書店員向け情報 HELP
書店注文情報
在庫ステータス
取引情報
〈クラシック〉と〈ポピュラー〉
公開演奏会と近代音楽文化の成立
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2014年3月
- 書店発売日
- 2014年4月18日
- 登録日
- 2014年3月22日
- 最終更新日
- 2014年4月16日
目次
はじめに
序章 モーツァルトは「クラシック音楽」か?
1 クラシック音楽という概念がなかった時代
2 自立する音楽
第1部 ドイツの教養主義的演奏会
第1章 ライプツィヒとゲヴァントハウス演奏会
1 ゲヴァントハウスの成り立ち
2 「音楽監督」メンデルスゾーン
3 シューマンと『音楽新報』
4 後継者たち
第2章 ブレンデルとゲヴァントハウス
1 ブレンデルの演奏会改革論
2 ブレンデルの立場
3 ゲヴァントハウスの演奏曲目
4 作曲家ごとの傾向
5 ブレンデルとゲヴァントハウスの違い
6 教養としての機能
第3章 オイテルペ音楽協会
1 ゲヴァントハウスに対抗する演奏会
2 オイテルペの変遷
3 演奏曲目の傾向
4 「進歩派」と「保守派」
第4章 オーケストラ演奏会のプログラム構成
1 ベルリン・フィルにみる演目構成の変遷
2 「伝統」はいつできたのか
第2部 大都会の娯楽的演奏会
第1章 ロンドンとパリの音楽事情
1 ロンドンにおける公開演奏会
2 パリにおける公開演奏会
3 ディケンズが描いたロンドンの音楽事情
4 一九世紀初頭ロンドンの演奏会
5 演奏会の入場料と当時の人々の収入
第2章 プロムナード・コンサートの始まり
1 パリのプロムナード・コンサート
2 ロンドン上陸
3 ワルツの父の英国公演
4 プロムナード・コンサートの定着
5 ミュザールとジュリアンの登場
第3章 ルイ・ジュリアン
1 ジュリアン時代の始まり
2 ジュリアンの演奏会
3 ジュリアンの影響とその後
4 ジュリアンの衰退
5 その後のプロムナード・コンサート
第3部 クラシックとポピュラーができるまで
第1章 「クラシカル・コンサート」
1 ジュリアンの「クラシカル・コンサート」
2 “classical” の意味
第2章 「クラシック」と「ポピュラー」の成立
1 音楽における「古典」の成立
2 “popular” の登場
3 初期の用語例の調査
4 “popular music” の成立
5 “classical music” の成立
6 「増殖する」クラシック音楽
結び
付録:フランツ・ブレンデル「演奏会改革論」(要約)
おわりに
前書きなど
はじめに
本書には二つのテーマがある。
第一のテーマは、一九世紀を中心として公開演奏会が確立していく経緯を明らかにすることである。
メディアの時代、CDやインターネットを通していつでもどこでも気軽に音楽を聴けるようになった現代でも、私たちは演奏会に足を運ぶ。そこには今この瞬間に生成されていく音楽を体験するという臨場感があり、アーティスト自身と、また他の観客たちと、同じ時間と空間をともにしているという一体感がある。
とはいえ、クラシック音楽とポピュラー音楽とでは、コンサートの様子はずいぶん違う。クラシック・コンサートの会場では、聴衆は静かに座って音楽に耳を傾ける。身体を揺らすことも物音を立てることもできず、まして飲み食いなどはもってのほかである。一方、ポピュラー音楽、とくにロックやポップスのコンサートでは、たいてい客は総立ちになり、飛んだり跳ねたり踊ったり。じっと座っているほうが難しい。叫んだりいっしょに歌ったりもする。ライヴ・ハウスなどでは飲んだり食べたりすることも普通である。
同じ演奏会なのにどうしてこんなに違うのか、そもそも演奏会はどのような背景から生まれどうして今のようなかたちになっていったのか、具体的な例を通して眺めてみる。
第二のテーマは、「クラシック」と「ポピュラー」という音楽の区分がどのようにして生まれたか、そのプロセスを明らかにすることである。
「クラシック音楽」「ポピュラー音楽」という概念を、私たちはふだんあまり深く考えることなく使っている。だが、それはいったいどういうものなのか、と考え始めると、意外に定義が難しい。
クラシックといえばバッハ、ベートーヴェン、ショパンなど、古いヨーロッパの音楽が多い。だがCD屋さんのクラシック売り場に行くと、そこには武満徹や西村朗といった現代日本の作曲家のCDも並んでいる。クラシックの基準は時代でも国でもない。音楽のスタイルが共通しているわけでもない。バッハの音楽と武満の音楽の、いったいどこに共通点があるというのか。
ポピュラーのほうだって、よくわからない。ルイ・アームストロングの《聖者の行進》もエディット・ピアフの《愛の讃歌》もAKB48の《ヘビー・ローテーション》も、いずれもよく知られたポピュラー音楽だが、そこにどんな共通点があるのか。楽しい曲ばかりでもないし、踊れる曲ばかりでもない。メディアを通して流通するのがポピュラー音楽だという人もいるが、ルイ・アームストロングだってピアフだって最初は放送とも録音とも無縁だったわけで、それを基準にするのは無理があるだろう。
今の状態を定義するのが難しいなら、始まりに立ち戻って考えてみるのがよいのではないか。そもそも「クラシック音楽」「ポピュラー音楽」という言葉はいつ頃からどのような意味で使われるようになり、どのようにしてこんにちのようなカテゴリーとして意識されるようになったのか、を考える。
これら二つのテーマは相互にからみあっている。そしてそのからみ合いの中に、私たちの音楽文化の土台を形作った近代という時代の一面が浮かび上がってくるように思われる。
吉成順
上記内容は本書刊行時のものです。