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読んで学べるADHDの理解と対応
どうしてうちの子は落ち着きがないの?
原書: HYPERACTIVITY: WHY WON'T MY CHILD PAY ATTENTION?
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2005年4月
- 書店発売日
- 2005年4月30日
- 登録日
- 2010年2月18日
- 最終更新日
- 2015年8月22日
紹介
「どうしてうちの子は落ち着きがないの?」と悩む親のために書かれた,多動の子どもの支援を目指す解説書。支援の第一歩は,親,教師,地域の専門家がお互いの困難さを理解し合うところから始まる,とADHDへの対応をわかりやすく説いたADHD入門の書。
目次
日本語版によせて(上林靖子)
はしがき
はじめに
第1部 多動とその原因
第1章 多動とは
多動に共通してみられるもの/多動な子どもはどのくらいいるのか?/多動な子どもはいずれも過活動か?
第2章 子どもの多動を評価する
あなたのお子さんには多動の問題があるのでしょうか?/疑いがかかったら、さてどうする?/正確な診断に必要な情報/多動の診断への5つのステップ/検査終了後に期待されること/診断が本当に意味するものは何か
第3章 多動の原因
出産時の脳損傷/病気/てんかん/薬の副作用/食品/鉛/耳の感染症/遺伝/脳損傷/ADHDの脳モデル
第2部 多動な子どもの実態
第4章 ティムは多動な子どもか単なる4歳児か
乳児期/幼児期/親は何をすべきなのか/何ができるのか、何をなすべきなのか
第5章 友達を作ることは無理なことなのか?
友達を作り、友人関係を保つための方法/攻撃性への対応のための提案
第6章 学校での多動な子ども:合わないところに無理やりはめ込む
親が学校の問題に対処するにはどうしたらいいのか?/最適な教室を見つける/宿題を手伝う/全ての多動な子どもたちが特殊学級で学ぶべきか?
第7章 家庭での多動な子ども:スケープゴート
いろいろな誤解/親は何をすればいいのか
第8章 青年期、成人期のADHD:成功する人しない人
多動な子どもの青年期/成人の多動/医学的要因以外で子どもの将来に影響するもの
第9章 多動な子どもが困るその他のこと
反抗的態度の問題/行為の問題/うつ病/不安/適応上の問題/言語面の問題/聴覚処理の問題/記憶の問題/学習の問題/知能/特異的な認知の問題/その他の医学的問題
第3部 親にできること
第10章 かなわぬ夢か:上手な子育てへの4つのステップ
成功への4つのステップ/親の介入のスタイル/役に立つ戦略
第11章 さまざまな治療の必要性
薬ではスキルを補えない/薬物療法/ペアレントトレーニング/学校/商業的な治療法/どう考えるといいのでしょうか?
第12章 適切な薬物療法のあり方
リタリン治療の危険性/薬物療法の効果/薬物投与のテクニック/10代に対する薬物療法/成人/リタリンの徐放剤/メチルフェニデートのジェネリック医薬品/他の中枢刺激剤/三環系抗うつ剤/安定剤/他の薬物療法/薬物療法に代わるもの
第4部 結びのことば
第13章 最後に伝えておきたいこと
成功のためのチェックリスト
監訳者あとがき
索引
前書きなど
ADHDで悩む子どもと親のために―日本語版刊行を推す― サム・ゴールドスタイン、マイケル・ゴールドスタイン両博士による『ADHDの理解と対応:hyperactivity』が日本に紹介されることになったことは一臨床家として喜ばしい限りです。著者らは、臨床の現場に根ざした研究者で、彼らによる臨床家向けの専門書『児童期のADHDの臨床(Managing Attention Deficit Hyperactivity Disorder in Children)』は、最新の研究をふまえた実践的なガイドブックとして国際的に高い評価を得ています。本書はADHDの子どもに関わる親や教師、その他の各種機関の人々に向けられており、簡潔な中にも科学的に検証されてきた事実に依拠する姿勢が貫かれ、読むものに確かな情報を提供しています。 わが国では1998年にNHKの報道番組『クローズアップ現代』でADHDが取り上げられたのを契機に急速に社会的関心が高まりました。