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戦争をなくすための平和教育
「暴力の文化」から「平和の文化」へ
原書: Learning to Abolish War Teaching Toward a Culture of Peace
- 出版社在庫情報
- 品切れ・重版未定
- 初版年月日
- 2005年11月
- 書店発売日
- 2005年11月4日
- 登録日
- 2010年2月18日
- 最終更新日
- 2012年4月12日
紹介
対立・紛争を解決する手段として,戦争という手段ににうったえない,戦争を拒否する文化を,どのように定着させるのか。「戦争は人の心の中に生まれるものだから,人の心の中に平和の砦を築く」ためのアクティビティとその背景にある理論を紹介する。
目次
平和教育地球キャンペーンへようこそ
日本語版への序文
第1部 平和教育の現代的視点
序 章 この本の目的と利用
第1章 平和教育地球キャンペーン
第2章 ハーグ・アジェンダにもとづく平和教育の考え方
《ハーグ・アジェンダの中心となる4つの柱》
第1の柱◆戦争の根本的原因と「平和の文化」
第2の柱◆国際人道法・国際人権法とその制度
第3の柱◆暴力的紛争の予防・解決・転換
第4の柱◆軍縮・非武装化と人間の安全保障
第3章 平和教育の目標
《社会的目的と教育的目標》
第1の柱◆戦争の根本的原因と「平和の文化」
第2の柱◆国際人道法・国際人権法とその制度
第3の柱◆暴力的紛争の予防・解決・転換
第4の柱◆軍縮・非武装化と人間の安全保障
第4章 民主的参加型学習のすすめ方
第2部 実践編
序 実践をすすめるために
第1の柱◆戦争の根本的原因と「平和の文化」
ユニット1 地域のなかのピースメーカー
ユニット2 ピースヒロイン・ピースヒーロー
ユニット3 暴力について調べる
ユニット4 多様性と差別
ユニット5 歴史上の失敗――19世紀のチェチェン戦争を例にして
ユニット6 平和な未来へのビジョン――コーラ・ワイズの提案
第2の柱◆国際人道法・国際人権法とその制度
ユニット7 子どもの権利条約
ユニット8 子どもを保護する
ユニット9 ニーズ・権利・人間の尊厳
ユニット10 子ども兵士をなくす
ユニット11 市民法廷
ユニット12 小さな勇気が世界をかえる――ワンガリ・マータイの活動
第3の柱◆暴力的紛争の予防・解決・転換
ユニット13 大切な経験を共有する
ユニット14 対立のおこりと変化――子どものための物語を使って
ユニット15 傍観者の役割と責任
ユニット16 相手の考えと直面する――対立や争いにおける青年の役割
ユニット17 よい聴き手になる
ユニット18 対立について考える
第4の柱◆軍縮・非武装化と人間の安全保障
ユニット19 軍縮・非武装化事典づくり
ユニット20 正義と平和を求める参加への階段
ユニット21 女性・平和・安全保障
ユニット22 良心的兵役拒否
ユニット23 グローバリゼーションによる暴力――人間の安全保障への課題
付 録
1 21世紀の平和と正義のためのハーグ・アジェンダ
2 公正な世界秩序のための10の基本原則
監訳者のあとがき
翻訳担当者一覧
前書きなど
序文 この本の目的と利用
今こそ、国連の当初の目的である「戦争の惨害から将来の世代を救う」ということを、実現するときである。これがまさにハーグ平和アピールの目標である。(ハーグ・アジェンダ「前文」)
《この本の目的》
この本は「平和の文化」をきずき、戦争をなくすという、きわめて重要な課題に正面から立ちむかう平和教育に役立つものとして計画された。
1999年5月、世界中から1万人もの市民が集まりオランダでひらかれたハーグ平和アピール市民社会会議(ハーグ平和市民会議)では、戦争をなくすという大きな共通の目標が掲げられた。世界各地域からのさまざまな平和運動をすすめている多様な世界観や文化を背景とした人びとによって、話しあいがなされ、あらたな世紀に平和を実現するための50の勧告、すなわち「21世紀の平和と正義のためのハーグ・アジェンダ」(ハーグ・アジェンダ)がこの会議で採択された。そして、ハーグ・アジェンダの目標を達成するには、まず、普遍的な平和教育が土台とならなければならないということになったのである。この目標を達成するために会議に参加した平和教育者によって、平和教育地球キャンペーンが立ちあげられた。そして「平和の文化」の実現にむけて平和教育地球キャンペーンをすすめるために、この本が刊行されたのである。この本によって人びとが平和教育に関心をもち、仲間をひろげ、平和教育がいっそう推進されるよう願う。この本は平和教育地球キャンペーンをすすめ、ハーグ・アジェンダが示すあらたな教育を展開する可能性の息吹をこれまでの平和教育に吹きこむものとなるであろう。
この本は20世紀の後半に進展した平和教育の実践や理論を発展させたものである。これらの進展はさまざまな国でなされたのであるが共通の特質がある。まったくことなった状況で実践されている平和教育研究からも、多くの平和教育者は影響をうけてきた。たとえば国際平和研究学会の平和教育コミッションや、世界教授カリキュラムカウンシル、国際平和教育研究集会、ユネスコ協同学校などの国際的な組織や学会によるネットワークや交流によって国際的な運動がおこってきた。
