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日本古典書誌学論
- 出版社在庫情報
- 在庫僅少
- 初版年月日
- 2016年6月
- 書店発売日
- 2016年6月13日
- 登録日
- 2016年5月16日
- 最終更新日
- 2023年3月10日
書評掲載情報
2017-05-10 |
日本文学
5月号 評者: 寺島恒世 |
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紹介
書誌学は、文学作品を読み解く上で何の役に立つのか。
巻物や冊子といった書物の装訂や形態にはヒエラルキーがあり、書物とそこに保存されるテキストには相関関係がある。また書物に保存されているのはテキストのみではなく、書物とテキストにまつわる様々な情報も秘められているのである。そうした相関性や情報を把握した上で、作品を具体的に読み解く必要がある。
既存の文学研究では明らかにできなかった事柄を、書誌学的な「読み」によって示す、古くて新しい書誌学の具体的活用法!
【本書にまとめた論文は、「書誌学研究は文学研究において何の役に立つのか」という、世に珍しい書誌学の研究所に所属し、古典籍に囲まれながら書誌学の講義を二十年続けてきた自分にとっての、大きな命題に対する答えとして書いてきたものである。……書誌学は文学研究の基礎を固める学問である、これを疎かにした研究を行うと永遠に真実に辿り着けないのである。既存の文学研究に何が足りなかったのか、そのことを考えることが、書誌学を役立たせる方法をはっきりと教えてくれたのである。】……「あとがき」より
【……内容を深く検討するためには、まずその本文の器たる書物の書誌的な情報を抽出し、それを活かしてその本文の性格や価値を確定した上で、研究に用いるように心掛けることが大切であることを明らかにできたものと確信する。これを行うことによって、誤りが少ないより本格的で深い研究が可能となるのである。……基礎的にして即物的でもあるこの研究方法の有効性は、考察を重ねても揺らぐことはないはずである。】……「おわりに――本書で明らかにしたこと」より
目次
はじめに
□序編
第一章 日本古典書誌学論序説
はじめに
一 和本の装訂の種類
①巻子装 ②折本 ③粘葉装 ④綴葉装 ⑤袋綴
二 装訂と作品の関係
①巻子装 ②折本 ③粘葉装 ④綴葉装 ⑤袋綴
三 装訂の格と改装
おわりに
第二章 日本語の文字種と書物の関係について
はじめに
一 日本語の文字の種類
二 文字種と装訂の関係
三 文字種と版式の関係
おわりに
□第一編 巻子装と冊子本
第一章 冊子本の外題位置をめぐって
はじめに
一 書誌学文献における題簽位置の記述
二 入木道伝書における題簽位置の記述
三 歌書の古写本にみる外題の位置
四 物語の古写本にみる外題の位置
五 外題位置の違いが意味すること
おわりに
第二章 絵巻物と絵草子―挿絵と装訂の関係について―
はじめに
一 巻子装と物語
二 絵巻物という存在
三 絵入り本という存在
四 絵入冊子本の登場
おわりに
□第二編 巻子装と歌書・連歌書
第一章 勅撰和歌集と巻子装
はじめに
一 日本における巻子装
ア巻子装の日本伝来 イ巻子装の地位
二 巻子装と勅撰和歌集
ア勅撰集と巻子本の関係 イ勅撰集奏覧本の姿
三 勅撰集奏覧本の実態
A金葉集(三奏本)・詞花集 B千載集 C新古今集
D新勅撰集 E続古今集 F風雅集 G新千載集
H新続古今集
四 奏覧本の清書者
五 現存する奏覧本
ア『風雅集』竟宴本 イ『新続古今集』中書本・再清書本 ウ伝為家筆『続後撰集』切
エ伝為世筆『新後撰集』・『続千載集』切 オその他の巻子本切
六 天皇周辺の巻子本
おわりに
第二章 勅撰和歌集の面影―『新撰菟玖波集』の巻子装本をめぐって―
はじめに
一 『新撰菟玖波集』の巻子装
二 『新撰菟玖波集』成立に纏わる伝本
