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憲法学の虫眼鏡
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2019年10月
- 書店発売日
- 2019年11月5日
- 登録日
- 2019年9月20日
- 最終更新日
- 2020年1月8日
紹介
自由な思惟のエッセンス。2017年1月から2019年3月まで羽鳥書店Webで連載された「憲法学の虫眼鏡」(第一部に収録)を中心に、書下ろしを含め、『UP』連載「法の森から」など35篇を収録した最新エッセイ集。憲法学者のヴィヴィッドな思索に触れる。
目次
はしがき
第一部 憲法学の虫眼鏡
1 森林法違憲判決
2 法律の誠実な執行
3 カール・シュミット『政治的ロマン主義』
4 ThickかThinか
5 緊急事態に予めどこまで備えるべきなのか
6 有権解釈とは何なのか
7 八月革命の「革命」性
8 内閣による自由な解散権?
9 陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない
10 英語で原稿を書く
11 プロイセン憲法争議
12 「ユダヤ的国家」万歳
13 適切な距離のとり方について
14 最悪の政治体制、民主主義
15 意思と理由
16 ポワッソンのパラドックス
17 法人は実在するか? それを問うことに意味はあるか?
18 統治権力の自己目的化と濫用
19 クリスティン・コースガードの手続的正義
20 相互授権の可能性?
第二部 法の森から
1 ルソーのloiは法律か?
2 戦う合衆国大統領
3 フランソワ・ミッテラン暗殺未遂事件
4 英米型刑事司法の生成
5 フォークランド諸島 一九八二年五月二五日
6 巡洋艦ベルグラーノ撃沈 一九八二年五月二日
7 バーリンの見た日本
8 国際紛争を解決する手段としての戦争
9 アメリカがフィリピンで学んだこと
第三部 比較できないこと
1 比較できないこと
2 サリンジャーと出会う
3 人としていかに生きるか──カズオ・イシグロの世界
4 自己欺瞞と偽善の間──「狂気の皇帝」カリグラ
5 奥平康弘『萬世一系の研究(上)』解説
6 変えるべきか変えざるべきか
前書きなど
はしがき
この本は、憲法学をめぐるエッセイを集めたものです。
憲法学は法学の一種で、法学は道徳に関する学問の一分野と言ってよいでしょう。人は本来、どのように行動すべきか、自分で判断し、その結論に従って行動します。実践理性の働きと言われるものです。法はこの実践理性の働きを簡易化するための道具です。自分自身でどのように行動すべきか判断する手間を省いて、法の命ずる通りに行動すればよいようにする。そのために使われる道具です。
どうしてこんな道具を使うかというと、実践理性そのものを十分に使いこなす技術を人はまだ手に入れていないからでもあります。道徳的な判断はそのプロセスも入力と出力の関係も不透明で、謎に満ちています。各自の性的衝動や権力への意思や経済的利害関係が判断のメカニズムを支えているという見方さえあります。
カントは定言命法に即して道徳的判断を下せばよいのだと言いますが、カント自身が認める通り、定言命法──普遍的法則として妥当し得るような格率に即してのみ行動せよ──は、具体の情況でただ一つの正しい行動を指し示してくれるほど、内容が豊かではありません。至高の善を希求して祈りを捧げることも、実践理性を統御する技術の一つですが、祈りはかつて近代初頭のヨーロッパで、異なる善をそれぞれ旗印に掲げて突き進もうとする多様な宗派による血みどろの闘争を惹起しました。
価値観が多元的であること、それらがしばしば激しく衝突することを事実として認めることから、近代立憲主義は出発していますし、一般的な法体系を確立しそれを実力で強行することで、各人に自由な行動の範囲を平等に配分する──各人に各人のものを与えよ──近代的法体系も、出発点は同じです。正しい判断にあたって必要なのは、まず、ありのままにこの世界を見ることです。
(後略)
上記内容は本書刊行時のものです。