これまでのさまざまな平和教育の実践や理論、またこれまで開発された多くのカリキュラムもこの本とあわせて、再度参照されたい。この本は平和教育を定義づけることやすべての分野を紹介する概論書を意図したわけではない。この本は平和教育のあり方のひとつの提言であり、よりひろい学習のあり方を知るには各章の最後にあげた参考文献・資料を参照していただきたい。
平和教育の入門としてこの本は役にたつであろうが、おもにはハーグ・アジェンダによって示された平和教育のあらたな枠組みをあきらかにするのが、ねらいである。ただし、ハーグ・アジェンダをそのまま、そのとおりに教えようというものではなく、とくにハーグ・アジェンダの提言に焦点をあて、意義のある平和教育の実践を示そうとするものである。しかし、ハーグ・アジェンダにはっきりあらわされている考えや目標にもとづきながらも、この本は20世紀のおわりの20年間、平和教育が蓄積してきた包括的なアプローチからなりたっている。紛争解決や開発教育、人権教育、軍縮教育(非武装化教育)などの、関連するさまざまな分野をひとつに統合する包括的平和教育のアプローチを、この本は重視しているのである。われわれは戦争の体制をなくし、「平和の文化」にもとづく人間の安全保障に転換するための価値や技能、知識を教える実践的で、包括的な平和教育を活性化させたいと思っている。また、「平和の文化」を実現するための教育を可能にする、実質的な基盤である制度改革をハーグ・アジェンダは勧告している。
包括的な平和教育の目的に、またよりいっそうひろいハーグ・アジェンダの目標にかなうようにするために選ばれ、計画されたカリキュラムを追究する教育方法やアプローチ、手順の概要を、この本は示している。これらの目標がこの本の内容を構成する構想や基準である。この本は全世界的な平和教育運動としてひろがりをもつよう、できるだけさまざまな国や地域から実践例を集めるようにつとめた。多様な事例は戦争をなくすための学習の可能性をゆたかに示すものである。しかし、この本にある実践例は、北米や英語圏からのものが主であって、地域的なかたよりがある。今後、幅ひろく事例を求め、地域的なバランスをはかるようにしたい。
《この本の利用にあたって》
この本は平和教育地球キャンペーンがすすめている、教員養成担当者や実際に教室で教えている小中高校教師の研修での使用を前提として構想された。教員養成の指導者が、平和教育はもとより教育方法、教育哲学、教職教養などの講義にもちいることができる内容となっている。また、第2部は、小学校や中高校の教師にとっては、授業にすぐに使える授業案の事例集でもあるが、本来のねらいは、この本を参考に、教師が自分自身で授業を計画することにある。各国の教育省や他の教育行政機関が、この本をユネスコの平和・人権・民主主義教育に関する総合的行動要綱(1994)を実現する指針にするとよい。第2部で示されるカリキュラムの様式は、実践に関する基本的情報を示し、カリキュラムづくりのひな形となるよう考案された。
この本は短期の教員ワークショップや学校および国、自治体、教育関係団体による教員研修にも役立つものになっている。第1章で述べているように、さまざまな文化圏の教材や教員研修のすすめ方についても、ハーグ・アピール平和教育地球キャンペーンは教育者の理解をはかる。ハーグ・アピール平和教育地球キャンペーンのウエッブサイトには、この本にある以上の教材やカリキュラムがあるので活用されたい。
この本はたがいに関連し、かつまとまっているが、一部分をとりだすこともできる。とおして読むと平和教育の目的や方法についての簡潔な入門になる。また、地球市民のための平和教育という構想で、平和教育をはじめようとする、あるいはさらにすすめようとする教育者のための学習計画の事例集でもある。この本によって、より多くの人が平和教育地球キャンペーンに参加することもねらっている。第2部の実践例は、実際の使用を前提としており、いずれもそれぞれの現場で選択し、使いやすいように加工して利用されたい。その際は出典を明記し、成果の共有を期待するものである。その成果は、今後検討され、ハーグ・アピール平和教育地球キャンペーンのウエッブサイトなどで提供される。
平和教育にこれからとりくもうとする教師にとっても、ハーグ・アジェンダによって提供される考え方やアプローチを学ぶのにも、この本は役立つものである。とくにみずからの教育活動に理論的な見通しをえたいという教育者に有用である。また、教員養成の担当者には、第1章および第2章の理論的根拠や構想が、教育原理や教育哲学、教職教養の講義において役にたつとおもわれる。教育方法の担当者には学習目標と方法についての第3章および第4章が、現場の教師には授業事例集である第2部が有用である。いずれにしろ第2章をよく読み、この本の戦争をなくすための教育の構想がハーグ・アジェンダにもとづいていることをふまえ、ハーグ・アジェンダ、また国連人権宣言および国連憲章を理解することが好ましい。全般をつうじて、平和教育地球キャンペーンは、包括的平和教育を実現するという根本的なテーマに貫かれ、あらゆる教育が平和を実現する手だてになるようにとりくむべきであるということが、この本の主旨である。
上記内容は本書刊行時のものです。