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真理の語り手
アーレントとウクライナ戦争
- 書店発売日
- 2022年11月30日
- 登録日
- 2022年9月27日
- 最終更新日
- 2022年11月24日
紹介
全体主義の時代の基底へ
2022年2月24日、ロシアがウクライナに侵攻し、戦争が始まった。
戦争が始まってから、大量の情報が流れてくる。プーチンの思惑やゼレンスキーの戦略、東西の軍事的分析がその中心にある。
戦争を受けて書き下ろされた本書が注目するのは、『全体主義の起源』を書き、ナチスドイツとソ連の体制の〈嘘〉を暴いたハンナ・アーレントである。
というのも、ブチャの虐殺はじめ、多くの「事実」が〈嘘〉によって歪められているからだ。
こうした事態はいまに始まったことではない。むしろ全体主義体制の本性といえるかもしれない。欺瞞や虚偽は心地よい。圧制下の人々は不意打ちしてくる飾りのない真実より、心地よい嘘を好むのだ。
そして、この戦争をアーレントと同じ眼差しで眺めているのがウクライナの映画監督セルゲイ・ロズニツァだ。彼による『バビ・ヤール』が本書の拠り所になっている。キーウ近郊のバビ・ヤールは「銃殺によるホロコースト」が行われた痛ましい場所だ。
心地よい虚偽にいかに抗していくのか? 本書では、アーレント=ロズニツァに寄り添いつつ、「真理の語り手」の意味を考える。
目次
序章
一 アーレントの時代、ふたたび
二 民主主義 対 権威主義
Ⅰ アーレントと真理の在りか
第一章 政治が嘘をつくとき
一 陰謀論とでたらめと暴力と
二 ペンタゴン・ペーパーズとロシアのプロパガンダ
三 政治の嘘と人命の軽視
第二章 ハンナ・アーレント―― 真理と政治
一 嘘と強弁と陰謀論の宝庫
二 ヒューム的な「人間の条件」
三 真理と世界の存続
四 「事実の真理」の居場所はどこか
五 嘘が真理を凌駕するとき
六 証拠と証言の近代史における「事実」
七 心霊術における証拠
八 歴史の一回性と真理
九 証言者たちは独りである
Ⅱ 映画と政治とナショナリズム―― 知られざるロシア=ウクライナ史
第三章 バビ・ヤール:コンテクスト―― セルゲイ・ロズニツァ、映画と政治Ⅰ
一 政治的映画作家、ロズニツァ
二 アイヒマン裁判と「バビ・ヤール:コンテクスト」
三 バビ・ヤール・ホロコースト・メモリアル・センター
四 ナショナリストを怒らせたもの
五 バビ・ヤールの大虐殺
六 ウクライナ民族主義と「ポグロム」
七 東欧のユダヤ人虐殺と戦後
八 スターリンの反ユダヤ主義政策とバビ・ヤール追悼
第四章 秘密警察への返答―― セルゲイ・ロズニツァ、映画と政治Ⅱ
一 秘密警察とハイブリッド戦争
二 ナチス、ソ連と東欧諸国
三 謝らない国、ロシア
四 ロズニツァ映画にみる「政治における嘘」
五 暴力について
六 眠るロシア、目覚めるウクライナ
七 ロシアの目覚めはどこへ
第五章 芸術とナショナリズム―― ウクライナ映画人の選択
一 戦争が起きる。そして……
二 セルゲイ・ロズニツァのナショナリズム批判
三 アレクサンドル・ロドニャンスキー と「ロシア映画」というカテゴリー
四 デニス・イワノフとウクライナ映画の苦境
五 オレグ ・センツォフと戦闘への「コミットメント」
六 さまざまな出自と背景
七 戦争は、人間の顔をしていない
終章 善と想像力について
付 イェゴール・フィルソフ「ウクライナにて。戦争、死、そして生。」
あとがき
索引/註/ウクライナ基本情報
上記内容は本書刊行時のものです。