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島の小説集 二天抱擁
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2013年11月
- 書店発売日
- 2013年11月18日
- 登録日
- 2013年10月30日
- 最終更新日
- 2013年10月30日
紹介
根源的な生命的自然としての島を、達意の筆致で描く島と島をゆかりとした本格的短編小説集。タイトル「二天抱擁」を含む9つの物語。
観音山の頂きには十一面観音を祀る補陀洛山松林寺の奥の院があり、麓には通夜堂がある。その通夜堂の本尊、カンギさん(歓喜天)が盗まれたという噂が島じゅうを震わせた。
時を同じくして島の若夫婦、直次郎とトヨに異変が・・・
毎夜、トヨが苛まれる悪夢と直次郎の狂気は、果たしてカンギさんの怒りの表れなのか、島びとの喪失感なのか・・・
目次
障子戸の明るみ
猫と盆踊り
二天抱擁
海嘯(つなみ)の記憶
二月の海
蝶(はべる)の川原
イヌガンの歌
大神島(うがんじま)
ポンソ・ノ・タオ
あとがき
前書きなど
あとがき
晩夏、机の前に坐って海の方からの風を受けていると、今までに訪れたり暮したりしたいくつもの島々が浮かんできます。瀬戸内海や日本海の島々、南西諸島の島々、外国の島々、そして生まれ故郷の四国東端の小島など。
島は、私の中ではたんなる自然や環境ではなく、それぞれの貌と身体をもって生きている存在です。つけては、鎌倉時代の栂尾(とがのお)高山寺の明恵(みょうえ)上人の逸話が思い出されます。明恵上人はかつて修行した紀州の小島をなつかしみ、思い余って都から手紙を出しました。その島は無人島でした。上人は手紙に「島殿へ」と宛名し、「その後お変わりございませんか」から始まって、「あなたといっしょに遊んだ楽しさが忘れられません、あなたはすべてを具足しています、私の最高の友です」などとしるしました……(『明恵上人伝記』)。その島自体に寄せる深い親愛の情は、私にもよくわかる気がするのです。
この、島を舞台とする、または島にゆかりをもつ小説を集めた本も、長年の思いをこめた、私の島々への手紙のようなものです。島、中でも集落がたった一つしかなくあとは海と山だけというような小島に生を享けるということは、言うなら、圧倒的で根源的な生命的自然の中に初めて自己をもつということを意味します。そこで島は自分の一部であり、また自分は島のごくささやかな一部であるとも感じます。そこからまた私は、ほかの数ある小島にも無性に惹かれてきました。できればこの本が、その島々に届きますように。
作品のほとんどは、八〇年代から九〇年代にかけて、関西にあった同人誌「たうろす」に掲載したもので、今回手直ししました。ですから作品はほぼインターネット・携帯以前の世界ですが、でもただ過去をなつかしもうという意図ではありません。
題の「二天抱擁(にてんほうよう)」は、まずは歓喜天(かんぎてん)の像容の形容です。歓喜天像は多く象頭人身の男女二体が抱擁しあうかたちをとり、多く秘せられます。また、最後の作品「ポンソ・ノ・タオ」については、皆川隆一氏の論考、「言葉の槍」(「三田国文」七)および「神の憐み・死霊の妬み」(『南島研究と折口学』)を一部参考にさせていただいたことを付記します。
版元から一言
南島叢書95巻目にあたる本格派の9つの短編小説です。
浮かれた「離島ブーム」とは縁遠い、硬質に「島」をとらえた作品は読みごたえがあります。
上記内容は本書刊行時のものです。