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nyx
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2015年1月
- 書店発売日
- 2015年2月5日
- 登録日
- 2014年10月29日
- 最終更新日
- 2015年2月2日
書評掲載情報
2015-12-11 |
週刊読書人
評者: 江川純一=東京大学研究員・宗教学専攻 |
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紹介
話題のトマ・ピケティの論稿、ジャン゠リュック・ナンシーによる書き下ろしのノートなどを含む海外の論稿と国内の若手研究者を中心とした本格派の思想誌創刊号。
目次
第一特集
〈エコノミー〉概念の思想史―アリストテレスからピケティへ [主幹・佐々木雄大]
〈エコノミー〉の概念史概説―自己と世界の配置のために 佐々木雄大…………10
教父哲学におけるオイコノミア 土橋茂樹…………38
『天使』への序論 ジョルジョ・アガンベン[岡本源太・訳]…………52
解題―ジョルジョ・アガンベン「『天使』への序論」を読むために 岡本源太…………64
修辞学における「エコノミー」―実践・配置・秩序 星野 太…………70
『百科全書』と啓蒙思想からみた「エコノミー」 隠岐さや香…………82
「経世済民」から「経済」へ 板東洋介…………96
エコノミー、経済統治、あるいは自然均衡―オイコノミアからの複線的伏流 深貝保則…………108
不平等の長期的趨勢 トマ・ピケティ/エマニュエル・サエズ[西亮太・訳]…………120
解題―トマ・ピケティは「保守」か、「革新」か? 斎藤幸平…………140
経済 Économie―『アドラシオン』より ジャン=リュック・ナンシー[メランベルジェ眞紀・訳]…………152
解題―ジャン=リュック・ナンシーの「エコノミー」論 柿並良佑…………158
「救済のエコノミー」についての注記 ジャン=リュック・ナンシー[柿並良佑・訳]…………168
「搾取」と「自由」―剰余価値論の精神分析的展開 荒谷大輔…………172
第二特集
現代ラカン派の理論展開 [主幹・松本卓也]
ラカンのディスクール理論からみた普通精神病 マリー=エレーヌ・ブルース[松本卓也・訳]…………188
解題―〈父の名〉の後に誰が来るのか? 松本卓也…………202
セクシュアリティの帰趨と症状の可能性―「一般化倒錯」という観点から 河野一紀…………210
後期ラカンの精神病理論から読み解く症例アンネ・ラウ 小林芳樹…………224
スキゾフレニーから自閉症へ 松本卓也…………236
自閉症について 向井雅明…………246
前書きなど
創刊の辞
真理は真理であるかぎり、永遠的なものでなければならない。しかし他方、その探究および伝達が人間の営みであるかぎり、歴史的なものであるよりほかない。先人たちの学術研究の成果は、数千年の長きにわたって繰り返し学び直され、時代に応じて利用されながら、現在へと脈々と受け継がれてきた。
近年の学問的研究はより実学的有用性と具体的成果が求められるようになってきた。こうした求めに応じ、論文を量産すること、大衆へ向けたアウトリーチ活動を積極的に行うこと、そして、アクチュアルな社会問題を扱うことも、現状に対するひとつの応答であるだろう。
しかし、先人たちの思想は、必ずしもその時代のみを射程とし、当座の有用性だけを追求したものではない。ソクラテスはその時代において有用とされただろうか。思想は、過去から未来へと学問の営みが受け継がれるなかで、数多の失敗を重ねつつ、人類に様々な益をもたらしてきた。だからこそ、短期的な成果追求が重視される現在において、あえて古典的思考を継承することを目的とした「思想のための場」が、新たに生まれるべきではないか。
そうした思想の場の一翼を担ってきた思想誌という媒体もまた、学術研究と同様、情勢や市場から短期的な利益・効用ばかりが求められがちであり、長い射程をもった思考を積極的に展開する機会を設けることが難しい状況である。しかし、そうした論稿はつねに潜在的に求められており、現在の読者に対して古典を開くだけでなく、未来の読者に対してもまた、必要とされるはずである。有用性とは別の観点から編集された媒体が必要なのではないか。
このような理念の下で創刊された思想誌、それが『Nύξ(ニュクス)』である。古典の山に分け入り、複雑な概念を解きほぐすプロセスは、いたずらに時間と労力を要する非現実的で荒唐無稽な作業に映るかもしれない。また、歴史的な思想家とともに概念を思考することは決して容易な途ではない。しかし、一見の新奇性や同時代的理解を求める人々に処方箋を提示することだけが思想の役割ではない。答えが出ないことを恐れず、古典を手に取り、問いを発し、思考すること。また、紙幅という限りのある器に多様な論稿を凝縮し、その凝縮された中から次の議論へと無限に広がる文脈の連なりを表現すること。『Nύξ』は、そうした基本作業のための開かれたプラットフォームとして、分野横断的な幅広い議論をしていきたい。
様々な論稿が思想に再び力を与えることで、歴史の夜の深い闇の中から浮かび上がる一筋の光が、学問と世界における困難な情況への道標となることを願って。
版元から一言
キャッチコピーは「書物を、教養を、その手に!」「いま知性と向き合う」。難しい、と言われることは承知。でも、なんでも易しくすればいいのか? 最近の日本の若者は本当に駄目? こんなにも若い知性は煌めいていた。斜め読みするだけでもいい。わからなくてもいい。高みに手を伸ばそうとする論稿の数々に触れるだけでわいてくる未来への勇気。「難解な書物に触れる」楽しみを、今、ここに。
上記内容は本書刊行時のものです。