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出版者情報
試行錯誤に漂う
- 書店発売日
- 2016年10月25日
- 登録日
- 2016年8月25日
- 最終更新日
- 2016年10月17日
書評掲載情報
2016-12-04 |
日本経済新聞
朝刊 評者: 佐々木敦(批評家) |
2016-12-04 |
朝日新聞
評者: 大竹昭子(作家) |
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紹介
「私がこの“試行錯誤”ということを最初に思ったのは、パブロ・カザルスの、バッハの『無伴奏チェロ組曲』を弾いているときに聞こえる、弦の上を指が動いてこすれる音と弓が弦に触れる瞬間の音楽になる一瞬間の音だった。どちらもノイズということだが、私はこれを最高級の蓄音機でSPレコードを再生してもらって聴くと、奏者と楽器が自分がいまいるまったく同じこの空間にいると感じられるほどリアルという以上に物質的で、その音からブルースが聞こえた。
弦の上を指が動いてこすれる音や弓が弦に触れる瞬間の音はだからノイズではない。その音が弦楽器を弦楽器たらしめ、チェロをチェロたらしめる。カザルスが弾いた音の中にブルースの響きまであったのではなく、そのこすれる音の中にカザルスの演奏がありブルースもあった。弦楽器が譜面=記号で再現可能な行儀のいい音の範囲を出るときに、奏者の指も体もそこにあらわれ、肉声もあらわれる。(…)
表現や演奏が実行される前に、まずその人がいる。その人は体を持って存在し、その体は向き不向きによっていろいろな表現の形式の試行錯誤の厚みに向かって開かれている」
(本書「弦に指がこすれる音」より)
「私」をほどいていく小説家の思考=言葉。
芸術の真髄へといざなう21世紀の風姿花伝。
目次
1 弦に指がこすれる音
2 方向がない状態
3 果てもなくつづく言葉の流れ
4 書き手の時間・揺れ
5 小説という空間
6 未整理・未発表と形
7 ランボーのぶつくさ
8 一字一句忘れない
9 読者の注意力で
10 作者の位置から落ちる
11 素振りについて
12 小さい声で書く
13 そのつど映るラストの場面
14 意識と一人称
15 読者と同じである作者
16 そこにある小説
17 小説は作者を超える(1)
18 小説は作者を超える(2)
19 書きながら生まれる感じ
20 『朝露通信』通信
21 神に聞かれないように祈る
22 奥の奥の光景
23 おせち料理の絵
24 出会い三題
25 ナットとボルト
26 ザワザワしてる
27 ラカンに帰郷した
28 言葉はいつ働き出すのか
29 論理、自我、エス、スラム
30 全くそうであり全くそうでない
31 下から上に向かって読む
32 運命と報酬
あとがき
上記内容は本書刊行時のものです。