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人権の政治思想
デモクラシーの再確認
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2009年6月
- 書店発売日
- 2009年6月1日
- 登録日
- 2010年2月18日
- 最終更新日
- 2010年2月25日
紹介
慶應義塾大学法学部の名物講義「人権論」(250人受講)の講義録をもとに再構成。「人権」を多角的な視点からとりあげ、思想の源泉をキリスト教から探るほか、現代思想における「ポストモダン」「政治的なるもの」といったキーワードから紐解く。
目次
はじめに
イントロダクション――現代における「人権」とは?
1 今なぜ人権か
2 人権とは何か
第 I 章 人権理念の歴史
はじめに
1 人権理念の普遍化と国際化
(1)世界人権宣言
(2)フランス人権宣言
(3)アメリカ諸州憲法の権利章典(Bills of Rights)
2 十七・十八世紀の政治哲学と「思想・言論の自由」
(1)自然権と社会契約説――ロックとルソー
(2)イングランド・ピューリタン革命とアメリカ・ピューリタニズム
[1]個人主義と職業労働観
[2]生活倫理の組織化
3 宗教改革の「自由」と自然法
(1)ルター――良心の自由
(2)カルヴァン――信仰・結社の自由
(3)中世スコラ哲学のキリスト教的自然法(lex naturae)と自然権(jus naturalis)
第II章 現代人権思想の理論的根拠
1 現代思想の諸状況
(1)神々の闘争――価値の多元化と文化の多様化
(2)価値のニヒリズムと存在のニヒリズム
2 人間の尊厳と倫理的命令に対する主体性
(1)「人間の尊厳」への融合
(2)人間「存在」に対する「当為」規範はどこから来るか?
(3)「仮構」としての基準の「虚構」化
第III章 現代人権思想と政治理論
1 近代的人間「強い個人」から現代的人間「弱い人々」へ――自己吟味から連帯へ
2 市民社会の形成と展開――中小社会集団のネットワーク
3 「非政治的なるもの」と「政治的なるもの」――政治権力の価値中立性
4 社会(society)と統治体(government)――法の支配(Rule of Law)の原理とその適用
第IV章 デモクラシー
1 「公共性」解釈――市民の主体的行為
2 統治権力の正当化原理とその責務
(1)憲法は人権擁護のために創造された
(2)全体社会内での調整作業
3 政治機能の限定
(1)社会的調和の創成と維持・展開
(2)政治組織の手段的価値
おわりに
ブックガイド
索引
前書きなど
はじめに
本書は、私が二〇〇四年三月まで在職していた慶應義塾大学法学部の政治学科二年生に対して開講されていた、政治思想特殊講義の「民主主義思想論」の講義内容(一回九〇分、十四回分)を大幅に加除修正したものである。
本書の成り立ちが右のごときものであり、そして多くの方々に人権に関する知見を広く、深く知っていただきたいので、私は本書が通勤・通学の電車の中で読めるように努力した。読者におかれましては、通読途中で内容に理解困難な箇所、疑問が湧く箇所に出会った場合は、そこを通過して先に進んでくださることをお願いしたい。読了し、全体像を把握して初めて、途中のその種の箇所の意味が判明することがありうるからである。
「主題」が人権理念とデモクラシーの再考であるため、この二つを説明・啓蒙するための「変奏」は必然的に多岐にわたった。一見、複雑な展開になっているので、理解を容易ならしめるために、理論的基礎である私自身の人間観を明示しておきたい。
人間は、その能力が不十分かつ不完全なゆえに、文化的存在として生存していくためには他者との連帯と共住が必須である。この点に鑑み、人間は自己の相対性を自覚すべきなのである。そのうえ人間は自分自身を超えた何者か、「超越的絶対」(聖なるもの)を自覚的か、無自覚的かの差異はあろうとも求めている存在である。この意味で、人間は単なる動物とは異なり、形而上的動物であり、道徳的動物であるといえよう。それゆえ、人間の尊厳は、人と超越的絶対との関係性において確保されるというのが、私の基本的立場である。
右のごとき人間観に立つゆえ、私は人間存在そのものを最高価値とし、そして近代の人権思想を生み出してきた近代啓蒙思想に全面的には与することができない。私自身の思考枠組みの中では、それは批判的に包摂されるべきものである。換言すれば、輝かしい成果を有する人類の知的遺産としての近代啓蒙思想は、否定ではなく肯定しつつ超克すべきものと私は考える。「問題の所在」を発見していただくために、人権理念の思想史的展開を逆にたどったのは、この私の意図によるものである。
日本社会の中に人権思想が定着し、成長発展していくことに本書が貢献するならば、著者の望外の喜びとするところである。
上記内容は本書刊行時のものです。