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尾崎翠の詩と病理
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2015年3月
- 書店発売日
- 2015年3月18日
- 登録日
- 2015年2月9日
- 最終更新日
- 2015年5月23日
紹介
詩は尾崎翠を癒し、幸福感や病からの回復をもたらした。「詩と病理」を中心に作品を読み解き、ハイセンスな尾崎翠像の再構築をはかる。 「第七官界彷徨」については尾崎翠以前の「第七官」使用例を辿り、時代状況を踏まえた新たな解釈を提示する。
新発見の作品・書簡を収録し、さらに同時代評を紹介する。
目次
論文編
序 章
一 研究の背景と目的
二 研究方法
三 論文の構成
第一章 「第七官」をめぐって
──明治期から昭和初期における「第七官」の語誌と尾崎翠の宗教的・思想的背景──
はじめに
一 「第七官界彷徨」発表以前の「第七官(感)」1――井上円了
二 「第七官界彷徨」発表以前の「第七官(感)」2──綱島梁川・内村鑑三
三 「第七官界彷徨」発表以前の「第七官(感)」3──骨相学関係
四 「第七官界彷徨」発表以前の「第七官(感)」4──大正期の仏教関係
五 「第七官界彷徨」発表以前の「第七官(感)」5──薄田泣菫・与謝野晶子
六 「第七官界彷徨」発表以前の「第七官(感)」6──オリバー・ロッジ『死後の生存』
七 「第七官界彷徨」発表以前の「第七官(感)」7──橋本五作『岡田式静坐の力』
八 大正末期から昭和初期の芸術の新潮流における「第七官(感)」
九 大正末期から昭和初期の散文における「第七官(感)」
一〇 「第六官(感)」の変遷
一一 「第七官(感)」の変遷
一二 尾崎翠が接したと考えられる「第七官(感)」の用例
おわりに
第二章 「第七官界彷徨」論
──「喪失感」と「かなしみ」、「回想」のありかた──
はじめに
一 物語内での「第七官」と、「喪失感」と「かなしみ」
二 「こころこまやかなやりとり」と別離
三 「よほど遠い過去のこと」という語りの意味
おわりに 「第七官界彷徨」における回想のありかた
第三章 「歩行」論
──おもかげを吹く風、耳の底に聴いた淋しさ──
はじめに
一 冒頭と末尾に配されている詩と、回想する「私」
二 「私」の歩行と「おもかげを忘れる」こと
(一)「私」の歩行の目的が変化することについて
(二)おもかげを忘れること
三 「私」の淋しさと「芭蕉の幹が風に揺れる音」
(一)「私」の淋しさについて
(二)「芭蕉の幹」を吹く風 「私」を吹く風
四 「私」が九作から教えられた詩
(一)おたまじゃくしの機能
(二)詩を読むこと
おわりに
第四章 「こほろぎ嬢」論
──神経病、反逆、頭を打たれること──
はじめに
一 こほろぎ嬢についての曖昧な情報と否定的な見解
二 「桐の花」と「こほろぎ」──「こほろぎ嬢」における詩歌の影響
(一) 神経病
(二) 桐の花
(三) こほろぎ
(四)「桐の花」と「こほろぎ嬢」とのイメージの重なり
三 「古風なものがたり」と「どつぺるげんげる」──こほろぎ嬢の恋と反逆
(一)「古風なものがたり」、『伊勢物語』、七夕伝説
(二)「どつぺるげんげる」、火星、反逆
四 「こほろぎ嬢」における神経病者たち
(一)「神経病に罹つてゐる文学」
(二)「黒つぽい痩せた」女性
五 頭を打たれる感覚、こほろぎ嬢の孤独
(一)こほろぎ嬢の頭痛、「私たち」と「母」との共通性
(二)こほろぎ嬢の孤独のきわだち
(三)「まくろおど」への問いかけ、「頭を打たれる感覚」
おわりに
第五章 「地下室アントンの一夜」論
──ロシア文学受容、統合失調症の精神病理を補助線として──
はじめに
一 尾崎翠のロシア文学への関心とチェーホフ受容
二 チェーホフ「決闘」とエヴレイノフ「心の劇場」からの「地下室アントンの一夜」への影響
(一)チェーホフ「決闘」
(二)エヴレイノフ「心の劇場」
三 「地下室アントンの一夜」における詩人の危機の回避
四 (地下室にて)における回復の様相
おわりに
終 章
一 研究成果(論文編)の要約
二 「もくれん」に見る聴覚と女性像の回復
三 今後の課題
初出一覧
主要参考文献
あとがき
資料編
一 新たに確認できた尾崎翠自身による書簡・作品
A 書簡
B 作品
作品についての注記
二 新たに確認できた同時代評および同時代人との関係を示す資料
A 同時代評
B 写真
C 尾崎翠に関係する作品・作者
前書きなど
尾崎翠は1896(明治29)年、鳥取県岩美郡に生まれ、1971(昭和46)年、肺炎のため満74歳で死去した。長生した作家であるが、その文学活動は前半生に限られ、後半生は市井の生活者として生きた。1931年に代表作「第七官界彷徨」で独自の境地をひらいて好評を博し、次々に作品を発表しはじめたところで翌1932年病を得て帰郷した。この帰郷によって結果的に文学活動から遠ざかり「黄金の沈黙」をつらぬいた。それにも関わらず戦後1950年代後半から再評価が始まり、死後ますます読者を得て現在に至る。その再評価の流れの異例さは、他方では作家や作品が「神話化」されることにも繫がった。「神話化」とは「尾崎翠のテキストを文芸史の文脈から切り離すこと、あたかも孤立した傑作であるかのように囲い込むロマン主義的傾向」を指す。本研究は言うまでもなく、尾崎翠やその作品を「脱神話化」することを目指す立場にある。(序章より)
版元から一言
著者:石原深予からの一言
拙著では「第七官界彷徨」をはじめとする尾崎翠の代表作を、「詩」と「病理」との観点から論じています。「第七官界彷徨」を読んだ誰もが「第七官とは?」と疑問に思いますが、「第七官界彷徨」が発表される前に、この言葉がどのように用いられたかを調査し、その意味や用法の変遷を踏まえ、同時代において「第七官界彷徨」を読むと、新たな作品解釈が可能になりました。また、全集未収録の尾崎翠作品を収録し、これまでに知られていなかった尾崎翠に対する同時代評も紹介しています。尾崎翠に関心をもたれる方に読んでいただけましたら幸甚に存じます。
上記内容は本書刊行時のものです。