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唄者 武下和平のシマ唄語り CD付
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2014年7月
- 書店発売日
- 2014年6月25日
- 登録日
- 2014年5月29日
- 最終更新日
- 2021年2月25日
重版情報
2刷 | 出来予定日: 2021-02-25 |
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紹介
第1部は実際に奄美民謡武下流として多くの唄者を育ててきた著者 武下和平が「誌上シマ唄入門教室」として実際のレッスンのエッセンスを披露している。
なにより本書が画期的なのはこれからシマ唄を習ってみたいという人のために初心者にもっとも適している課題曲5曲を現代語訳をつけて解説し、武下和平が付属のCDで歌っているところである。
「シマ唄」の理解に必要な基礎知識編も盛り込まれている。
第2部は、奄美でさまざまなシーンで歌われる「祝い唄」、「半学」といわれる「教訓歌」を取り上げ、現代語訳とともに、歌唱法、歴史的解釈や文化的価値についての深い知識と考察が著者の武下和平と聞き手の清眞人の間で交わされる。第2部においても武下和平が抜粋した節を歌いCDに収録している。
第3部は奄美が生んだ百年に一人の唄者 武下和平のエピソードに満ちた回顧録。
目次
お二人の対話が読者の私のなかで朗読に変わる不思議さ 義永秀親 3
はじめに 清 眞人 9
第一部 誌上シマ唄入門教室15
はじめに 17
シマ唄基礎知識20
シマ唄とは「集落の唄」のこと 20
八・八・八・六の定型(琉歌形式) 23
シマ口の世界 25
裏声唱法 29
八月踊り唄と三味線唄としてのシマ唄の関係、そしてリズム・拍子の問題 34
尺と曲(ま)げ 38
囃子(はやし)と出だしの「ハ~レェ」 40
三味線について 42
シマ唄誌上教室47
行きゅんにゃ加那節 47
ヨイスラ節 56
糸繰り節・心配(しわ)じゃ節 68
豊年(ほうねん)節 79
黒(くる)だんど節 86
第二部 祝い唄・教訓唄・シマ誉め唄99
祝い唄101
婚礼祝い唄 101
祝い唄 113
誕生を祝う唄 119
年の祝いの唄 121
正月唄 125
新築祝い唄 130
教訓唄136
シマ誉め唄145
宴席の祝い唄 145
塩道(しゅみち)長浜節 146
奄美シマ唄を日本全国に知らしめる彗星
それが夫にとっての武下さんの唄声だった 山田さかえ 148
三つの記憶を刊行のお祝いに 義永忠孝 154
第三部 唄者(うたしゃ)への道︱武下(たけした)和平(かずひら)回想録163
二人の唄者との出会い 165
「武下流」の創立は山田さんが勧めてくれたことだった 185
奄美を出た人々の望郷の想いこそがシマ唄を育てる 189
言葉の力を信じ遊ぶ、それが奄美の文化 194
付録CD 約60分
前書きなど
はじめに
武下和平さんは、戦後の奄美大島で「百年に一人の唄者(うたしゃ)」と呼びならわされてきた「シマ唄」歌手、すなわち奄美大島民謡の唄い手である。
歌が人の心を捉えるのはまずなによりもその歌手のえもいわれぬ独特なる美声、声の魅力を通してだといわれる。奄美ではそのような魅力的な声をもつ唄い手のことを「声者(くいしゃ)」と呼んだ。
だが、ただ声者だけではまだ「唄者」とは呼ばれぬ。シマ唄はまさに民謡として、島人(しまんちゅう)のその時々の魂の機微を唄にのせ、弾ませ、互いのあいだに通わせ、もって島人が互いの心の所在を確かめ合うための最大の交流媒体であった。だから、その場にふさわしい的確な歌詞の唄を響かせ、聴く者を「これこそ、いま、ここで、唄って欲しかった唄だ!」と喜ばせ感心させる才能が唄い手に求められた。そのような的確な唄の選択をなし得る、シマ唄についての広大な知識と選択のセンスをもつ歌手を、人々は「ねィんごう者」と呼んだ。
しかし、唄とは同時にまた音、つまり曲であった。リズムであり、メロディーであった。しかも、聴く者の心を弾ませ、踊らせ、きしませ、唸らせるためには、唄い手が差し出す唄心の上げ下げ、「曲(ま)げ」、つまり「こぶし」が、実にその唄い手独自なもので、その面白さが、今度は聴き手のなかの唄心を刺激し、誘い出し、自分もそのように自分独特の「曲げ」のなかで自分の心を誰はばかることなく響かせてみたいという気にさせるものでなければならなかった。奄美では、そういう独特の味の持ち主であるがゆえに聴き手の心を揺さぶる力を持つ唄い手を、「ぐいん者」と呼んだ。
「唄者」とは、声者・ねィんごう者・ぐいん者の三者を一身に兼ね備えた唄い手を、ただそうした唄い手だけを、呼ぶ言葉である。
武下和平さんは奄美の幾多の唄者の代表のような存在である。彼は昭和八年(一九三三年)に奄美大島瀬戸内町・加計呂麻島・諸数に生まれた。だから今年でもう八一歳になる。しかし、彼の声の艶は全然衰えていない。
