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グローバル対話社会
力の秩序を超えて
- 出版社在庫情報
- 在庫僅少
- 初版年月日
- 2007年9月
- 書店発売日
- 2007年9月4日
- 登録日
- 2012年2月24日
- 最終更新日
- 2012年2月24日
紹介
覇権国の「単独行動主義」と「グローバル化」によってもたらされる混沌の渦中から、どのようにして対話に基づくグローバル社会を展望し、実現するのか? 安全保障、南北格差克服、社会的連帯の可能性を具体的に追究する、気鋭の論者七人による学際的論文集。
目次
第一章 序 分断された世界と対話に基づく世界秩序(遠藤誠治)
第二章 北東アジアの地域安全保障とミサイル問題(黒崎 輝)
――地域ミサイル管理を構想する
第三章 EUにおける国境と文明の境界(上原良子)
――越境し対話する空間へ
第四章 ヨーロッパ社会モデルの現在と対話的グローバル・社会秩序(野田昌吾)
第五章 グローバリゼーション時代のNGO・市民社会のアドボカシー活動(高柳彰夫)
――開発と貧困をめぐって
第六章 社会的紐帯の政治哲学(宇野重規)
――トクヴィルを中心に
第七章 グローバル化からグローバル対話社会へ(小川有美)
あとがき(小川有美)
索 引
前書きなど
あとがき
二一世紀の世界は、平和で退屈な「歴史の終わり」(フランシス・フクヤマ)の午睡にまどろむ間もなく、二〇〇一年九月一一日アメリカ同時多発テロ事件と、ジョージ・W・ブッシュ政権の下でのアフガン戦争、イラク戦争により、平和喪失の歴史を刻むこととなった。「新しい戦争」(メアリー・カルドー)や、「現実界の砂漠」(スラヴォイ・ジジェク)と言われる今日の紛争は、暴力とヴァーチャル・イメージ、テクノロジーと宗教・アイデンティティ、軍事と民間の交錯する前代未聞の事態として映るが、そこには対話の不在、そして単独行動主義(ユニラテラリズム)という、きわめて復古的な政治(あるいは前政治)が、グロテスクに増幅されていきり立っている。
単独行動主義を特定の指導者の暗愚や狂信に帰してしまえるなら、彼らの政権交代や失脚によって、われわれはほどなく文明化された世界に戻ると期待できよう。しかし、現代の最も洗練された戦略知は、単独行動主義を乗り越えるどころか、それをひたすら推し進めている。経済学者竹田茂夫のゲーム理論批判(『ゲーム理論を読み解く――戦略的理性の批判』ちくま新書、二〇〇四年)は、次のようなエピソードを紹介している。ある女性政治学者が「防衛知識人」の集まる大学のセンターを訪れた。知的で上品な彼らの世界は、「第一打」「限定核戦争」「クリーンな爆弾」「外科的な打撃」「付随的ダメージ」(すなわち人命)といった専門用語で充足されており、それが正視できない現実とあまりに隔たっていることに、彼女は違和感を覚える。しかし、彼女も二、三週間その内側にいるうちに、そのインサイダーとなってしまった、と。
竹田は「戦争ゲーム」の依拠する、対話なき「独房の理性」を批判する。それは暴力に直結するだけでなく、人々の多様な社会関係や、駆り立てられゆれ動く心理、あるいは構造的暴力、伝染病といった、単純にとらえられない文脈(コンテクスト)を捨象してしまう。われわれは本書において、「対話」という多面的で洗練されない概念に立ち戻ることによって、グローバル世界の混沌の中で、人々が共同で歴史を再建するための構想が可能であるかどうかという問題に取り組もうとした。それはすぐれて政治学的な課題であり、また「文明論」よりもマルチレベル(多層)の現実の中に手がかりが埋もれていると考えられることから、われわれは国際政治学、国際協力論、欧州統合論、比較政治、政治哲学の諸分野から、共同でアプローチする方法をとった。そこから掘り起こされたのは、お題目にとどまる「対話」ではなく、安全保障の代替選択肢と信頼醸成、「境界線」から「空間」への関係転換、市民社会のはらむ南北格差の克服、個人化の中の連帯と社会的紐帯のように、「対話」を変化に接続していく架橋の政治である。
なお、今回残念ながら論文を収録できなかったが、朝鮮半島史と核抑止の専門家として研究会に参加され、つねに「もう一つの視点」から世界を見ることを促す議論とペーパーを提供してくれた、マーク・E・カプリオ立教大学法学部准教授の貢献を特にここに記しておきたい。
最後になるが、この共同研究の機会は、(社)生活経済政策研究所の自主研究「新グローバル秩序研究会」(二〇〇四年七月~二〇〇五年一〇月)によって与えられた。学際的と銘打って平板に終わる共同研究も見受けられる中で、真に活気のあるフォーラムをつくっていただいた立役者は、同研究所主任研究員の小川正浩氏である。同氏の論文「もう一つの選択肢がある」(『生活経済政策』No. 86、二〇〇四年三月)は、本書を生み出す種となった。本書を通じて「グローバル対話社会」という「もう一つの選択肢」を示せたかどうかは、創造的思考と批判の精神をもつ読者の判断に委ねたい。
執筆者を代表して 小川有美
上記内容は本書刊行時のものです。