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発達障害と思春期・青年期 生きにくさへの理解と支援
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2009年6月
- 書店発売日
- 2009年6月4日
- 登録日
- 2010年2月18日
- 最終更新日
- 2015年8月22日
紹介
発達障害者が思春期以降に抱えるさまざまな課題を理解し、より効果的な支援を行うためのガイダンス。非行や犯罪、性やひきこもりといった問題から、就学、就労、結婚生活まで、家族、地域、大学、職場などが理解を深め、本人とともに支援のあり方を探る。
目次
はじめに
第1章 発達障害者が抱える思春期・青年期の課題
1 現代の若者にとっての思春期・青年期
2 発達障害者にとっての思春期・青年期
3 さまざまな課題とその克服
4 保護者の心配と不安
5 まとめ
第2章 自我同一性獲得における課題
1 はじめに
2 青年期の発達課題
3 事例
4 「発達障害者」の青年期の問題
5 おわりに
第3章 性における課題
1 はじめに
2 性に関心が向く思春期
3 思春期に生じやすい性の問題
4 性の課題の解決
5 事例
6 さいごに
第4章 就学における課題
1 はじめに
2 大学での発達障害をもつ学生の状況
3 学生相談室での支援のあり方
4 困り感による援助の差異
5 大学での組織的な対応
6 おわりに
第5章 触法行為に見られる課題
第1節 触法行為をしてしまう発達障害者への支援
1 はじめに
2 “枠”からの逸脱としての触法行為
3 広汎性発達障害(PDD)と触法行為
4 注意欠陥多動性障害(ADHD)と触法行為
5 支援の留意点
第2節 性にからむ触法行為
1 はじめに
2 家庭裁判所から見た性非行
3 調査官が見た性非行と少年たち
4 発達障害のある少年の性非行の特徴
5 性非行に至る要因
第3節 危険因子から見た非行理解――発達的視点から少年非行を捉える
1 はじめに
2 暴力的行為(反社会的行動)についての基礎理解
3 非行の危険因子とは
4 危険因子の限界
5 非行の保護因子とは
6 縦断的発達研究の知見から
7 日本の少年院研究から
8 非行の予防と少年の立ち直りに向けて
9 厳罰化傾向との関連
第6章 ひきこもりに見られる課題
1 はじめに――ひきこもる青年たち
2 さまざまな苦難――ひきこもりに至るプロセス
3 過去の不適合の後遺症
4 再生のための支援
5 今後に向けて
第7章 就労における課題
第1節 就労前段階における課題とアプローチ
1 はじめに
2 発達障害のある青年・成人の実態と課題
3 本人への支援
4 家族への支援
5 今後の課題
第2節 就労における課題
1 発達障害者支援法と就労
2 ワーキングプアと発達障害
3 発達障害者の就労上の問題
4 ソーシャルスキルと発達障害
5 事例
6 発達障害者に対する具体的就労支援
第8章 恋愛・結婚生活における課題
第1節 家庭における発達障害者の課題
1 はじめに
2 思春期の恋愛における課題
3 結婚生活における課題
4 子育てについての課題
5 離れて暮らす親と子の問題について
6 結婚生活における課題の克服のために
第2節 結婚生活における発達障害者支援に向けての課題
1 はじめに
2 家事調停について
3 意思能力と家庭裁判所技官
4 事例
5 考察
第9章 保護者と家族の願い
1 はじめに
2 思春期の当事者とその家族が困っていること
3 思春期の当事者の自己理解と保護者の心配
4 障害の告知の状況
5 自立に向けての思春期の課題と支援
おわりに
前書きなど
はじめに
† 本書の目的
発達障害という概念が医療だけでなく、教育、保育、福祉、司法の現場に急速に入ってきました。そして、発達障害についての理解や支援が広がりつつある中、法整備も進められてきています。ところが、思春期・青年期の発達障害者に対する理解や支援に限って言えば、乳幼児期・学童期のそれと比べて、かなり立ち遅れています。例えば、就学や就労がうまくいかずに不適応感を増し、精神障害を患う発達障害者が意外にいることは多くの人には知られていませんし、ひきこもりの若者の中にかなりの割合で発達障害者が含まれていることもあまり知られていません。
