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南アフリカを知るための60章
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2010年4月
- 書店発売日
- 2010年4月20日
- 登録日
- 2010年5月25日
- 最終更新日
- 2012年1月19日
紹介
アパルトヘイト撤廃後は観光客が増え、映画やスポーツなど文化の面でも、南アフリカは身近な国になった。だがこの国に、格差拡大やエイズなど大きな社会問題が横たわっているのも事実である。この国の全体像を知るための絶好の入門書。
目次
はじめに
地図
I 南アフリカの成り立ち――歴史、人種、エスニシティ
第1章 南アは「アフリカ」の国である──多数派を占める先住民の歴史
第2章 「白いアフリカ人」の誕生──アフリカーナー社会の形成と大移動
第3章 イギリス人、コーサ人、「ゴールドラッシュ」の時代──南ア史の大転換
第4章 人種隔離からアパルトヘイトへ──アフリカ大陸をさまようナチスの亡霊
【コラム1】 南アのユダヤ人左翼
第5章 土地法から強制移住へ──アパルトヘイトの根幹をなした土地問題
第6章 反アパルトヘイト運動の展開──ANCに流れ込んだ3つの潮流
【コラム2】 国旗と国章
第7章 ズールー王国の勃興とシャカ──神話から歴史へ
第8章 「カラード」の歴史──歴史がつくった「カラード」
第9章 インド人社会の形成と「サティヤーグラハ」──ガンディーが過ごした21年間
【コラム3】 国花と国歌
II ポストアパルトヘイト時代の政治
第10章 「虹の国」としての再出発──1994年を振り返る
第11章 ポストアパルトヘイト体制への移行と暴力の再生産──政治暴力と「タクシー戦争」
第12章 真実和解委員会(TRC)を通じた和解の模索──その限界と意義
第13章 ANCはどこへ行く──南アフリカ共産党との歴史的関係を通して見えてくるもの
第14章 「闘いは続く!」──都市の社会運動・労働運動とANCの緊張関係
第15章 マンデラ、ムベキ、ズマ──個性豊かな指導者群像
第16章 国民党の消滅と民主連合の伸長──ポストアパルトヘイト時代の白人政党
【コラム4】 核兵器を廃絶した南ア
第17章 伝統的指導者の新しい役割──「伝統」と「近代」の分裂は超えられるか
第18章 スティーヴ・ビコと黒人意識運動の遺産──変わったこと、変わっていないこと
【コラム5】 エイミー・ビール事件
III 世界が注目する経済
第19章 「レアメタル」がないと車は走らない──日本の自動車産業を支える南ア鉱業
第20章 「財閥」の変容──アングロ・アメリカンとデビアス
第21章 アフリカから世界へ──資源メジャーBHPビリトンをつくった男
第22章 BEEとブラックダイヤモンド──黒人は豊かになれるか
第23章 拡大する所得格差──なぜ一部の黒人だけが豊かになるのか
第24章 「オール電化」の夢──南アの電力不足とアフリカ電力網
第25章 南ア企業のアフリカ進出──スーパーから携帯電話まで
第26章 スタンダード銀行と中国──南アと中国の深い関係
第27章 世界経済と南ア経済──旺盛な民間活力が強み
第28章 日本企業の動向──自動車・鉱業分野での投資が拡大
第29章 日本と南アの経済関係──過去と現在の鳥瞰図
【コラム6】 お金の話──通貨ランド
IV ダイナミックに変わる社会
第30章 犯罪──市民生活を脅かす南ア社会の暗部
第31章 北から南へ──ジョハネスバーグの多様な顔
第32章 ポストアパルトヘイト時代の社会保障──ベーシック・インカムを中心に
第33章 草の根の国際協力──JVCの活動から
第34章 エイズとともに生きる──タウンシップの苦悩と支え合い
第35章 医療問題──頭脳流出と伝統医療
第36章 ズールー人の魅力──「戦闘的」なだけではない、前向きであったか~い人びと
第37章 ケープタウンでの暮らし──ジョバーグからケープへ
第38章 ジェンダー問題──アフリカ人女性の存在感
【コラム7】 南アの宗教
第39章 土地返還運動からコミュニティの再生へ──ルースブームの事例
第40章 動物保護と共生──クルーガー国立公園を事例に
V 底流をなす文化力
第41章 観光──ひと味ちがう見どころ紹介
【コラム8】 「南ア料理」入門
第42章 雄大な自然と多様な文化──ケープを味わい尽くす
【コラム9】 ワインとルイボス
第43章 南アのスポーツは宗教である──観戦型も参加型もおまかせ
第44章 「遠い夜明け」は来たか──南ア映画あれこれ
第45章 南ア黒人音楽の魅力──大地から響く、魂の歌声
第46章 演劇──「総合芸術」の魅力
第47章 多言語社会──11もの公用語
第48章 教育改革の課題──「読み書きのパワー」を中心に
第49章 アパルトヘイト時代の文学──エスキア・ムパシェーレの仕事を中心に
第50章 ポストアパルトヘイト時代の文学──ゾイ・ウィカムの作品から見える新社会の課題
【コラム10】 厳しさと柔和さと──ノーベル賞作家クッツェー
第51章 マスメディア・出版界──新しい動き
VI 日本と南アフリカ、アフリカのなかの南アフリカ
第52章 21世紀の草の根交流──長野での「実験」
