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茶房(タバン)と画家と朝鮮戦争 ペク・ヨンス回想録
- 書店発売日
- 2020年10月23日
- 登録日
- 2020年7月29日
- 最終更新日
- 2020年10月22日
紹介
二つの戦争を生き延びた韓国画家の、情熱的な半生
ペク・ヨンス(1922~2018)は、第二次世界大戦と朝鮮戦争を生き延びた、韓国を代表する画家。その激動の半生を綴ったのが本書である。
日本統治下の朝鮮・水原で生まれ、2歳のときに父が死去、母に連れられ、叔父が住む大阪に転居し、中学卒業後、大阪美術学校で洋画を学ぶ。校長は、吉川英治『宮本武蔵』の挿絵で知られる矢野橋村だった。矢野宅に起居しながら絵を学ぶ門下生としての生活がユーモラスに綴られる。1945年3月、大阪の自宅が空襲で焼け、下関から出る船に転がり込んで韓国に帰国。木浦で朝鮮解放を迎え、ソウルに移り、精力的に創作活動を展開するが、朝鮮戦争が勃発。釜山への避難を余儀なくされる。避難先でも絵を描き続け、53年に休戦協定が成立するとソウルへ帰還し、瓦礫の街で芸術運動の再興に尽力した。
朝鮮戦争勃発時の街の雰囲気や、知人の裏切り、手のひらを返したように変わる世の中と心の動きが率直に綴られ、すべてが貴重な証言となっている。苦しい時代状況でも、芸術への情熱を持ち続けた画家、作家、詩人、映画人らは、ソウルの茶房に集い、ともに語り、創作へと向かった。ざわめきに満ちた明洞の熱気とともに、歴史に埋もれた多くの芸術家たちの姿が鮮やかに浮かび上がる。
日本を第二の祖国として生きたペク・ヨンスの人生と作品を、初めて日本に紹介する貴重な一冊。カラー作品集を併録。巻末エッセイ=堀江敏幸
目次
はじめに
1章 巣立ちのとき 1922年~
雪降る華厳寺の道/帰国、木浦へ/光州/九層庵/智異山の虎/目の大きな子/僕の幼年時代/大阪美術学校時代/函の恋文
2章 茶房の熱気 1947年~
沈亨求とスジェビ/和信百貨店の垂れ幕/朝鮮総合美術展/過渡期の波/アルベール・グランと僕/フラワーと「文総」/朴木月と具常、趙芝薫/徐廷柱とクッパ/紫煙荘/コロンバンとドルチェ茶房/「真昼に月が出た」/金煥基の挿絵/明洞エ
レジー/黒いマフラーのマドンナ/よれよれの『美術概論』/清渓川のほとりで売られていた絵
3章 戦禍のなかで 1950年~
死んだ街/茶房の不気味な空気/マッチ箱の中のメッセージ/何も言わずに/収復後の悲劇/カラムの消息/李仁星の最期/宣撫班/『悪夜』と『春香伝』/サーカス団を追うように
4章 広げた自由の翼 1951年~
束の間の天国/釜山住宅事情/金剛茶房の一日/李仲燮の銀紙画/必勝閣/雨だれのオーケストラ/多島海/新写実派と煙突/夜中に泣いた仲燮/尹孝重の忠武公/三・一節慶祝美術展/ラッキー・ストライク/若き詩人の死/芳名帳/青馬について歩いた近道/第二国民兵/燃える葦/多大浦のスング/芸術文化協会/住みなれた釜山を去る
5章 小さな光 1953年~
明洞のモナリザ/水標橋/放浪の客/東邦サロン/居酒屋 明月館/東邦の個性派/金仁洙の最後の誕生日/明洞の微笑/明洞の男爵/なくなってしまった巣
著者あとがき
解説 白榮洙の人生と時代 境界を越えた自由 与那原恵
エッセイ 絵の片隅にうずくまりたい――ペク・ヨンス頌 堀江敏幸
妻 金明愛インタビュー たくさんの思い出を胸に 聞き手 酒井充子
白榮洙年譜
白榮洙の作品に会いに行こう――美術館案内
上記内容は本書刊行時のものです。