いずれにせよ、発達障害者にとって思春期・青年期を乗り越えるハードルは高く、その支援が足りないのが実情です。特に、この時期の発達課題はそれまでの課題とは少し異質で、抽象性や個別性が高いため、それを克服するには今までとは違う対処方法が要求されます。ここまでなんとか発達段階をクリアーしてきたのだから、思春期・青年期もやり抜けると楽観的に考える人がいるかもしれませんが、現実はなかなか厳しいものがあります。例えば、思春期には性についての感覚を身につける課題であったり、自分らしさというアイデンティティを獲得する課題があるわけですが、これまでのようにいくら教科書を覚えても身につくものでもありません。また、保護者や周囲の者が一から十まで教えることも不可能です。
ここ数年、思春期・青年期の発達障害についての書籍が次々出されていますが、このことはこの時期の課題が多方面にわたっている上、支援の方法も画一されたものにはならないことを何より物語っていると言えましょう。その中で、もっとも早い時期に思春期・青年期の発達障害について論じた『青年期の自閉症』(E・ショプラー、G・G・メジホフ編、中根晃、太田昌孝監訳、岩崎学術出版社、一九八七)には、「自閉症児は青年期において特定の能力においてはある改善を示すのだが、彼らの進歩の速度は彼らが成長するにつれ科せられる増大する要求に対応するには不十分である」と記載されています。つまり、この時期の発達課題の克服を求められる速度は彼らの成長の速度よりも早く、自閉症者にとってはこの時期はとてもハードになるということです。だからこそ、発達障害者の思春期・青年期への理解と支援は、それまでの発達段階以上に手厚いものが必要なのです。
本書では、まず第1章で発達障害者にとっての思春期・青年期がなぜたいへんなのかを概論として取り上げます。第2章から第7章までは各論で、その分野で専門となされている各執筆者に担当をしてもらいました。いずれも思春期・青年期の重要なテーマとなる「自我同一性」、「性」、「就学」、「触法行為」、「ひきこもり」、「就労」についてのものです。そして、第8章は青年期の終盤から成人期にかけてのテーマである「結婚」を取り上げました。この分野は書籍や論文ではまだほとんど論じられていないところです。そして、最終章では発達障害者をもつ保護者の立場から論じてもらいました。
このように見ると、思春期・青年期の大きなテーマがほぼ網羅されているかと思います。発達障害を抱えるご本人やその家族、あるいは発達障害者を支援する人々に本書を手に取っていただき、一つでも多くのヒントを得ていただけるなら幸いです。また、これから思春期・青年期の発達障害者について学ぼうとしている方には、本書を教科書的に活用していただくこともできるのではないかと考えています。
† 発達障害者と出会うこと
もう一つ、編者として本書を企画した理由があります。それは、発達障害という言葉は社会にかなり広がってきているのですが、それが一人歩きをしてしまっていることが危惧されます。発達障害という言葉には出会っても、発達障害をもつ人には出会っていないと感じる場面にしばしば出くわすことがあるためです。
「発達障害は○○という特性がある」といった理解だけでは決して発達障害、あるいは発達障害者を理解したことにはなりません。単なるラベリングをするだけのものでは困ります。また、発達障害者本人も発達障害という診断がついたからといって、生活全体がスムーズにいくわけでは決してありません。大切な点は、発達障害者それぞれの得意と不得意、強みと弱みといった全体を見通しながら、個々人の生き方にあった支援を編み出していくことです。それを志向することが、本当の意味で「発達障害者と出会うこと」ではないでしょうか。
本書は、読者のお一人お一人が発達障害者との出会いを考えていただく機会になればとの思いもあって生まれました。そして、その発達障害者との出会いは、われわれ現代人が忘れ去ろうとしている人と人とのつながりやコミュニケーションのあり方を、もう一度考えさせてくれているように私には思えてなりません。
(…後略…)
上記内容は本書刊行時のものです。