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フランス人の第一次世界大戦 大橋 尚泰(著/文) - えにし書房
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フランス人の第一次世界大戦 (フランスジンノダイイチジセカイタイセン) 戦時下の手紙は語る (センジカノテガミハカタル)

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発行:えにし書房
B5判
464ページ
並製
価格 4,000円+税
ISBN
978-4-908073-55-7   COPY
ISBN 13
9784908073557   COPY
ISBN 10h
4-908073-55-4   COPY
ISBN 10
4908073554   COPY
出版者記号
908073   COPY
Cコード
C0022  
0:一般 0:単行本 22:外国歴史
出版社在庫情報
在庫あり
初版年月日
2018年6月30日
書店発売日
登録日
2018年5月15日
最終更新日
2024年2月15日
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書評掲載情報

2018-09-16 読売新聞  朝刊
評者: 宮下志朗(放送大学客員教授、仏文学者)
2018-07-07 朝日新聞  朝刊
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紹介

フランス人にとっての第一次世界大戦の全体像を浮かび上がらせる渾身の力作!
終結100年を迎える第一次大戦に従軍した兵士たちやその家族などによる、フランス語の肉筆で書かれた大戦中の葉書や手紙の原物に当たり、4年の歳月を費やして丁寧に判読し、全訳と戦況や背景も具体的に理解できるよう詳細な注、解説、描き下ろした地図、年表等を付す。約200点の葉書・手紙の画像を収録した史料的価値も高い異色の1冊。

目次

第1章 1914年
第2章 1915年
第3章 1916年
第4章 1917年
第5章 1918年
第6章 被占領地域
第7章 アルザス
第8章 ベルギー
第9章 ガリポリとサロニカ
第10章 捕虜
付録1 ある砲兵下士官の葉書
付録2 電報
付録3 用語解説

コラム
 ラ・マルセイエーズ 
 エッフェル塔のカリグラム 
 レオン・ユデル「兵隊
 クラオンヌの歌 
 故人追悼のしおり
 占領下の「告示」
「最後の授業」から授業の再開へ
 ニウーポールのジャン・コクトー 
 ガリポリとサロニカに関するド・ゴールの手紙  
 捕虜ド・ゴール大尉の脱走劇

前書きなど

 今から約百年前、1914~1918年におこなわれた第一次世界大戦は、本質的には「ヨーロッパ戦争」であり、その対立の中心軸となったのは独仏の対決だった。ドイツが最後まで戦い、敗北したのはフランスにおいてだったし、イギリスもアメリカも、おもにフランスを舞台として、フランス軍に加勢してドイツと戦った。フランスにとっても、この大戦は「対独戦争」に他ならなかった。
 第一次世界大戦は、フランスだけでも140万人近い死者を出した。これは第二次世界大戦中のフランスの犠牲者(50万人台)をはるかに上回る数字であり、フランスで単に「大戦」といえば第一次世界大戦を指すのもうなずける。現在でも、フランスの津々浦々の街や村の教会前の広場などには鎮魂碑が建てられ、戦死者の名がプレートに刻まれている。現代のフランス人のうち、高齢者ならば祖父かその兄弟、もう少し若ければ曾祖父かその兄弟が第一次世界大戦で戦っているはずであり、そのうち一人の戦死者・行方不明者・負傷者・捕虜も出ていないという家族は稀である。自宅か親戚の家のどこかには、この戦争に行った兵隊の写真や手紙、葉書などが保管されているものである。
 ただ、世代交代に伴い、遺品整理としてそうした手紙や葉書が手放され、歴史家や愛好家などの第三者の手に渡ることも多くなっている。本書に収録した手紙・葉書も、すべて筆者が歴史家や直接の子孫から譲り受けたり、葉書商・古物商・古書店・愛好家から買い取ったものである。こうして、場合によっては段ボールで丸ごと入手した手紙や葉書類のうち、当時のフランス人の考え方や行動を知る手がかりとなるような興味深いものを抜き出し、日付順またはテーマ別に整理して全訳し、歴史的な背景を理解できるように解説と注を付したのが本書である。

 当時はまだ電話が普及しておらず、もちろんEメールもなかったから、離れた人どうしの通信手段としては葉書と手紙、急ぎの場合は速達にするか電報を打つしかなかった。大戦中は兵士が書いた(および兵士宛てに書かれた)葉書・手紙は基本的には郵便料金がすべて免除になったから、フランス史上それまで例を見ない量の私信が飛びかった。こうしてやり取りされた手紙は、前線の兵士と銃後の家族をつなぐ絆となり、離れ離れになった夫婦や親子、兄弟の心の支えとなった。
 当時の史料としては、日記や回想録などもあるが、こうした記録は、あとから整理され、美化されている場合も少なくない。逆に、手紙や葉書は急いで未整理な状態で書かれることも多いので、どうしても一部読みにくい箇所が出てくるし、軍の検閲があったから書きたいことも書けない場合も多かった。しかし、即興で思いつくままに書かれた手紙や葉書は、当時の人々の生の声を聞ける手段として優れており、感動的なものも少なくない。

