後継者であるイギリスのインド統治がそれにあたるだろう。とはいえ、より正確にいえば、かれらはその社会自身の手で統治するほどの役割を認めたわけでなかった。それと対照的に、デモクラシーにはかなり高度の凝集力とみずから属する政治社会への一体感が要求されるのである。おのずと、その社会に帰属するのは本当はだれなのか、あるいはだれが帰属しないのか、という問題を投げかけることになる。
現代の民主的社会がたとえどのような形態をもつにせよ、多様性を共通の目的意識と結びあわせようとする挑戦は、どこの民主的社会でも直面していることである。われわれもまた、しかりである。
さらに、こうした挑戦にわれわれがいかに最善のかたちで対応すべきかについて、思慮深い研究と他の民主的社会との比較研究を進めることで――その挑戦が民主的社会のためにわき起こり、かつ対応を誤らないかぎり――、お互いに学びあうことが可能であると、われわれは考えている。ケベックに関するわれわれの報告書は、ケベック以外のカナダ、アメリカ合衆国、そして多くのヨーロッパ諸国の状況と対比できるものであり、かつ差異を反映した内容となっている。
われわれは、本報告書の日本語版の刊行が、国際的な比較研究をめぐる議論の枠組み拡大に貢献することを期待している。こうした議論は、グローバリゼーションの一環として、経済、文化、そしてコミュニケーションといったさまざまなレベルで、早い段階で実施されうるであろうし、かつ時宜にかなうものでもある。これによって、われわれはより一体感を強めることになるだろう。読者のみなさんはお気づきだろうが、ここ数年来、ケベックは民族文化的な関係や文化的統合をめぐって、独自のアプローチを展開してきている。その結果、登場したモデルが、インターカルチュラリズムである。それは、社会における多様性の問題に立ち向かおうとするものである。つまりインターカルチュラリズムとは、二元主義というレンズを通して物事をみる考え方であり、マイノリティ文化と共生を図ろうとする大勢派ないしはマジョリティの文化なのである。したがって挑戦全般にいえるのは、お互いの未来を約束する方法で両者の関係をつなぎとめ、を回避し、緊張関係を緩和し、共通の価値を促進し、そして全市民の権利を遵守する、という点である。
われわれのささやかな議論が、日本における同種の議論にたいしても有益な要素を提供できるのであれば、これに勝るよろこびはない。こうした議論が、ここケベックや他の国々においても広がっていくことで、国境を越えた、より普遍的な考察へとフィードバックされていくからである。
上記内容は本書刊行時のものです。