ア草案本 イ中書本 ウ奏覧本
三 奏覧本の可能性の書誌的検討
四 奏覧本の可能性の本文的検討
おわりに
慶應義塾大学附属研究所斯道文庫蔵『新撰菟玖波集』存巻一【翻刻】
第三章 巻子装であること―早稲田大学図書館蔵『新撰菟玖波集〔政弘句抄出〕』をめぐって―
はじめに
一 もう一つの『新撰菟玖波集』巻子本
二 『新撰菟玖波集〔政弘句抄出〕』の書式
三 その本文
四 その成立過程
おわりに
早稲田大学図書館蔵『新撰菟玖波集』一軸【翻刻】
□第三編 源氏物語と書誌学
第一章 「大島本源氏物語」の書誌学的研究
はじめに
一 従来の学説
二 従来説への疑問
三 問題点の再検討
四 大島本の奥書
五 大島本の親本
六 藤本孝一氏説の再検討
ア若紫末尾の四行 イ柏木巻末の問題
おわりに
第二章 二つの「定家本源氏物語」の再検討―「大島本」という窓から二種の奥入に及ぶ―
はじめに
一 定家自筆本と奥入残存本文の関係
二 六半定家本の特徴
三 六半定家本の書写時期
四 四半定家本の特徴
五 四半本と青表紙
おわりに
第三章 「大島本源氏物語」続考―「関屋」冊奥書をめぐって―
はじめに
一 「大島本」解釈の問題点
二 「関屋」奥書の解釈
三 大島本「関屋」冊の本文
四 大島本「関屋」冊の書き入れ
おわりに
□第四編 平家物語と書誌学
第一章 書物としての平家物語
はじめに
一 室町時代以前の平家物語写本
『平家物語』古写本の略書誌一覧
二 『平家物語』写本の形態的特徴
三 『平家物語』内題のあり方
四 その他の特徴
おわりに
第二章 巻子装の平家物語―「長門切」についての書誌学的考察―
はじめに
一 「長門切」の基礎情報
二 「長門切本」が巻子装であること
三 「長門切本」の大きさと界線の問題
四 「長門切本」の書風の問題
五 「長門切本」は絵巻詞書か
おわりに
第三章 「屋代本平家物語」の書誌学的再検討
はじめに
一 書誌事項の再確認
二 書誌事項の再検討
三 屋代本の書写時期の検討
四 屋代本の補写の問題
おわりに
□第五編 古典文学と書誌学
第一章 定家本としての枕草子
はじめに
一 三巻本枕草子の呼称の問題
二 安貞二年奥書の記主の問題
三 安貞二年奥書の再確認
四 定家本としての特徴
五 定家本の受容
六 定家本の抄出本
七 定家本の流布の問題
おわりに
第二章 書物としての『枕草子抜書』
はじめに
一 研究史と伝本
二 伝本の書誌情報
三 伝本の関係
四 連歌書としての性格
おわりに
第三章 書物としての歴史物語
はじめに
一 歴史物語古写本の書誌情報
A栄花物語 B大鏡 C今鏡 D水鏡 E増鏡
二 歴史物語の書物としての特徴
三 歴史物語に対する当時のジャンル意識
おわりに
第四章 室町期東国武士が書写した八代集―韓国国立中央図書館蔵・雲岑筆『古今和歌集』をめぐって―
はじめに
一 韓国国立中央図書館蔵の『古今和歌集』
二 韓国国立中央図書館蔵の『拾遺和歌集』
三 雲岑筆写本を求めて
四 雲岑筆『後撰集』・『後拾遺集』・『金葉集』
五 雲岑の素性
六 雲岑筆八代集の位置付け
おわりに
第五章 長門二宮忌宮大宮司竹中家の文芸―未詳家集断簡から見えてくるもの―
はじめに
一 室町期の断簡から見えてくるもの
二 竹中(武内)家の文芸活動
三 竹中家の和歌短冊
四 竹中家の歌道師範と書流
五 「大島本源氏物語」と竹中家
おわりに
おわりに―本書で明らかにしたこと
初出一覧 あとがき 目次(英訳)おわりに(英訳)索引(人名・書名)
前書きなど
■推薦文
世界の研究者、司書に向けて
書誌学の重要性を啓発
野口契子 [のぐち・せつこ]
アメリカ・プリンストン大学東アジア図書館日本研究司書