彼が最初に出したレコードや、後に発売された青年武下和平の唄声が収録されているCDを聴くと、彼の声のキーが囃子方の女性の声のキーよりも高いことがよくわかる。奄美のシマ唄の日本民謡全体のなかで占める断突の個性は、男性が女性を上回るほどの高い声で女性の唄声に掛け合うところから発展してきた、その裏声唱法にある。日本ひろしといえども、この裏声唱法の冴えは唯一奄美だけに帰せられるものである。青年武下の声はひときわ高く澄み、まさにこの点で断突であった。
そしていま、八十歳を超えた彼の唄を聴くとき、人は、彼がまるで海に突きだした岬の岩盤のうえにただ独り座り、その大なる岩盤に彼の唄を命の水として打ち、また張る、それが彼の唄なのだと感じるであろう。また、その命の水、彼の唄声を得て、その岬の岩盤がにわかに艶を放ち、瑞々しく、また静謐なる光に包まれる、そのような光景を思い描くであろう。
彼は、十二歳のときに古仁屋の民謡大会に初出場したことを皮切りに唄者への道に旅立つ。二七歳で名瀬の奄美民謡大会に初出場し、そのとき、彼を最初に「百年に一人の唄者」と評した奄美シマ唄研究の第一人者の山田米三氏に見いだされ、翌昭和三六年に早くも文部省主催の「第十六回芸術祭全国民謡大会」に奄美チームの一員として出演する。そして、その翌年には名瀬のセントラル楽器から山田米三氏の多大な協力のもと最初のレコードを制作発売した。青年唄者武下和平の誕生であった。
それ以来、彼は日本全国に奄美シマ唄を紹介する奄美の代表的な唄者としての道を一筋に歩んで来た。そして昭和四九年(一九七四年)に「武下流民謡同好会」を発足させ、奄美シマ唄の伝統を脈々と継承する一大拠点として「武下流」を開いたのである。関西同好会と東京同好会を二大拠点とするこの「武下流」の活動は、本土に暮らす奄美出身者の望郷の念に火を放った。本土に奄美シマ唄をみずから唄い楽しむ伝統が移植された。そして、いわばそこから逆輸入するようなかたちで、奄美自身のなかにあらためてシマ唄の伝統を絶やすまいとする幾多の人々がこの「武下流」の活動のなかから育ったのである。
くりかえしいう。「唄者」とは、声者・ねィんごう者・ぐいん者の三者を一身に兼ね備えた唄い手を呼ぶ言葉である。
そういう唄者の、そのまた代表者である武下さんに、彼が生き通してきた唄者人生を、またシマ唄への想いを語ってもらおう、その彼の肉声は、わたしたちが奄美のシマ唄の世界、その宇宙へと近づき、そこへと身を浸すときの、なによりの案内人となってくれるに違いない。この想いが本書を産んだ。工夫として、まず第一部として「誌上シマ唄入門教室」を開こうということになった。本書において読者とは、同時に、武下師匠のお弟子さん、生徒さんである。
武下さんと私とのシマ唄をめぐる対話が進展してゆくにつれ、本書の意図にふさわしく、この本にはCDを付録として付け、そのCDによって、第一部の「誌上シマ唄入門教室」で語られた内容が実際の彼の唄を通しても味わえるようにしようというアイデアが生まれた。そこからさらに、この際だから、ぜひ奄美の祝い唄と教訓歌を一個の独立した部・第二部として論じ、またそれが武下さんの唄としても聴けるようにしようということになった。
奄美のシマ唄が実に豊富な数々の祝い唄に満ちているということは、シマ唄がいかに島人(しまんちゅう)の生活や人生と一体となった、島人の魂の唄・精神の武器であったかの何よりの証拠であった。一言でいって、祝いは人を元気にさせる。祝われることによっても、祝うことによっても。祝うことは、人々が心を持ち寄り、結(ゆい)の絆を産むことである。結の絆さえあれば人はめげない。祝い心はめげない心である。島人はそれを知っていたから、人生の節々、生活の節々にたくさんの「祝い事」を見つけ、すかさずそれを唄った。唄い合った。
武下さんは既に昭和四八年(一九七三年)に一度「祝い唄集」のレコードを出そうと試みている。本書はその試みを四十年を経て引き継ぐ。
奄美のシマ唄を島人は「半学」とも呼んできた。半分の学問、半分学問を兼ねているものという意味である。ここでいう「学問」とは、人生の学問、人生を正しく活き活きと情を濃くして生きるための知恵という意味である。読み書きのできなかった昔の島人は、それを唄にすることをもって親の子に対する教育とし、仲間同士の教育・学び合いとした。ここでもまたシマ唄は島人の生きるための魂の武器であり智恵であった。
第三部は、もう説明するまでもない。題名通り、たくさんのエピソードに満ちた、武下さんの肉声が語る「唄者への道」回顧録である。幼年時代の貴重な記憶から始まる。「百年に一人の唄者」の言葉の由来も解き明かされる。読者が存分に楽しまれることを期待する。
2014年3月 記
聞き手 清眞人
版元から一言
「奄美の島唄」を世に知らしめブームの火付け役となった元(はじめ)ちとせ、それに続く、中(あたり)孝介ら、活躍中の唄者らによる現在の奄美の島唄は、元をただせば全て彼に行き着くという。
その意味で武下和平は「奄美の島唄」のスタンダードといえるだろう。
‘百年に一人の唄者’と言われ畏敬の念をもって語られる武下和平が奄美の島唄と歌唱について奄美の研究者である清眞人(きよしまひと)を聞き役に存分に語った初めての書。
本書で取り上げたシマ唄を著者の武下和平が歌詞の語りと共に実際に歌ったCD付録付。約60分。
関連リンク
上記内容は本書刊行時のものです。