その後、医療では診断治療のガイドラインを求めて臨床的な研究が重ねられ、教育においては特別な教育的ニーズとその支援に関心が集まっています。2004年12月に成立した発達障害者支援法は発達障害者の心理機能の適正な発達及び円滑な社会生活の促進をうたっています。ADHDはこの法律で発達障害として規定されました。 このようなADHDに関する各種の取り組みの発展が、ADHDをもつ子どもの人生を豊かにすることを願っています。そしてその鍵は、世の中にADHDについての知識をひらきおこし、理解を深めることにあるといえましょう。確かにADHDということばは広く知られるようになりましたが、正しく理解されているとは言えない現状があります。本書は科学的研究と臨床をもとにして、障害に気づくための評価や対応の実際に触れており、間違いなく、ADHDの理解を一歩進めることに寄与し得ると確信しています。 本書は、1992年に出版され、すでに10余年が流れました。この間には、アメリカ精神医学会の診断基準の改訂もありましたし、研究は精力的に展開されてきました。遺伝子解析、脳の画像研究など病因・病態に迫る研究が行われてきました。成人のADHD も明らかになり、新しい薬物がいくつか開発されました。 本書の主題である「ADHDの理解と対応」に関わる成果は、次の2点に集約されます。まず、ADHDの基本障害は自己コントロールの発達における問題とするモデルです。もう一つはサム・ゴールドスタインがADHDの治療目標を2つとして、ADHDの症状を軽減し、それによる支障を最小限にするという従来の目標に加え、欠くことのできない要因として困難な状況を速やかに克服する能力を開発する機会をあたえることを上げていることです。彼はこれを立ち直る力(resilience)として研究を続けており新しい成果を発表しています。 ADHDの基本的欠陥は自己コントロールの発達の問題であるとする見解が研究の中で明らかになってきました。以前は、本書でも記されているとおり、注意集中できないことが基本問題と考えられていました。今日ではそれはADHDの一つの表れであるとみなされるようになっています。ADHDをもつ子どもはある条件において集中できなくなります。それは繰り返し、努力がいる、通常は面白くない状況です。このような状況はどんな子どもでもうれしいものではありません。それでもADHDでない子は、注意を持続することができます。ADHDの子どもは、自己コントロールの発達に遅れがあり、集中できないのです。 自己コントロールによってひとは考え、計画し、順序立ててものごとを進めることができるようになります。目標に向かい行動を修正したり、欲求不満状態や退屈するようなときでも注意を維持し続ける努力をすることができます。この発達が遅れることが多動性・衝動性などの表れにもなります。 ADHDが自己コントロールの発達の問題と分かったことで、ADHDの対応にも変化が生まれています。薬物療法は症状を軽減するけれども、それだけでは十分ではありません。実際、ADHDの症状とされる多動性・衝動性・不注意などの改善が良好な予後、すなわち生産的な社会の一員として、あるいは充実した幸せな生活に至るのかというと、必ずしもそうではないようです。自己コントロールを学習し、発達を促すための体験を早くから積み重ねるプログラムを用意する必要性はこれからも裏付けられたのです。本書ではすでに包括的な治療として、多面的な取り組みが提案されており、10年を超えてなおその有効性は生き続けていると言えましょう。 私の相談室を訪れた小学1年生の少年を私は今も思い出します。この少年はADHDと書字障害があることが判明しました。診断のために行われた息子の各種評価を通じて、父親自らが同じ障害を持っていることに気づきました。そして「こいつは俺よりもましな人生を送れるだろう」と感慨深そうに漏らしました。長い間この父親を苦しめていて、子ども時代から数々のもめ事を経験していたことを語ったのでした。 本書にちりばめられている科学的な裏付けのある「ADHDの理解と対応」は難問を抱えている子どもたちを明るい未来へと導く道標となることでしょう。2005年4月上林靖子 中央大学文学部 まめの木クリニック
上記内容は本書刊行時のものです。