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キー・コンピテンシー
国際標準の学力をめざして 〈OECD DeSeCo(コンピテンシーの定義と選択)〉
原書: KEY COMPETENCIES FOR A SUCCESSFUL LIFE AND A WELL-FUNCTIONING SOCIETY
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2006年5月
- 書店発売日
- 2006年5月8日
- 登録日
- 2010年2月18日
- 最終更新日
- 2015年8月22日
紹介
国際化と高度情報化の進む現代世界に共通する学力とは何か? 単なる知識や技能の習得を越え,共に生きるための学力の国際標準化をめざして,私たち一人ひとりの人生の成功と,良好な社会の形成への鍵となる概念を提示する。OECD DeSeCo(デセコ)の成果。
目次
日本語版によせて(アンドレア・シュライヒャー)
本書の内容と構成―監訳者序文(立田慶裕)
第1章 政策と実践にみるコンピテンスの優先順序(ローラ・H・サルガニク、マリア・スティーブン)
第2章 コンピテンスのホリスティックモデル(ドミニク・S・ライチェン、ローラ・H・サルガニク)
第3章 キー・コンピテンシー―人生の重要な課題に対応する(ドミニク・S・ライチェン)
第4章 期待される成果―人生の成功と正常に機能する社会(ハインツ・ジロメン)
第5章 国際コンピテンス評価をふり返って(T・スコット・マレー)
第6章 国際学力評価のための長期戦略の開発(アンドレア・シュライヒャー)
終 章(ハインツ・ジロメン)
コンピテンシーの定義と選択[概要](OECD DeSeCo Executive Summary)
PISAとキー・コンピテンシーの定義/概観/キー・コンピテンシーの基礎/フレームワーク:枠組み/コンピテンシーの3つのカテゴリー(カテゴリー 1:相互作用的に道具を用いる、カテゴリー 2:異質な集団で交流する、カテゴリー 3:自律的に活動する)/調査研究の実施と生涯学習支援への活用/研究の経緯―専門家と各国の協働による総合作業
前書きなど
●日本語版によせて
今日の社会は、人々に多くの挑戦的課題を与え、人々は生涯のいろいろな場面で複雑な状況に直面しています。グローバリゼーションや近代化は、ますます多様で多くの人とのつながりを持った世界を作りだしているのです。個人としてこの世界を意味づけ、よりよく生きるために、人々は変化する技術を身につけ、大量の情報の意味を知る必要に迫られています。また、社会の集団としての課題に応じるために、環境的には持続可能性とのバランスを保って経済成長を行いながら、社会的な公正を実現する必要があるのです。こうした背景の中で、私たちの目標を実現するために必要な能力(コンピテンシー)は、ますます複雑となり、狭い意味で限られた技能を身につけるだけでは不十分な時代となっているでしょう。
(中略)
DeSeCoプロジェクトは、教育に関するOECD事業の本質的部分を形作っています。それは、コンピテンシーの定義が、OECDの新しいプログラムであるPIAAC(成人能力の国際評価プログラム)やPISA(OECD生徒の学習到達度調査)といった教育調査のさらなる発展を導くことができるからというだけではありません。こうした調査研究は、たしかに青年や成人が人生の挑戦に対してどのように備えることができるかという問いへの回答を得る助けとなります。しかし、それだけではなく、DeSeCoプロジェクトは、学校教育システムや生涯学習の包括的な目標を確かなものにしていくという点で、各国を支援することができるのです。
OECD教育局指標分析課長
アンドレア・シュライヒャー
●本書の内容と構成――監訳者序文――
日常生活と人間関係が育む学習の力
私たちがいろいろなことを学ぶ力は、毎日の生活や人間関係の中で育っていく。人として生まれた時から死ぬまで、その力は養分さえあれば育ち続ける。家族や同じ仕事仲間、学校の友人や先輩、そして地域の人々との仕事や食事、遊びといった活動と交流を通じて、食べものや、読む本、テレビや映画、絵、スポーツ、そして毎日の仕事の中で、いろいろな事を学ぶ力が育まれていく。ただし、この学習の力は、単なる知識や技能の習得だけではないだろう。人や物事への関心の強さや好き嫌いは、学習のきっかけとして大切だろうし、疑問を持ち、読み、聴き、見る力といった知識や情報の吸収の力とともに、書き、話し、描き、ふるまうといった表現の力、そして学んだことを記憶し、体得し、人に伝え、知恵として活用する力にいたるまでのものもそこには含まれるだろう。
