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レズビアン・アイデンティティーズ
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2015年7月
- 書店発売日
- 2015年7月31日
- 登録日
- 2015年7月6日
- 最終更新日
- 2024年8月1日
書評掲載情報
2015-09-06 |
読売新聞
評者: 若松英輔(批評家) |
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重版情報
2刷 | 出来予定日: 2016-05-17 |
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重版(第2刷)しました。在庫ございます。 |
紹介
―― 生きがたさへの、怒り
「わたしは、使い古された言葉「アイデンティティ」のなかに、その限界だけでなく、未完の可能性をみつけだしてみたい。
というのは、わたしの日常でみえる光景は、生きがたさにしても、そこから生み出される自己肯定の低さにしても、いまだ解決などとは、ほど遠いからだ。
とくに、わたし自身がこだわってきたレズビアン(たち)をめぐる〈アイデンティティーズ〉の可能性について、えがいてみたい。」
目次
◆ introduction ┃
∞∞∞∞∞∞∞【第Ⅰ部】∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
アイデンティティ――他者と自己のあいだで
◆第1章┃
いま、〈レズビアン・アイデンティティ〉を語ること
〈アイデンティティ〉は不要物なのか?
ある「レズビアン」をめぐる問いから
〈レズビアン存在〉と不可視性
〈レズビアン・アイデンティティ〉を論じること
◆第2章┃
アイデンティティ・ポリティクスを辿ってみる
セクシュアル・マイノリティと〈アイデンティティ〉
〈アイデンティティ〉を求める解放運動
「レズビアン」とは誰か?
揺れる定義からみえるもの
◆第3章┃
「レズビアンに〈なる〉」こと
「わたしはレズビアン」?
越境という経験
〈境界〉へのまなざし
異性愛主義のふたつの輪郭
越境と異性愛主義への抵抗
∞∞∞∞∞∞∞∞【第Ⅱ部】∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
ソーシャリティ――国家・制度と自己のあいだで
◆第4章┃
社会的行為としての〈カミング・アウト〉
〈カミングアウト〉という戦略
レズビアンと〈カミングアウト〉の困難
〈カミングアウト〉を要請する社会的背景
無化/抹消への抵抗可能性
暫定的な「場」としての
◆第5章┃
セクシュアル・マイノリティと人権施策――国家による承認をめぐって
グローバル化社会と同性愛者
日本の人権施策をめぐる流れ
戸籍性別の変更をめぐる法的整備
人権施策にみる同性愛(者)嫌悪
分断線を超えるために
◆第6章┃
〈反婚〉の思想と実践――同性間の婚姻への批判的考察
「結婚」する権利?
法的保護をめぐる論点整理
日本における議論
婚姻制度を支える制度――戸籍・差別・天皇制
「反婚」の思想と実践
断絶の時代につながりを求めて
∞∞∞∞∞∞∞∞【第Ⅲ部】∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
コミュニティ――人びとのあいだで
◆第7章┃
〈コミュニティ〉形成とその〈アイデンティティ〉
〈コミュニティ〉とは何か
〈コミュニティ〉形成のポリティクス
異なりを表出する〈コミュニティ〉
◆第8章┃
〈アイデンティティ〉の共有の困難と可能性
〈コミュニティ〉実践の戦略――ECQAの事例から
〈コミュニティ〉の不可能性と可能性
アンビバレントのなかにある可能性
◆終 章┃
〈レズビアン・アイデンティティーズ〉の可能性――異性愛主義への抵抗に向けて
「性の多様性」の時代に
〈同化〉か〈抵抗〉か――可視化戦略の陥穽
〈怒り〉の共同性へ――異性愛主義への抵抗可能性
文献一覧 / あとがき
前書きなど
◆ 以下、343-344頁より引用 ――――
実現しえなかった可能性としての「私たちの怒りとしてつながっていく可能性」――それは、怒りの共同性といいかえることができるだろう。否定的な感情の発露である「怒り」は、マジョリティ規範のなかでは、受け入れられないかもしれない。たとえば、排除され、攻撃されることへの抵抗のシンボルだったはずの六色のレインボーが、多様性を祝福するシンボルとして読みかえられるように、肯定的な態度を積極的に打ち出す努力が、いまも重ねられている。そして、その努力のかげで、怒りの共同性が生み出される可能性は、分断されつづけているのかもしれない。
レズビアンたちの経験――は、さまざまである。であるがゆえに、それらをただひとつのものとしてあらわしていくことは不可能でもある。しかし、その経験を可能な限りつなげようとすることによって、異性愛主義という社会規範が発するメッセージを拒否していく手段を生み出していくことは可能であろう。それぞれのレズビアンたちの異なる経験――〈レズビアン・アイデンティティーズ〉――を紡ぎだしていくときに、かつて語られたそれぞれの問いかけへの応答可能性は生まれるものである。そして、同時に、異性愛主義への抵抗は、その規範がもつ、さまざまなほころびや裂け目を発見しつづけ、それらを詳細に記述していくことで、結果的に、編み出されていくものでもあるだろう。その作業を丹念につづけていくことこそが、まさに、異性愛主義への抵抗可能性へとつながっていくのではないだろうか。
わたしが思考しつづけてきた〈レズビアン・アイデンティティ〉は数多くある〈レズビアン・アイデンティティーズ〉のうちの、たったひとつの経験にすぎないのかもしれない。しかも、この2010年代の日本においては、主流からは外れてしまった、かなり周縁の経験にすぎないのかもしれない。
それでもなお、こだわりつづけることを止めてしまえば、道を拓[ひら]こうとする出発点にすらたどり着けないような気がしてならないのだ。そこから出発しようとする、レズビアンとしての「怒り」としてえがきだそうとした共同性は、実現しないのかもしれない。しかし、ときに「怒り」を共有する点と点があり、そこで対話が育まれていく。出会いつづけることによって、複数のアイデンティティがぶつかりあい、化学反応を起こしていく。わたしは、その可能性に賭けたいのだ。
この先も、しばらく、この戸惑いと葛藤と逡巡の日々はつづくだろう。怒りの共同性を紡[つむ]ごうとする誰かとつながりつづけるために。
版元から一言
若い読者の方々にも、読んで理解してもらえるように、耳なれない用語には説明を加え、なおかつ、中学3年生以上で学習する漢字に、読みがなルビを付けております。
追記
本書の中身の一部分は、洛北出版のwebサイトで、ご覧いただけます。
上記内容は本書刊行時のものです。