『日本古典書誌学論』は、長年書誌学に重点をおいて古典籍を研究してきた著者の研究を纏めたものである。「書誌学」は、文化の発展に伴い多様化しているが、北米ではデジタル・ヒューマニティーズ(人文学におけるデジタル技術の利用)の発達に伴い、その重要性が再認識されている分野でもある。従来の書誌学に加えて科学的な分析・考証に重きが置かれるとともに、最近では本の歴史や印刷文化についての講義や研究会を今まで以上に多く目にする。北米に所在する日本の古典籍においても、近い将来デジタル化が進み、国際的なプロジェクトに繋がる可能性も高い。当然書誌学的な考証・分析が求められるわけだが、多くの本を検証することのままならない私達は、とかく入手できる範囲の情報に頼り判断を下しがちである。本書の「あとがき」で、著者は「書誌学を疎かにした研究を行うと真実に辿り着けない」としているが、本著で紹介された研究は、具体的な分析方法を示すとともに、警鐘をも与えるものである。諸本と相対する前に、是非目を通しておいてほしい。
本書は、序編を含む六編で構成され、計十八編の単著を所収する。五六〇頁に及ぶ厚みのある一冊は、古典文学を研究する上での書誌学の重要性を啓発する著者の声であり、いわば国文学研究に一石を投じるものである。
序編で和本の装訂、文字種、版式といった事項と内容との関連性について述べ、その上で、第一編で巻子装が冊子体に与えた影響、第二編で巻子装の歴史と位置づけ、及び著者の専門でもある歌書との関係へと続けている。また、第三編では『大島本源氏物語』と奥書の例に基づく書誌学の重要性、第四編で形態、題等の書誌情報から見る『平家物語』の種類、第五編においては『枕草子』や歴史物語の伝本の書誌学的考察と、具体的な方法を示しながら様々な論考を展開している。「書誌学」という観点から行われた、綿密な調査と分析から成り立つ研究はどれも奥が深く、かつ新鮮である。巻末に英文の目次と抄訳もある。国内はもとより、海外の研究者、司書にも推薦したい。
わが導き手
渡部泰明 [わたなべ・やすあき]
東京大学教授
佐々木孝浩氏には昔から教導を得てきた。それは、柿本人麿の画像を供養する歌会である人麿影供のことであったり、鎌倉時代の歌壇のことであったり、さらには書誌学の指導法を伝授してもらったこともある。いずれも氏の研究の重要な分野であるが、このたび氏の近年の書誌学の成果が充実した大著としてまとめられたことを、学界においてもそうであろうが、なにより私個人として悦ばしく思っている。
私が佐々木氏から学んだのは、その該博な知識からばかりではない。なにより、文学、とくに和歌にまつわる営為への氏のこだわりからといってよい。私は、和歌を営みとして捉えたいと思ってきた。その重要なヒントを佐々木氏から与えられたのであった。いやヒントだけではない。和歌史が持続してきた謎の一端には、たしかに人の行為があったのだと、後押しをされ続けてきたのだった。氏の独擅場たる人麿影供研究はその典型である。
今回の『日本古典書誌学論』でも、本をめぐって人がどう動いていたか、その営為の中から多角的に書物の持つ意味を解明しようという志に貫かれているように思われる。もちろん書誌学は書籍に関する事実を大事にする学問だろう。ただし事実を探求せんとして客観性を保持しようとするあまりに、視点や方法が単一化し、ひいては視野狭窄に陥ってしまうというのは、分野を限らぬ、研究のもつ危険性といえよう。佐々木氏の研究は、おのずとそうした弊を免れている。人間の所業への果敢なまでの探究心があるからであり、それがあくない好奇心に支えられているからである。一言でいえば、人の匂いがするのである。
しかも、取り上げられている書物は、勅撰和歌集・『源氏物語』・『枕草子』・『平家物語』・歴史物語といった古典を代表する作品群であり、本書の意図の一つとして、文学と書誌学を架橋することが挙げられているのも、たしかにとうなずける。佐々木氏は、自身の研究の営みを総動員して、書物をめぐる営為の謎を解き明かそうとする。その意味で本書は、氏のこれまでの研究の集大成でもあるといえよう。志の高い本である。
上記内容は本書刊行時のものです。