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水産加工外史
“痛快” 今忠(イマチュー)一代記
- 出版社在庫情報
- 品切れ・重版未定
- 初版年月日
- 2011年2月
- 書店発売日
- 2011年2月17日
- 登録日
- 2010年11月16日
- 最終更新日
- 2012年10月11日
紹介
好評のうちに品切れにより、増補版完成。
-発刊によせて-より
親友、今忠の快著「今忠一代記」が世に出ることになった。天下の読書子に、中でも水産人にお勧めしたい好著である。
もちろん「院殿つきの戒名」をはじめ私にとって懐かしい話題が登場することによる身びいきもないことはないが、それ以上に、今忠とともに読者は水産の研究、行政、ビジネスの三つのジャンルを眺めわたし、鳥瞰図を得ることができるからである。
そればかりでなく、今忠の経歴が「沿岸から沖合へ、沖合から遠洋へ」と言われていた時代に始まり、獲りたい放題に獲れる海がどこにもない時代に至っているため、読者はおのずと今忠流の歴史感覚を共有することができる。
本書に登場するエピソードは今忠の博覧強記と既存の枠組みにとらわれない彼の発想の例証となっている。
閉塞感が水産を覆っている今日、ことのほか必要とされる元気の素が本書には充満している。
佐野宏哉(元水産庁長官)
目次
発刊によせて
まえがき
〈今忠(イマチュー)由来記 ― 小著のタイトルについて〉
第一章 生い立ちの記・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
1 生い立ち ― 突然の母子家庭、無常と無情の世の中を知る
2 小樽に勤務 ― 役所の出先は住み心地よし
3 水産研究所に赴任 ― 塩釜・東北水研 観光ガイドも兼ねる
4 東京へ転勤 ― 勝手知ったる宮城に毎年出張
5 漁船団へ乗り組む ― 生涯忘れられない嵐
第二章 現場から行政へ ― 雑用集積・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
〈戦前の水産加工〉 水産物の輸出データから
〈敗戦後の水産加工〉
1 概況
(1) 国は ― 最低の生活水準からの脱出
(2) 農林省 ― 畜産界では ― 配合飼料の増加
(3) 水産の世界では
2 魚粕魚粉で畜産局と対抗戦
(1) 洋上におけるミール生産体制 ― 全て輸出せよ
(2) 沿岸における生産・供給体制 ― 論と政策だけ、実力なしの会社もある
3 魚価対策
(1) 冷凍すり身工場への補助 ― スケトウダラをすり身に
(2) 調整保管事業への駆り出され ― 新米課長のお守りをせよ
(3) 事業団構想と新基金 ― 気でも狂ったか
4 水産加工団体 ― 組織の強化
(1) 全水加工連の結成 ― 朝から晩まで論争 下駄履きとケンカやめろ
(2) 調味加工品加工団体の強化
5 加工場の排水処理 ― 初代「水産加工公害防止専門官」
6 カマボコをめぐる大手と中小の対立 ― 佐藤総理と面談
7 輸入の仕事
(1) 当時の輸入割当の仕組み
(2) 輸入の拡大 ― 鉢巻締めて一緒に座ってくれや
(3) 魚粉の自由化 ― 最低価格の底抜け策とは?
(4) 魚粉の関税割当制度 ― 効果が減少して仕事は増加
(5) 関税法に仕掛けた巴投げ・みなし内国貨物
8 CODEX
(1) CODEXとは何なの?
(2) 初めての国際会議へ ― 授業料出してやるから英会話学校へ行け
(3) CODEXの効 ― 規格原案の作成でポルトガルを訪問
(4) エジプトでクレーム処理 ― 唖然! 二時間で解決
9 二〇〇海里と加工対策 164
(1) 緊急融資 ― タクシーに乗ってでも出て来い
(2) 工場取り潰しに補助金 ― 繰越明許?
(3) これから新しく法律を作る?
