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活動弁士の映画史 映画伝来からデジタルまで 高槻真樹(著) - アルタープレス
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活動弁士の映画史 映画伝来からデジタルまで (カツドウベンシノエイガシ エイガデンライカラデジタルマデ)

テレビ・映画化
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四六判
縦188mm 横128mm 厚さ23mm
384ページ
並製
価格 2,800円+税
ISBN
978-4-910080-01-7   COPY
ISBN 13
9784910080017   COPY
ISBN 10h
4-910080-01-5   COPY
ISBN 10
4910080015   COPY
出版者記号
910080   COPY
Cコード
C0074  
0:一般 0:単行本 74:演劇・映画
出版社在庫情報
在庫あり
初版年月日
2019年12月21日
書店発売日
登録日
2019年10月28日
最終更新日
2019年12月24日
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書評掲載情報

2020-02-09 産經新聞  朝刊
評者: 南陀楼綾繁(編集者、ライター)
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紹介

周防正行監督の最新作『カツベン!』(12月13日公開)で注目! 「活動弁士/無声映画弁士」120年の歴史のすべてを詰め込んだ初めての書籍!! 一般的には1930年代半ば以降は消滅したと思われている活動弁士という職業。しかし実はその後も現在に至るまで各地で絶えることなくその系譜は生き延びていた。本書は無声映画黄金時代の華やかな歴史を紹介するのはもちろん、戦時中、終戦直後から現在の状況までをすべて網羅。著者が独自に発掘した大量の資料、現役の弁士・関係者たちへの詳細な取材によって明かされる「もうひとつの映画史」。

目次

序章 活動写真弁士は本当に滅びたのか
第1章 映画伝来から旧劇・新派まで~弁士の登場
第2章 無声映画の黄金時代~弁士の確立
第3章 トーキーの到来~まだらの時代
第4章 残された謎の時代~戦時中・海外の弁士たち
第5章 焼け跡の弁士たち~無声映画復活の日
第6章 ホールを巡る弁士たち~「懐かしの」自主上映 二つの選択肢
第7章 東西の継承者~澤登翠と井上陽一
第8章 ミレニアムの転機~集う若手弁士たち
第9章 それぞれの活路~片岡一郎と坂本頼光
第10章 劇場への帰還~立つ演奏家・映画館主

