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出版者情報
幕末的思考
- 書店発売日
- 2017年11月16日
- 登録日
- 2017年10月20日
- 最終更新日
- 2017年11月6日
書評掲載情報
2017-12-23 |
日本経済新聞
朝刊 評者: 成田龍一(日本女子大学教授) |
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紹介
幕末から明治への列島の歩みは、暗から明への昇華ではない。それは、列強による開国への圧力を前に、尊皇攘夷から尊皇開国への転向とその隠蔽、新政府の正統性の急造を伴いながら、慌しい近代国家建設を余儀なくされる過程であった。しかしそこでは、植民地化への危機感と理不尽への抵抗を糧に、普遍的価値のうえに新社会を構想する思考が、徒手空拳で模索されてもいた。中国や西欧からの輸入ではない、この国に地生えの思考が育まれる契機は、しかし、生みの親でもある対外的「危機感」に圧迫され、皇国主義イデオロギーの席巻という試練のなかで影を潜めていった。帰結の一つは、現在も続く第二極の不在である。
本書は、「明治維新」という事後的な枠を通しては見えてこないその思考――幕末的思考――の系譜を、吉田松陰、中岡慎太郎、坂本龍馬、福沢諭吉、中江兆民、北村透谷、夏目漱石、朝河貫一、中里介山らに辿り、その画期性を歴史の行間にあぶりだした精神史的試論である。松陰の「やむにやまれぬ大和魂」の射程、中岡と坂本の連携を支えた地べたの普遍感覚、私情こそ公的なものの源泉であると見た福沢や、後発近代社会こそが民権論を実践できるという兆民の価値転倒の試み、『こゝろ』で「先生」の殉死に託した漱石の抵抗、介山『大菩薩峠』が描く明治がこない世界――。
彼らの未成の思考を紡ぎ直すこと。その今日的意味の切実さを、幕末の人びとの経験は我々に教えている。
目次
はじめに
第一部 外圧
第一章 背景史――最初のミッシングリンク [アヘン戦争/黒船来航と佐久間象山/渡辺崋山と高野長英]
第二章 状況を担う人 [吉田松陰/二つの問答/統整的理念と構成的理念]
第三章 変成する世界像 [攘夷の再定義(横井小楠)/開国の再定義(遣米使節)/攘夷決行]
第四章 変革の主人公とは誰か [「内在」と「関係」の往還/坂本龍馬と中岡慎太郎/草莽の丸テーブル]
第五章 残された亀裂 [転向とその証言者たち/神戸事件・堺事件/相楽総三と赤報隊/小栗忠順と近藤勇]
第二部 内戦
第一章 内戦の経験――第二のミッシングリンク [五か条の誓文/世直し・御一新・維新/戊辰戦争の経験]
第二章 勝者の思考と敗者の思考 [出発の苦しみ/勝者と顕密二元論/官賊範疇と敗者]
第三章 一八七三年のアポリア [岩倉ミッション/西郷隆盛と大久保利通/政府分裂と明六社]
第四章 未成の第二極 [中江篤介の洞察と試行/西南戦争と立法者の消滅/「丁丑公論」]
第三部 公私
第一章 再び見出された感覚――第三のミッシングリンク [市民宗教/『民約訳解』から『三酔人経綸問答』へ/「瘠我慢の説」]
第二章 滅びる者と生き残る者 [離陸する顕教密教システム/北村透谷/夏目漱石]
第三章 敗者における大義と理念 [分岐点としての日露戦争/敗者たちの歴史像/山川健次郎/朝河貫一の場合]
エピローグ――明治がこない世界のほうへ
注/あとがき/索引
上記内容は本書刊行時のものです。