(4) 加工対策室を新設 ― 徳川時代で言えば藩領拡大だ
(5) トラック野郎 ― この素敵な上司
(6) 新製品の開発 ― 目先を変えよ
10 漁業行政へ移る ― 客は加工屋から漁師に
〈 正面突破の尖兵 〉
(1) 新兵の試し方 ― 「使いものになるか否か」
(2) 減船 ― 国の助成はその都度変わる
(3) 日米漁業交渉
(4) モロッコ入漁交渉 ― アラビアンナイトの雰囲気
第三章 鯨の思い出 ― クロパトキン将軍が始まり・・・・・・・・・・・・・・・・・
1 フィリピンの捕鯨 ― ライン課長の今井の出番
2 イメルダ夫人側近の無賃乗車 ― 逮捕し刑務所に入れますよ
3 ソ連と分配協議 ― ソ連が大韓航空機を撃墜し、モスクワから帰れない
4 捕鯨問題検討会 ― 多士済々
5 捕鯨、ペリー修正法、北洋漁業の三すくみ
6 寝ている餞別 ― 中身は?
7 パックウッド上院議員 ― 田澤大臣の切り返し
8 国会討論 ― 譴責で「進退伺い」
9 日米捕鯨交渉 ―「一代限り」とは何年? と逆上!
10 皇室と鯨 ― 太地の赤子の生活は?
11 ソロモン缶詰と共同船舶株式の譲渡 ― 虚々実々の結果は?
12 オットセイ保存暫定条約 ― 安倍晋太郎外務大臣珍答弁
第四章 退官 ― 大洋漁業天辰氏の来訪「来たな、大事件だ」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・
1 大臣からの電話 ― どちらの佐藤さん? 退職辞令にワインで乾杯!
2 名刺と本人、信用があるのはどちら?
3 仇敵会社が開いた送別会 ― 当社には誘わなかったけれど・・・
4 JALと水産会社 ― 官僚の経営センスは
5 海外視察の始まり
(1) ソロモンへ行っては困る ― 虚構が見破られる!
(2) ソ連・バルト三国訪問 ― 役所を辞めたら別世界があった
6 中部藤次郎社長の逝去と辞意表明 ― 一回目の辞意取り下げ
7 国が違えば、警備も異なる ― カーメンツェフ漁業大臣来日
第五章 心・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
1 上役の気配り ― 部下を助けなけりゃあ
2 役所と会社はどこが違う ― 事業仕分けされる訳は?
3 福沢諭吉と一心太助 ― 今井の遺言の一つ
4 再び辞意 ― 辞表を出して翌日に取り返す
第六章 会社の仕事 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
1 大洋漁業 ― マルハでの珍道中
(1) 役所では許されない買物劇への出演
(2) 社内にも格差
(3) 本社ビルを出て自由に動こう
2 甘くなかったキューバの砂糖 ― 社運の苦味
3 ペレストロイカに乗ってみたが ― 米原万里女史の働きも実らず
4 ナミビアで会社設立 ― カラハリ砂漠を何度も横断
5 他所からの婿に全権を預けてもいいの? ― 六二歳の春に漁業の親方
あとがき
参考文献
前書きなど
私も近く八〇代を迎えることになり、これより先の健康に自信は持てない。たまたま、平成二一年に民主党政権が生まれ、半世紀以上つづいてきた世の中の仕組みは根本から見直されることになる。現在までの仕組みはどのような考え方で作られてきたかが、改めて問われることになる。
漁業について、戦後、昭和二〇年代に、現在の漁業法が定められた時、法改訂に当たられた諸先輩の考えられたこと、いきさつについての文書・解説が多く残されている。昭和三〇年代後半から後も、これら記録が私の勉強のもとになった。しかし、漁業関連産業としての水産加工・水産物貿易についての資料は、ジェトロの出版物のほかには、ほとんどない。
私は、水産加工にたずさわったことが長い。この間に体験したことを記し、現在活躍中の方々に、過去のいきさつを知って頂くことが、大切だろうと思う。現役の方々が、これから始まる大変革を起すにあたって、参考になるだろうと考えた。