前書きなど

序章・活動写真弁士は本当に滅びたのか

 二〇一九年一二月、昭和初期の活動写真弁士の華やかな世界を描いた、映画「カツベン!」が公開される。日本映画界きってのヒットメーカー・周防正行監督五年ぶりの新作、ということで大きな注目を集めることとなった。
ところが、肝心の活動写真弁士がどんな職業だったか、きちんと説明した本は、ほとんど手に入らない。あなたは説明できるだろうか。
むかしむかし、映画は今より未発達で、音を出すことができなかった。そこでやむを得ず、スクリーンの横に立ってセリフを語る人がいた。だが、トーキーが発明され、彼らはあっという間にお払い箱となった……
とまあ、そんなところだろうか。よほど熱心な映画ファンでもない限り、俳優の声が聞けないなんて、昔の映画は不自由だったんだなあ、と呆れるぐらいで、この映画が公開されるまでは、無声映画にさほど興味は沸かなかった、というのが本音だろう。
だが、そんな「歴史の遺物」であるはずの活動写真弁士が、今けっこう熱い。三、四〇代の若手が次々と現れ、個性を競っているのだ。現在も活動を続けている、現役の弁士は全国で、ざっと十数名。信じられないかもしれないが、これ一本で勝負している、専業のプロも、かなりの割合で存在する。
確かに、トーキーの到来以降、弁士は映画の表舞台から消えてしまった、ように見えた。だが、違った。実はその後もかなり長い期間にわたって、弁士は根強く支持を集め続ける。時代に応じて形を変えながらもしぶとく生き延び、世紀の変わり目・二〇〇〇年あたりから急速に存在感を高めていく。その背景には、デジタル技術の発達により、映写が低コストになり、埋もれていた旧作が次々と発掘・修復されていく、劇的な環境の変化があった。
 映画「カツベン!」により、埋もれていた活動写真弁士の世界に光が当たったのではない。急速に復活しつつある活動写真弁士の世界に、周防監督がいち早く気付いたのだ。
 活動写真弁士の世界は、映画史とともにある。日本に映画が伝来した一八九六年、早くも弁士はそこにいた。創成期には世界各地に映画の説明者がいたらしいが、定着したのは日本を中心にした文化圏だけである。韓国・台湾などの支配地域、ハワイや米国の移民社会でも活動していたことが確認されている。その後、どうやら弁士は一度も滅びることなく連綿と受け継がれ、現在まで続いてきたらしい。ほとんど今まで知られることのなかった、もうひとつの映画史がある。本書では、それをこれからお目にかけたい。
 活動写真弁士は滅びた職業だという、世間の思い込みはとても強固なものだった。その思い込みが、弁士たちの世界を、視界から遠ざけてしまった。
 若手弁士の一人、片岡一郎は、まだ四〇歳を超えたばかり。当然、無声映画の全盛期は知らない。そんな人間が弁士をやろうとすることが奇異に受け止められるのだろうか。意外なほど頻繁にインタビューを受ける機会があるという。そしてそのたびに、うんざりするほど繰り返される質問がある。
 「それで片岡さん、本職は何ですか?」
 もはや片岡としては怒るのも通り越して、持ちネタのひとつとして公演で使うほどになってしまった。それでも飽きることなく、同じ質問は繰り返される。この質問のどこがおかしいのか、と思われるだろうか。だとしたら、あなたも同じ思い込みに囚われているということになる。
 確かに弁士を、街の映画館で見かけることはほとんどない。たまにイベントや映画祭で、ライブ公演の告知を見かける程度だ。何か別の職業を持つ人物、おそらくは落語家や声優が、余技として弁士を名乗っているのだろう。そう思う人がいても無理はない。というよりは、残念ながらまだまだそれが多数派の意見なのだろう。だがそれは間違いだ。
 全盛期のトップ弁士は、総理大臣より高給であったという。もちろん現在そんな待遇は望めるはずもなく、雀の涙ほどの薄給を数で稼ぐことになるわけだが、専業弁士として活動を続けることは、現在十分に可能である。
むろん、ここに至るまでの道のりは険しく、片岡ら二一世紀になってから登場した若手弁士たちの奮闘あって、ようやく基礎が固められつつある。映画館で弁士付き公演を見かけることも増えてきた。映画ファンの目に届く場所で演じることで、無声映画をライブで観る楽しさが、ようやく理解され始めている。
だが、いざ興味を持って、活動写真弁士とは何だろう、無声映画とは何だろう、と調べようとすると、資料のあまりの少なさに驚くことになる。
