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戦争をいかに語り継ぐか 水島 久光(著/文) - NHK出版
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戦争をいかに語り継ぐか (センソウヲイカニカタリツグカ) 「映像」と「証言」から考える戦後史 (エイゾウトショウゲンカラカンガエルセンゴシ)

歴史・地理
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発行:NHK出版
B6判
288ページ
定価 1,500円+税
ISBN
978-4-14-091263-8   COPY
ISBN 13
9784140912638   COPY
ISBN 10h
4-14-091263-4   COPY
ISBN 10
4140912634   COPY
出版者記号
14   COPY
Cコード
C1321  
1:教養 3:全集・双書 21:日本歴史
出版社在庫情報
不明
書店発売日
登録日
2020年4月25日
最終更新日
2020年6月19日
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書評掲載情報

2020-09-05 日本経済新聞  朝刊
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紹介

 戦後75年が経ち、戦争の実像について最も説得力を持つはずの直接体験者たちの「証言」が聞けなくなるという時代が、もうそこまで来ている。そんな時代を迎えても私たちは戦争という歴史を継承していくことができるだろうか?
 できる、というのが著者の立場である。ただしそのためには条件がある。ひとつは、「語り手―聞き手」という一方向的な関係のありかたを、あえて批判的に見直すこと。もうひとつは、活字や語りのほかに、映像や遺品など、感覚に直接訴えかけてくるものを材料とし「メディア」と捉えて、積極的に意義を見出す立場に立つことだ。これらを前提として、「語り部なき時代」にどうすれば「戦争のリアル」をつかむことができるのかを探求するのが本書である。
 著者はまず、戦争証言によくある「あの戦争」という言葉が「スルー」されていたことを指摘する。つまり、この言葉で指示される「戦争の実像」について、語り手と聞き手とがイメージを共有していないことが、どこかで感じられながらも不問に付されてきたことが、戦争の継承を不完全にしてきたのではないかと問題提起するのだ。
 こうした「不完全な継承」の実例を、2005年以降爆発的に増加した戦争番組、とくにテレビドキュメンタリーの中で語られる「証言」の数々に見出す。そこではメディアで有名な雄弁な語り手も、訥々としか話さない無名の語り手も等しく、戦争が伝わっていないことに「もどかしさ」を覚えていた。戦後を振り返ってみれば、NHKを中心としてテレビドキュメンタリーにはさまざまな証言が現れていたが、共有できないためにそれを受け止められない「戦争を知らない子供たち」がつねに存在していた。
 「語り」で伝えられないならどうするのか? 著者は第一人者として発掘してきた全国の「小型映画」、すなわち戦中の9.5ミリビデオに着目する。そこには戦時下のイメージに反する「充実した銃後の生活」が記録され、現代の感覚からは理解しづらい画面構成や人々の表情が見られるのだ。ここには「それを素材として語り合う」ことを誘発する何かがある。さらに、沖縄の平和祈念資料館とリニューアルしたばかりの広島の平和記念資料館とを対比し、特に沖縄の資料館において、遺品と米軍から買い集めた映像について「自ら考える」ように仕向けられた展示方法が効果的であることを見出す。こうして、小型映画の例と合わせ、視覚的メディアを材料として自ら考えることによる、戦争の実像把握の可能性が明らかになる。
 そして、神奈川での戦争体験の語りの場、鹿児島での戦中事故の継承の場に継続的に参加することで、語り手に特権的な立場を与えず聞き手から疑義を出させ、証言間の齟齬を許容し、記憶の精確さよりも議論の自由を保証することなどの重要性を明らかにする。
 こうして、記憶よりも映像などの記録を材料とし、一方的な語りよりも多方向的な議論の場を確保することが、これからの戦争の継承に有効であることを実証していく。戦争をはじめ事件や災害などさまざまな歴史の継承に重要な貢献をなす、類例のない提言の書となるだろう。

目次

目次
序 章 「戦後」が終わる前に
第一章 戦争を「語る言葉」のもどかしさ ――戦後60年以降のテレビ番組から
第二章 「戦争を知らない子供たち」について考える
第三章 「空白」を埋める ――映像で出会いなおす「あの戦争」
第四章 語り継ぐ条件  ――対話への階梯
終 章 「戦後」の、その先を生きる

著者プロフィール

水島 久光  (ミズシマ ヒサミツ)  (著/文

 1961年生れ、慶應義塾大学卒業後、広告会社勤務を経て東京大学大学院学際情報学府修士課程修了。東海大学文学部広報メディア学科教授。
 主として20世紀の映像メディアを研究対象とする。戦争体験者による語りの場や、中学生が戦争資料館を見学するツアーに学生を同行させるなどして、戦争の記憶の継承がどのように行われてきたか、また現在どのような形で実施され、若年世代にどのように受け止められているかを継続的に、精力的に調査・研究している。
 著書『閉じつつ開かれる世界――メディア研究の方法序説』(勁草書房)、『テレビジョン・クライシス――視聴率・デジタル化・公共圏』(せりか書房)など。

上記内容は本書刊行時のものです。