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歴史認識共有の地平
独仏共通教科書と日中韓の試み
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2009年9月
- 書店発売日
- 2009年10月1日
- 登録日
- 2010年2月18日
- 最終更新日
- 2011年6月27日
紹介
かつての敵国間で、歴史認識を共有することはできるのか? 独仏共通歴史教科書の制作に携わった学識経験者をはじめ、日中韓の歴史に関する研究者、共通歴史教材の関係者らが「歴史認識」共有についてのヨーロッパでの実情、東アジアでの可能性を真摯に語り合う。
目次
序文(フランソワーズ・サバン)
独仏教科書歴史問題プロジェクトに寄せて(ウーヴェ・シュメルター)
序章 仏独共通歴史教科書の射程――使用現場調査と東アジアへの展望(剣持久木)
第I部 独仏和解から独仏教科書へ
第1章 歴史政策と市民社会の狭間で――教科書や教科書を巡る対話は国際理解への促進力となるのか(ジモーネ・レシッヒ)
第2章 仏独共通の歴史教科書――フランスとドイツの歴史家の協力の要石(コリーヌ・ドゥフランス)
第3章 仏独歴史教科書の製作過程――2003-2008年(イヴ・ボーヴォワ)
第4章 独仏対話の長期視点からみた歴史教科書(クリストフ・コルネリーセン)
第II部 東アジアにおける共通の歴史叙述の可能性
第5章 東アジアにおける共通の歴史認識の探求(リオネル・バビッチ)
第6章 日中間の歴史共同研究からみた教科書問題(川島真)
第7章 日韓における共同の歴史的叙述の可能性(木村幹)
第8章 日韓歴史対話と共通教材の作成(君島和彦)
第9章 日本と韓国・朝鮮の歴史を書く(宮原武夫)
終章 共通歴史叙述と和解――東アジアにおける「歴史の政治化」と「歴史の歴史化」(小菅信子)
あとがき(剣持久木/小菅信子/リオネル・バビッチ)
前書きなど
はじめに
国境を越えて歴史認識を共有することは可能だろうか。歴史事実は共有できるが、「歴史認識」の共有は不可能であるし、めざすべきでもない、という考え方は少なくない。そもそも国民国家の成立要件の中に、言語、宗教などとならんで「歴史を共有する」ことが重要な要素として含まれている。この場合の「歴史」とは、国民国家が「想像上の共同体」であるならば、歴史的事実というよりは「認識」を指していると了解すべきであろう。国境を越えて歴史認識を共有するということは、とりも直さず国民国家を超越することでもある。一進一退の足踏み状態ではあるものの、EUという超国家形態に足を踏み出したヨーロッパにおいて、共通教科書構想いわば国境を越えた歴史認識の共有が現実のものとなっているのは、偶然ではない。もちろん、そのヨーロッパといえども、仏独教科書がそれ以上の展望を持ちうるか、つまりヨーロッパレベルの共通教科書が可能かどうかはまったく未知数である。現時点では、フランスとドイツの高校生向けの歴史教科書一種類の刊行がはじまったというにすぎない。
とはいえ、仏独共通歴史教科書の意義ははかり知れない。これまで仏独はもちろん、ヨーロッパさらには世界各地で、国境を越えた共通の歴史教材を作るという試みは多かった。しかしながら、「教科書」となると次元が異なる。国定、検定など国によって教科書の位置づけはさまざまであるが、そもそも同一国内でもさまざまな事情で同一の教科書を使用することが困難な地域も多い。今回の仏独教科書のドイツがまさにそうである。連邦制のドイツでは16の州で共通に使える教科書は、科目を問わずこれまで存在しなかった。仏独共通教科書は、国境を越える以前に、16の州ではじめて共通に使うことが認められた教科書である。
筆者は仏独共通歴史教科書の今後の可能性を探ることを課題としているが、さしあたり本稿では、それを考える際の材料として、誕生の経緯、教科書の中身さらには教育現場での使用状況について、現時点で入手しうる情報ならびに、現地で行った調査などをもとに整理を試みてみよう。まず、共通教科書誕生の直接のきっかけとなった仏独青少年議会について、ついで共通教科書の概要を検討し、さらに2008年春と秋に、フランスとドイツで実施した、高校の使用現場の視察状況を報告し、最後に、共通教科書の射程を東アジアのコンテクストのなかで展望する。
(…後略…)
上記内容は本書刊行時のものです。