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出版者情報
台湾、あるいは孤立無援の島の思想
民主主義とナショナリズムのディレンマを越えて
- 初版年月日
- 2021年1月18日
- 書店発売日
- 2021年1月20日
- 登録日
- 2020年12月4日
- 最終更新日
- 2021年1月15日
書評掲載情報
2021-12-25 |
朝日新聞
朝刊 評者: 藤原辰史(京都大学准教授) |
2021-03-20 |
日本経済新聞
朝刊 評者: 大東和重(比較文学者) |
2021-03-20 |
朝日新聞
朝刊 評者: 藤原辰史(京都大学准教授・食農思想史) |
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紹介
台湾は近代以降、清、日本、中華民国、アメリカという複数の帝国による連続的な支配を受け、またその複雑な民族構造のために統一的なナショナリズムや共通の歴史認識の形成を阻まれてきた。台湾の主体化を達成すべく、人々は歴史を紐解き、過去の国家暴力や不正義をただして内部的な分断を乗り越えることを通じて民主化を推し進め、生存空間を共にする者たちの同盟としての「台湾民族」と、多元・民主・平等に基づいて同盟を強化するためのイデオロギーとしての「台湾ナショナリズム」を志向した。しかしそうした内部的な努力にもかかわらず、国際社会においては、主権国家体制からの排除や、新興の中国を含む諸帝国の狭間にあるという地政学的構造に起因する現実政治の桎梏を自力で克服することはできず、その命運はいまなお強権によって掌握されている。
台湾の市民社会はそうした賤民(パーリア)的境遇を自覚的に引き受け、新たな帝国と資本主義による支配に対抗することを通じて逆説的に民主主義を深化させた。そしていまや普遍的価値を台湾社会に体現することに世界への回帰の道を見出し、行動している。
政治学者による20年におよぶ思想的格闘の集成。
目次
フォルモサ、香港、日本に献げる――日本語版への序文
序 幸福な島にて
I 窮境を脱するために――歴史のヴェールをはがす
1 台湾ポストコロニアル・テーゼ――A Partisan View
2 民主化のパラドックスとディレンマ?――台湾ナショナリズム再考
3 国家建設、内部植民と冷戦――戦後台湾における国家暴力の歴史的文脈および移行期正義問題の根源
II 窮境に嵌まりこむ――帝国の狭間で
4 賤民宣言――あるいは台湾の悲劇の道徳的意義
5 比較史、地政学、そして日本において寂寞の内に台湾を研究するという営みについて――ベネディクト・アンダーソンへの応答
“De courage, mon vieux, et encore de courage!”――ベネディクト・アンダーソンへの手紙
III-1 再び、窮境を脱するために――ニーチェ的カント主義者の夢想
日本「我は一個の他者である」
6 反記憶政治論――日台関係の再構築にかかわる歴史学主義の観点
7 賤民の救済と過去の償い――「村山談話」をめぐる一台湾人の省察
8 最も高貴な痛苦――大江健三郎『ヒロシマ・ノート』『沖縄ノート』における日本への郷愁
世界「虐げらるるものの解放、沈めるものの向上、自主独立なるものの平和的結合」
9 道徳の政治的基礎を論ずる――南アフリカと台湾との移行期正義モデルにかかわる初歩的比較
10 琉球共和国に捧ぐ――一台湾人による松島泰勝『琉球独立への道』読解
11 リリパット人たちの夢――香港ナショナリズムにかかわる思索ノート
12 歴史と自由の弁証法――香港における「国民教育科」推進問題をめぐる内省
13 ユートピアへの航行――「小国の魂」について
III-2 再び、窮境を脱するために――社会的意志の創造
14 社会運動、民主主義の再定着、国家統合――市民社会と現代台湾における市民的ナショナリズムの再構築(2008-10年)
15 黒潮論
付録
1 民主、平和、守護台湾(1996年3・22世界キャンドル守護台湾民主運動宣言)
2 野イチゴをしてわれわれを団結せしめよ(2008年野イチゴ運動に捧げる詩)
初出一覧
戦後台湾政治史関係年表
訳者あとがき
上記内容は本書刊行時のものです。