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中国を感じる 斎藤 憲二(著/文) - 柏艪舎
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中国を感じる (チュウゴクヲカンジル)

社会一般
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発行:柏艪舎
発売:星雲社
四六判
重さ 300g
224ページ
並製
価格 1,300円+税
ISBN
978-4-434-29460-0   COPY
ISBN 13
9784434294600   COPY
ISBN 10h
4-434-29460-1   COPY
ISBN 10
4434294601   COPY
出版者記号
434   COPY
Cコード
C0095  
0:一般 0:単行本 95:日本文学、評論、随筆、その他
出版社在庫情報
在庫あり
初版年月日
2021年9月15日
書店発売日
登録日
2021年8月2日
最終更新日
2021年10月15日
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紹介

現地で新型コロナウィルスの発生を見聞きした中国初勤務の外務省員が
肌で感じた中国事情を語る!


「嫌い」だけでは済まされない!
あなたの中国観はメディアの影響で凝り固まっていないか?
中国初勤務の外務省員が、コロナ対策、日常生活で感じたままの最新の中国事情をエッセーで綴る


1700日にわたる中国生活を経てつくづく感じたのは、お互いの考え方を理解することはできても共有することは難しいという点だ。しかしまずは理解するところが重要で、その意味では旅行であれビジネスであれ、相手の国民の自家に触れあうことが最も近道だ。(中略)
アフター・コロナの新しい世界では、一人でも多くの日本人、特に若い世代が中国を正面から受け止めて国体の違いというガラスのカーテンに遮られることなく、同世代の中国人と対等に渡り合える時代になることを願ってやまない。
「おわりに」より

目次

目次
・はじめに
・第一章 ゼロ・コロナを感じる
・第二章 重慶を感じる
・第三章 日本を感じる
・第四章 歩いて中国を感じる
・第五章 SNSで中国を感じる
・第六章 伝統思想で中国を感じる
・第七章 会話で中国を感じる(インテリ感覚)
・第八章 会話で中国を感じる(庶民感覚)
・第九章 中国語で中国を感じる
・おわりに

前書きなど

おわりに

重慶の4年8か月はあっという間だった。年齢を重ねるにつれ、1年の経つスピードが加速するのは世の常ながら、それにしてもまさに「時光飛逝」(時は瞬く間に過ぎる)という成語そのものだった気がする。
わたしの祖母は満州開拓団の一員として、黒竜江省のソ連との国境近くに住んでいた。女学生だった母も当時、祖母と離れてハルピンの看護師学校で学んでいた。祖母たちの引揚げまでの中国滞在は6年5か月に及び、わたしより遙かに長い。2人の生前、当時の様子を聞く機会はほとんどなかったが、いつも頭の片隅に中国の存在は残っていた。
在勤中、わたしが自分に課したテーマは、できるだけ「中国をそのまま感じる」ことであった。また何かを見るとき、何かを考えるとき、常に「日本の10倍の人口、25倍の広さ」を意識するように努めた。日本での感覚をそのまま適用しようとすると、どうしても無理があるだろうと直感したからだ。
いざ中国生活を始めてみると、日本では知り得なかった事情が、次から次へと押し寄せ、わたしの未熟な中国認識を激しく揺さぶった。いつも海外勤務の際には、多かれ少なかれ、そのような感覚を味わうものだが、中国の場合、徒にほかの国以上に「頭でっかち」の面があるだけに、それらとのズレを修正するのに手間がかかった。

最も大きな収穫は、中国人に対するイメージが変わったことだろう。
無意識のうちにこれまで植え付けられていた、中国という国と国民を混在しての漠然としたマイナス・イメージは、少なくとも中国人に対しては短い期間に修正することができた。噂に聞く大都市のように人間関係がギスギスしておらず、まさに純朴という言葉がピッタリ当てはまる西南地域の友人たちに恵まれたという点が大きい。おかげで異境の地での新生活に順調に馴染むことができた。
老百姓と呼ばれる庶民は、自分たちの生活の安心・安全に対する意識が極めて強く、それを提供してくれる政府への信頼感が高い一方、日々の食い扶持をどう維持し自己実現していくかという話になると、政府をあてにすることなく自力で何とか開拓しようとする意識が非常に強い。
監視カメラやスマホのアプリなどプライバシーをいつでも監視できる体制も、安心・安全な生活環境が確保できるのであればと自然体で受け入れる。その技術によってコロナの感染拡大をいち早く防ぐことに成功したことで、更に中国式モデルへの自信を深める結果となっている。政府への信頼感という点における日中間の違い、これを実感できたのは大きい。