水産物の価格安定、水産物貿易、水産加工業界の組織の強化、の三点が私のメモの中心である。
漁業と水産加工とは切り離して考えることができず、同じ方舟に乗った運命共同体ではあるが、利害が相反する点が多いことも事実である。
昭和三八年(一九六三年)に水産庁生産部水産課に移ってから、水産加工団体の組織作りに努めてきたが、当時の水産業協同組合法による水産加工業協同組合の組合員資格は、「常時使用する従業員は三〇人以下の事業者」に限られていた。なお、現在では三〇〇人以下である。
これでは組織の強化を叫んでも、力があり、名のある加工者の多くは、水産加工業の組合員資格がないわけで、業界団体の強化結束が進むわけがない。
なぜ、このように従業員数を制限したか、その理由を探してみたところ、水産加工業者が強くなれば、金融力も強くなり、漁業者へ金を貸し、その結果、漁業者の漁獲物を出させ、安く買い叩くことにつながる。
すなわち、明治時代から戦前までつづいてきた函館・下関等の海産商の復活につながる。海産商がやってきた「前渡し資金」の金融に代わって、戦後は、農林中央金庫が漁協に金を貸す「系統金融」になってきた。水産加工業者は、強からずまた弱からず位が、戦後の社会にとって、好都合だという考えであることを理解した。
この考え方が未だ大きく残っていると思われることがある。政変が起こっても、与党の考え方としては、所得保証・価格支持は漁業者だけに行い、市場・取引・貿易各関係者を外した政策を広げて行こうと考えているように見受けられる。
別な見方をすれば、加工・流通・貿易関係者は、第一次産業の漁業に寄生するアブラ虫といった発言・手法が時々出てくる。
でも考えてみたらいかが?漁業は清潔で、生業だから、大切にしなくてはならぬとしても、お金の受け渡しがなければ、生業も企業活動もつづかない。現実には、市場又は問屋が漁業者に金を支払ってくれて、漁業者が生きているわけで、政府も金を払う者を無視してはいけない。
幸いにも、私は、江戸時代に言う「士農工商」の四身分階級のすべてを自分で体験した。振り返ってみれば、人生は面白かったし、楽しかった。この世には、色々な事があるものだと実感した。
水産加工外史としての記録を残そうとして、作業をはじめたところ、何人かの知人が、一層のこと、「生い立ち」を加えて「一代記」にしたらと、示唆して下さった。
よって、叙事文が随筆、さらに叙情文も加わり、本を書いておく目的がボケてきたが、加筆した事情があるので、お許し頂きたい。
水産行政をなさる方々、水産団体の経営にあたっておられる方々に、御一読して頂きたいのは、第二章以下のところです。
版元から一言
本書は半世紀を超える著者の研究、行政、民間企業経営に関わった珠玉の経験をまとめたものです。だが、本書は単なるパーソナル・ヒストリーを超えて、高度成長から縮小再編を辿る日本水産業を支えてきた水産政策立案現場の息遣いや葛藤、水産外交の舞台裏、水産政策づくりにおける官僚たちの思想的な営みや矜持を如実に描き出しています。
とくに、古典的な漁業政策から流通・加工・貿易を含めた新たな水産政策への展開・転換の過程を知る上で、本書がまたとない好著となります。その意味で、本書は優れた現代水産経済政策史であり、業界の先達からわれわれ後進への警世の書でもあります。
無分別な官僚たたきがあたかも「社会的主義」となり、過剰なまでの「民間原理主義」的な考え方が持てはやされる今日的な社会的雰囲気のなかで、「歴史は繰りかえされる」、「公に奉仕する」という政策哲学に立脚する著者の語る本書の内容は、日本水産業の将来に関心をもち、今後あるべく政策立案の姿を考えようとするすべての皆様方に一読されたい。
婁小波(東京海洋大学海洋政策文化学科 教授) 本誌帯<推薦文>
上記内容は本書刊行時のものです。