 ただし、文学作品とは違って、やはり歴史的な記録なので、時間軸と空間軸の中に置いて背景を理解しないと十分にその価値を味わうことができない。そこで本書では、陣中日誌や各兵士の軍人登録簿にも当たり、可能な限りそれぞれの手紙や葉書が書かれた状況を浮かび上がらせようと努めた。
 その過程で気づいたのだが、日本では、第一次世界大戦の概説書はあっても、「フランスにとっての第一次世界大戦」を概観できるような本はあまり見あたらない。そこで、フランス人が第一次世界大戦をどのように見ていたのかを大まかに把握できるようにすることも、本書のもう一つの野心的な目標となった。こうして、「個々のフランス人の視線から見て構成し直した第一次世界大戦」が本書のテーマとなった。地理的にフランスとドイツの中間に位置するアルザス地方(当時はドイツ領)とベルギーについても特に力を注いだ。さらに、順番に全部読まなくても、関心を持ったものだけを拾い読みしても楽しめるように構成を工夫した。

 とはいえ、大戦当時の筆記体を読むのは大変で、日本の毛筆で書かれた草書体ほどではないにしても、現代のフランス人であっても、誰もが読めるというものではない。文学者が書いた自筆原稿なら、まだ綴り間違いもなく、癖も一定しているので読みやすいが、戦場などの極度に疲労した状態で、暗い明りのもとで満足な筆記用具もなく、なんとか家族に近況を伝えたいという一心で、教養のない人が綴りを間違えながら書いた手紙や葉書は、判読に苦労する場合も少なくない。さいわい、筆者は、この時代の草稿を読み慣れた教養ある多数のフランス人の協力を仰ぐことができた。フランスではこうした大戦当時の兵隊たちの手紙を集めた本は何冊か出ており、日本でも一部訳が出ているが、手紙や葉書の原物に直接あたって訳したものは寡聞にして知らない。
 本書に収められた手紙や葉書類は、まがりなりにも一次史料なので、基礎資料として専門家の方々にもご活用いただければと思い、見開き右側のページには原文の写真を掲載した。訳にあたっては、簡単に読めるものを除き、最初にフランス語で活字に打ち直してから訳したので、研究のために引用したいという方がおられたら、フランス語のデータを提供するのにやぶさかではないので、ご連絡いただければ幸いである。

 最後に、現代の日本との関連について述べておきたい。
 第二次世界大戦後の日本では、「戦争=悲惨なもの」と教え込まれるだけで、それ以上、戦争について具体的に考えることは一種のタブーになっている気がする。たしかに、第二次世界大戦での大量虐殺の記憶はあまりにも生々しく、なかなか直視に耐えない部分がある。そこで、日本も多少は関与したものの、基本的には遠い国で起こり、ある程度時間の経過した第一次世界大戦であれば、比較的冷静に、余裕をもって眺めることができる。この大戦で戦った兵士や家族が書いた手紙や葉書を読むことで、多少は戦争について考えることができるのではないか。これが本書の底流をなすライトモチーフとなった。

 全体的にみると、初期の手紙や葉書は愛国的で勇ましいものが多く、戦争が長びくにつれて厭戦気分が広がっていき、「終わり」が待望されるようになる。ようやく戦争終結を迎えると、歓喜のなかで再びフランス人としての「誇り」のようなものが実感される一方で、失ったものの大きさも実感される、といった傾向が見られる。しかし、なるべく筆者の主観は入れず、また「結論」も書かず、現在の歴史学の解釈に沿いながら、ありのままに提示したつもりなので、あとは各人でご判断いただき、考える材料としていただければ幸いである。

 2018年6月
大橋尚泰

版元から一言

◆本書は、2018年終決100年を迎える第一次世界大戦のフランス人にとっての実相を、この時期に多く取り交わされた兵士、将校らと家族との葉書、手紙から浮かび上がらせようと試みたもので、第一次世界大戦をテーマにした書籍の中では異色の企画と言えるものです。

◆執筆・編集に関しては、フランス語の肉筆で書かれた大戦中の葉書や手紙の原物に当たり、4年の歳月を費やして丁寧に判読し、全訳と戦況や背景も具体的に理解できるよう詳細な注を施すとともに解説、描き下ろした地図、年表等を付しています。

◆約200点の葉書・手紙の画像を収録しており、これだけでも史料的価値があるものと言えます。

◆当初「すぐに終わる」との楽観ムードで始まった戦争がかくも長引き、膨大な犠牲を伴いながらどうにか集結していく様子が、とても生々しく身近に感じられます。

◆またラ・マルセイエーズ/エッフェル塔のカリグラム/捕虜ド・ゴール大尉の脱走劇…ほか10本のコラムで、第一次世界大戦に関連した焦点を絞ったテーマが語られ、読み物としても十分楽しめるものです。

ご感想、ご批評などお気軽に取り上げてくだされば幸いです。

著者プロフィール

大橋 尚泰  (オオハシ ナオヤス)  (著/文

1967年生まれ。早稲田大学仏文科卒。東京都立大学大学院仏文研究科修士課程中退。現フランス語翻訳者。
著書『ミニマムで学ぶフランス語のことわざ』(2017年、クレス出版)。
HP「北鎌フランス語講座」「葉書で読みとくフランスの第一次世界大戦」。

上記内容は本書刊行時のものです。