二番目の収穫は、現在の中国が直面する様々な状況を身近に感じられたことである。
内陸部に位置しながら、どの地方都市に行っても東京都内と見劣りしないほどの発展ぶり、かつそれがまだ現在進行形であるという事実は、日本の高度成長期の勢いを彷彿させるものがある。単にインフラ面だけでなく、スマホ決済をはじめとする新生活様式が末端レベルまで普及していること、社会を揺るがすほどの公害問題がないという点も評価に値する。
反面、絶対的な貧困問題こそ解決したものの、社会主義国家とは思えないほどの経済格差が、この内陸部でも多々見られる。中国語で「隠形的富豪」(外見では分からない金持ち)というが、身なりはごく普通ながら、実はとんでもない金持ちだという人は、想像以上に多い。
中国国家統計局の定義によれば、中間層とは「3人家族、年収10~50万元(約160~800万円)、車あり、自宅あり、旅行可」あたりをイメージしている。重慶で複数のインテリ層の知人に、特に中間層の定義はしないまま、「重慶の富裕層、中間層、低所得層の割合はどのくらいだと思う?」と聞いてみたところ、彼らの答えは「3割、5割、2割」とほぼ共通していた。
富裕層の割合が多いのと同時に、中間層が5割もいると見ている点は予想以上だった。しかもその知人たちは自分をまだ低所得層と認識していると聞き、所得水準に対する意識が内陸部でも急速に成長していることを実感した。
そしてこれらの変化は、日本国内で経済成長を実感できないままにいる、このわずか10~20年間に起こっているという点も、今の中国を理解する上で肝心なポイントだと思う。

三番目の収穫は、日本人にとって理解しにくい中国共産党の統治スタイルについて、若干とはいえ理解が進んだことだ。
党に間違いはなく、その意を汲む政府の指示は無条件に受け入れられるべきという前提に立つ政策。それを実現するための仕組み(忖度、懲罰)と仕掛け(政策を理解するための度重なる会議、社区という毛細血管を通じた執行)。これらが実際に機能している様子を体験できたのは大きい。

国内政治の面では、5年単位の計画と資源の集中、及び広大な国土の隅々まで確立している上記の仕組みや仕掛けを通じ、中国がこの20年間で大きな成果を上げてきたのは、まぎれもない事実だ。
中国の歴史上、国全体の主権を他国に渡したことは一度もなく、紀元前の昔から独自の思想を育みながら現在に至っている。人類の歴史という長い物差しで見ればごく最近に誕生したばかりの自由民主主義は、日本や欧米諸国でこそ定着したが、14億人もの人口を抱える巨大な国で成功した例はかつてない。EU加盟国を全部足しても5億人に満たない。
好き嫌いの問題はさておき、この巨体を自身の方法でまとめ上げ、全国民が飢えないレベルまで成長させてきた実績は、誰もが認めざるを得ない。
他方、経済が成長し国際社会との関係が密になると、その特異な方法が、世界の主流となった欧米的思想と馴染まない点が多いために、色々な場面で誤解とトラブルを生んでいる。
都合の悪い情報は隠す。時には過去の事実さえ塗り替える。データはその場のつじつまを合わせるためのもので連続性は重視しない。他国からの批判は一切甘受できず無条件に批判し返す。これら全てを「中国の特色ある社会主義」という一言で正当性を持たせ、国際社会を説得しようとするのはあまりに無理がある。
中国が大きく経済成長できた理由にしても、けっして自助努力だけでなく、2001年に世界貿易機構(WTO)に加盟し、共通ルールを受け入れる国際社会の一員になったからという事実を、中国政府は再認識すべき時期に来ている。

本著では、2020年前後の中国の実情を、可能な限り実体験と庶民目線で紹介するように心がけた。巷に中国の政治、経済、文化の専門書や評論は数多くあるが、庶民の考え方という次元から国全体の状況をカバーしたものは少ない。
中国は外見上、政治の存在感があまりに大きいために、その付き合い方もとかく政治というフィルターを通して考えやすい。また富裕層のレベル、一部の技術面があまりに突出しているために、経済でもその影響力のみに目が奪われがちとなる。
その影で、拡大する中間層の心理的な国際化は急速に進んでいる。その核となる若者世代の考え方は、より日本人や欧米人に近い方向に向かっている。一例を挙げれば、近年、中国では男女を問わず、赤ちゃんの名前に「涵」という字を入れるのが流行っている。この字には「全てを受け入れる」というニュアンスの願いが込められている。意外な気はしないだろうか? これからの日本との付き合いを考える上でも、彼らがどのような考え方を持っているかを知っておくことは有益だろう。
1700日にわたる中国生活を経てつくづく感じたのは、お互いの考え方を理解することはできても共有するのは難しいという点だ。しかしまずは理解するところが重要で、その意味では旅行であれビジネスであれ、相手の国民に直に触れあうことが最も近道だ。
コロナ前の数年間、人的な交流は中国から日本への「片肺飛行」状態に留まっていた。日本人にはもっと自信と関心をもって中国に足を運び、直に感じ合うという感動に目覚めて欲しいと思っている。
本著を書き上げる時点で、日本ではまだコロナの流行が収まらず苦戦している。一刻も早くこの国難を乗り切り、アフター・コロナの新しい世界では、一人でも多くの日本人、特に若い世代が中国を正面から受け止めて国体の違いというガラスのカーテンに遮られることなく、同世代の中国人と対等に渡り合える時代になることを願ってやまない。
                                        完

著者プロフィール

斎藤 憲二  (サイトウ ケンジ)  (著/文

1961年生まれ。群馬県出身。1986年外務省入省。本省勤務のほか、マレーシア、アメリカ(アトランタ)、アフガニスタン、UAE(ドバイ)の駐在を経て、2016年12月から2021年7月まで在重慶日本国総領事館に次席(副総領事)として勤務。現在、外務省中国・モンゴル第一課地域調整官。著書に『アフガニスタンから見た支援』『株式会社ドバイ』(いずれも柏艪舎)。

上記内容は本書刊行時のものです。