第53章 日本の反アパルトヘイト運動の歴史──JAACの運動を中心に
【コラム11】 反アパルトヘイト運動を支えた出版人
第54章 マンデラ歓迎西日本集会に2万8000人──関西の反アパ市民運動が原動力で開催
【コラム12】 アパルトヘイト否! 国際美術展
第55章 「名誉白人」とよばれた人びと──日本人コミュニティの歴史
第56章 移民──南アと南部アフリカ・世界を結ぶ人の流れ
第57章 モザンビークから見た南ア──関係の歴史
第58章 ジンバブウェから見た南ア──大規模農業とガーデニング
第59章 「サウス・アフリカ」へ続く道──ボツワナのブッシュマンが語る南ア
第60章 「虹の国」とゼノフォビア──アフリカ人としてのアイデンティティ
南アを知るための読書案内
前書きなど
はじめに
(…前略…)
この本の構成について
では、これから各章を読み始める人のために、あらかじめ本の構成を説明しておきましょう。
第 I 部は【歴史編】です。英語で書かれた南アの入門書も大部分は歴史の章からはじまりますが、それには理由があります。南アには「登場人物」が多いので、まずそれぞれのアクターに順番に登場してもらわないと、現在進行中のストーリーに入れないのです。「登場人物」というのは、現代の南アフリカ人を構成する多様な人種・エスニック集団(ないし民族集団)のことです。この第 I 部を読めば、アパルトヘイトの概略とともに、コイサン人、コーサ人、ズールー人、ソト人、ツワナ人、カラード、インド人、アフリカーナー、イギリス系白人、ユダヤ人など、南アのさまざまなコミュニティの成り立ちがわかります。
第II部は【政治編】です。むき出しの暴力をともなう政党間の駆け引きをへて、1994年、南アで史上初の全人種参加の総選挙が実施されました。マンデラ大統領のもとで呉越同舟の連立政府が成立し、アパルトヘイトの過去に区切りをつけるTRC(真実和解委員会)が活動を開始しました。やがて連立は解消され、現在の南アはすでに与野党対決の時代に入っていますが、与党ANC(アフリカ民族会議)の優位はしばらく動かないように見えます。黒人内部の経済格差が拡大するなかで、都市の社会運動の動き、そして農村の伝統的権威の役割からも目が離せません。
第III部は【経済編】です。共通の経済利益には、分断された人びとを結びつける側面があります。黒人富裕層が南ア経済で存在感を強めていることは、ポストアパルトヘイト時代の南ア社会の最大の変化のひとつでしょう。グローバル経済の一部となった南ア経済は、アフリカ大陸全体との結びつきを強めながら、ダイナミックな構造変化を遂げつつあります。このセクションに収録された日本と南アの経済関係の動向分析などは、他の本ではなかなか読むことができません。現場を熟知する執筆者たちによる南ア経済のスケッチは、豊富な具体例とともに読者に迫ってきます。
第IV部は【社会編】です。ここでは、格差の拡大が生み出す犯罪問題からはじまって、社会保障、医療、ジェンダー、土地改革、環境保護などの問題が多面的に議論されていきます。経済成長の恩恵を受けられない庶民の暮らしに焦点を絞りつつも、民衆を「かわいそうな犠牲者」とはとらえない姿勢が、すべての執筆者に共通しています。このセクションの最大の特徴は、現地在住のNGO関係者の皆さんに健筆を振るっていただいたことでしょう。ジョハネスバーグ、ダーバン、ケープタウンという「南ア三大都市」に密着した現場報告に、南アの民衆に囲まれて働く人たちの心意気を感じとってください。
第V部は【文化編】です。2010年のサッカーW杯とともに、南アの観光とスポーツに関する情報もかなり手に入るようになってきましたが、このセクションには現地在住者によるひと味ちがう観光ガイドを盛り込みました。それから、映画・音楽・演劇・言語・教育・文学・出版事情の紹介が続きます。反アパルトヘイト文化の豊かな蓄積を背景に、ポストアパルトヘイト時代の新しい文化の息吹が伝わってくるはずです。ここでも、執筆者の皆さんの好みを前面に出して書いていただくようにお願いしました。南アでは文化は単なる添え物ではなく、力そのものです。
第VI部の【国際関係編】は、前半が「日本と南ア」、後半が「アフリカのなかの南ア」というテーマで構成されています。
まず前半では日本と南アの関係を、反アパルトヘイト運動を軸に振り返ります。南アの人種差別問題を「わがこと」としてとらえる運動は、日本でも1960年代から存在しており、94年のマンデラ政権成立直前には数万人、数十万人の人びとを集める実践が展開されました。過去に人の往来があり、多くの人びとを巻き込んだ市民運動、文化運動があったことは、未来の日本・南ア関係の礎になっていくと思います。
後半では、南部アフリカ地域のなかに南アを位置づけます。南アは隣国の人びとの目にどう映っているのか、周辺の国々を研究している人たちに自由に論じていただいたのも、ユニークな特徴になっているはずです。この本の冒頭の第1章では、広大なアフリカにはもともと国境など存在しなかったことが指摘されています。では、国境を越えて南アにやってくる他国のアフリカ人たちは、今の南アで、どういう扱いを受けているのでしょうか。南アが本当にアフリカの一部になれるかどうかは、これからの課題です。
(…後略…)
2010年3月21日 峯陽一
上記内容は本書刊行時のものです。