そもそも日本映画史に関する本は、関係者への綿密な取材と膨大な資料をまとめ切った田中純一郎『日本映画発達史』(中公文庫・全五巻)が文字通りの決定版であり、これ以降の映画史本はすべて田中の著作を土台に書かれている。なぜなら、戦前の映画フィルムは九〇%が失われており、関係者も他界して久しい。間に合ったのは誰よりも早く行動を開始した田中だけだった。
これに異を唱えたのが、塚田嘉信『日本映画史の研究』(現代書館)だった。当事者による生の証言は貴重だが、誤りも多い。塚田は新聞・雑誌など同時代の文献資料に徹底的にあたることで、田中の誤りをひとつひとつ正していった。塚田の検証は気が遠くなるほど手間のかかるもので、映画伝来から最初の一年間をたどるにとどまっているが、それでも意義は極めて大きい。本書も塚田の試みにならい、可能な限り同時代の文献を参照することを心掛けた。ただし引用にあたっては、表記はなるべく現代かなづかいに改めている。
これまでに、弁士についてまとめて解説した書籍は、戦後にわずか二冊しか存在しない。御園京平『活辯時代』(岩波書店同時代ライブラリー)、そして吉田智恵男『もう一つの映画史』(時事通信社)である。
二冊ともそれなりに丁寧にまとめられているが、弁士の全盛期を知らないファンが予備知識なしに読んでも、ぴんと来ず、投げ出す羽目になるだろう。各弁士の特徴的な語り口も紙幅を割いて多数引用されているが、実際に当時公演を観たわけでもない人間に、雰囲気が伝わるかといえば、それはかなり難しい。
無声映画期は、映画をパッケージとして購入し録画・録音機器を家庭で駆使することなど、想像もできなかった時代である。新聞や雑誌に採録された弁士の語りを読み返すことは、映画の感動を脳裏に再現する手段として、親しまれていたようだ。ただ、それが意味あるものになるのは、往時の弁士を体験していた場合のみ。今回の調査にあたって、いろいろと読んでみたが、残念ながら得られる情報は乏しかった。
本書では、弁士の語りを長々と引き写すことは控え目にしている。当時の新聞紙面・現代の研究者の論文・筆者による新たなインタビューなどから、まったく弁士を知らない読者でも、具体的なイメージを持てるような表現を心掛けたつもりである。黄金時代の弁士に関しては、SPレコードが多数残されているので、現代の目線で語りの特徴を検証してみた。まだラジオ放送すら始まる以前、アナウンサー文化が確立される以前の語り芸が、いかに現在とかけ離れた異質なものであったか、驚かされる。
先行する弁士本二冊の著者は、トーキーの到来とともに弁士は瞬く間に駆逐され、消えて行ったと書き、そこで筆を置いている。確かに弁士の没落は急速かつ劇的で、同時代の映画ファンに強い印象を残したことだろう。だが本当に面白いのはその先、トーキー化以降もしたたかに生き延びていった弁士たちの足跡である。
ある意味、オーディオ分野における、LPレコードからCDへの転換に近いものがあるのかもしれない。一九八〇年代に劇的な市場の変化があり、一般にはLPは滅びたメディアという認識だろう。だが現在も愛好家は多数おり、少数ながらも地道に新盤はプレスされ続けている。むしろ近年はCDの衰退と対照的に、市場の回復傾向すらみられるという。
本書においては、一九世紀末の映画伝来から無声映画全盛期、トーキー到来へと続く弁士の歩みはひととおり押さえるものの、これはまだ序盤にすぎない。トーキーとの長い共存期間、地方への拡散を経て、戦後の無声映画ブーム、ホール上映、そして新世代弁士の台頭へと続く現代までの流れを追っていく。これまでの映画史では数行で片付けられるか、まったく触れられることがなかった項目ばかりだ。
掘り下げた調査によって、明らかに私たちが見落としていた何かが判明しつつある。あなたも、私も、弁士のことなど分かってはいなかったのだ。それは間違いなく映画であるが、忘れ去られた映画のもうひとつの可能性である。弁士はなお現在進行形で進化し続けているのだ。

版元から一言

●12月13日公開の周防正行監督最新作『カツベン!』で描かれる「活動弁士」「無声映画」の歴史をすべて網羅した一冊。
●同テーマの書籍は現在市場に存在しておらず、新作映画関連本/日本映画関連本として貴重な商品となります。
●帯には周防監督の推薦文を掲載する予定となっています。
●写真130点以上掲載。

著者プロフィール

高槻真樹  (タカツキ マキ)  (

1968年生まれ。「文字のないSF―イスフェークを探して」で第5回日本SF評論賞選考委員特別賞を受賞。「狂恋の女師匠」で第4回創元SF短編賞・日下三蔵賞を受賞。著書に、『映画探偵: 失われた戦前日本映画を捜して』『戦前日本SF映画創世記: ゴジラは何でできているか』(ともに河出書房新社)がある。日本SF大賞選考委員。

上記内容は本書刊行時のものです。