同時に、どの程度のそしてどんな学ぶ力を私たちが持つかによって、日々の行いや人との関係も変わっていく。私たちにできることが増えれば、人はいろいろな仕事を期待するようになるし、私たち自身もまたいろいろな事に挑戦し、自分の住む世界も拡がり、新しい人間関係もできていくからである。
このように、人が学ぶ力は日常生活の習慣や人間関係によって育まれるだけではなく、自分たちの人生や人間関係自体、そして社会自体を変える力を持っているのではないだろうか。その意味では本来、学ぶ力を通じて、私たちは、共に生きることを学びながら、自分の生活や人間関係、そして家族や職場、地域社会を育んでいるといえよう。
コンピテンシーとは何か
知識をしっかりと身につけることは学習の基本である。しかし、いろいろな知識や情報を知っているからといって、その人が人間や社会を理解しているとは限らない。また、ある人のことがわかったとしても、その人のために何かをできるとは限らない。また、何かをできる能力をもっていても意欲があるとは限らない。一方で、何かをしようとする意欲があるかないかが、学習の力を大きく変えるし、できる力を変えていく。好きこそものの上手なれ、である。
読解力の国際調査の結果によれば、読書への関心のあるなしは、その人の属する階層の力以上に読解力の成績を向上させている。何かをしようとする意欲や生きる意欲の有無が学習の力も育てていく。勉強ができるかできないか、仕事ができるかできないかは、単なる学力や仕事力の問題だけではなく、むしろその人自身の根源的な生きる力や考え方、行動の仕方とつながることが明らかになってきた。
近年、企業においては、仕事ができる人とできない人の差異を調べて、実力のある人の特性をコンピテンシーの高い人と呼び始めている。高い業績を持つ人を見ると、旧来の学問的テストや学校の成績、資格証明書と、仕事の業績や人生の成功とはあまり関係がみられず、むしろ次のような行動特性が見られる。
1)異文化での対人関係の感受性が優れている。外国文化を持つ人々の発言や真意を聞き取り、その人たちの行動を考える
2)他の人たちに前向きの期待を抱く。他の人たちにも基本的な尊厳と価値を認め、人間性を尊重する
3)人とのつながりを作るのがうまい。人と人との影響関係をよく知り、行動する
さらに、近年行われたOECD生徒の学習到達度調査(通称PISA)によれば、読解力、数学、科学領域での生徒の知識と技能の分析と評価から、人生における生徒の成功はいっそう広い範囲のコンピテンシーと呼ばれる能力に左右されるのではないかということがわかってきた。
つまり、学習の力を考える時、これまでの知識や技能の習得に絞った能力観には限界があり、むしろ学習への意欲や関心から行動や行為に至るまでの広く深い能力観、コンピテンシー(人の根源的な特性)に基礎づけられた学習の力への大きな視点が必要となってきている。
本書は、こうした問題に答えるために取り組まれたコンピテンシーの国際的な標準化をめざすプロジェクトの成果である。本書では、主に、次の2つの問題が取りあげられる。それは、第一に、私たちは、読み、書き、計算する力と別に、どんな能力(コンピテンシー)を身につければ、人生の成功や幸福を得ることができ、社会の挑戦にも応えられるのか? 第二に、どんな時や場所でも、若い時、年を取ってから、就職の時、新しい職場に入る時、家族を作る時、昇進する時、引退する時など生涯のいろいろな時に、どんな能力(コンピテンシー)が重要となるのか? そして重要なキー・コンピテンシーは、国や地域、年齢や性、階層や職業などの条件にかかわらずどこでもいつでも役立つのか?
個人の人生にわたる根源的な学習の力として、コンピテンシーという言葉を本書では用いる。本書では、コンピテンシーが、学校だけではなく、家庭や職場、地域を含めた日常生活の世界の中で育まれ、この力を身につけることによって人生の幸福や円滑な社会生活を私たちが得られるのではないかということが提案される。
(以下略)
国立教育政策研究所総括研究官
立田慶裕
上記内容は本書刊行時のものです。