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ルイス・キャロル ハンドブック 安井 泉(編著) - 七つ森書館
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ルイス・キャロル ハンドブック アリスの不思議な世界

発行:七つ森書館
A5判
264ページ
並製
定価 2,000円+税
ISBN
978-4-8228-1376-5
Cコード
C0098
一般 単行本 外国文学、その他
出版社在庫情報
在庫あり
初版年月日
2013年7月
書店発売日
登録日
2013年5月10日
最終更新日
2013年6月21日
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書評掲載情報

2013-07-07 毎日新聞

紹介

『不思議の国のアリス』『鏡の国のアリス』の生みの親、ルイス・キャロル──オックスフォード大学で教鞭をとる数学者であり、カメラ草創期に活躍した写真家でもある。さまざまな顔をもった生涯と作品世界の秘密を読み解く、日本ルイス・キャロル協会創立20年来の研究の粋を尽くした一冊。
テニエルの原書挿画やモデルとなったアリス・リデルの肖像写真など、図版84点を収録。

目次

Part1 キャロルの生涯
    あの金曜日の午後、すべてが動き始めた
    チャールズ・ラトウィジ・ドッドソンの生誕
    筆名「ルイス・キャロル」の秘密
    クライスト・チャーチの数学教員
    『地下の国のアリス』誕生
    リデル家との関係
    児童文学作家としてのルイス・キャロルの資質
    ルイス・キャロルとカメラ
    映像化作品
    キャロルとシェイクスピア劇
    キャロルの死去

Part2 キャロルの作品
    地下の国のアリス (1862年)
    不思議の国のアリス(1865年)
    鏡の国のアリス (1871年)
    スナーク狩り(1876年)
    シルヴィーとブルーノ (1889年)
    シルヴィーとブルーノ完結編(1893年)

Part3 アリスの窓から広がる風景
    ノンセンスの力学――センスはノンセンスを、ノンセンスはセンスを求める
    アリスの国の鏡像

Part4 キャロルの万華鏡
    ルイス・キャロルの英国(中島俊郎)
    ルイス・キャロルの自然誌(西村光雄)
    近代スポーツの時代とルイス・キャロル(三村明)
    アリスの不思議の国――意味論の冒険(小木野一)
    42を操るキャロルの世界(木場田由利子)
    『シルヴィーとブルーノ』とキャロル(平倫子)
    『アリス』の日本での翻訳(楠本君惠)
    日本の『アリス』挿絵にみる流れの表象(千森幹子)
    『アリス』の中のマザーグース(夏目康子)
    マザーグースと日本(高屋一成)

ルイス・キャロル年譜(木下信一編)
ルイス・キャロル書誌(木下信一編)

前書きなど

はじめに

 本書は『不思議の国のアリス』の作者ルイス・キャロルのことを少しでも知りたいという読者のためにハンドブック形式で書かれた入門書です。入門書なのでルイス・キャロルについてあまりよく知らない人が読んでもわかるようになっています。しかし、一般の入門書と違うところは、かなり専門的な知見に至るまで、わかりやすく気前よく書かれていることです。ルイス・キャロルについてはよく知っていると思っている人をも新しい発見へと誘ってくれる内容となっています。『不思議の国のアリス』の冒頭でアリスはお姉さんが読む本をのぞきながら、「絵や会話のない本はつまらないわ」とつぶやきます。主人公のアリスに背中を押されて、このハンドブックではできる限り多くの挿絵や図版を用いることにしました。このような資料が、平面的ではなく立体的なルイス・キャロル像を形づくる手助けをしてくれるものと思っています。
 英国で最もよく読まれている書物を三つ挙げなさいと言われたら、ほとんどの人が迷うことなく「聖書」「マザーグース」「シェイクスピア」の三つを挙げるでしょう。そこで、もう一つ挙げるとしたらと質問を続けるとすれば、その答えは、間違いなく『不思議の国のアリス』になるでしょう。確かに、しばらく前までは、この答えで良かったのですが、多様な現代社会においては、少し様子が変わってきたかもしれません。聖書もシェイクスピアもよく知られているかもしれませんが、昔ほどは皆が活字を追わなくなっています。マザーグースも、歌詞は知っているので書物となったものを読む機会は減ってきているのではないかと思います。
 ところが、『不思議の国のアリス』を読む人の数は減るどころかますます増えているように思います。世界のあらゆる国で翻訳が出版され続けています。現在でも百四十近い言語に翻訳されています。通例の書物の翻訳は、一つ翻訳が出されると、別の人の翻訳が出版されることはまずありませんが、『不思議の国のアリス』に限っては、二種類以上の翻訳が出版されることもまれではありませんし、さまざまな画家がまったく新しい着想の挿絵を描くことも珍しいことではありません。特に日本では明治以来数え切れないほど多くの翻訳が出版されています。この『不思議の国のアリス』の作者がルイス・キャロルという人なのです。
 『不思議の国のアリス』やもう一つのアリスを主人公にした『鏡の国のアリス』などルイス・キャロルの書いたものには多くのことば遊びが仕掛けられています。このことば遊びの翻訳への飽くなき挑戦が日本人の心をとらえて放さないのです。その理由は、日本には、古くから浄瑠璃などでことば遊びの文化が根付いていたことに求めることができるのではないかと思っています。
 ルイス・キャロルという名を初めて聞く人もいるかもしれませんが、『不思議の国のアリス』の作品のことを初めて聞く人はほとんどいないのではないかと思います。絵本で知っていたり、ディズニーの映画を観たことがあったり、キャラクターの人形をもっていたりと、人によってその親しみ方はさまざまでしょうが、とにかく、白ウサギを追いかけて行ってウサギの穴に落ち、背が縮んだり伸びたりしながらもさまざまな出来事に遭遇するお話の主人公であるアリスという少女に、多くの人が親しみを抱いていることと思います。このお話の作者こそがルイス・キャロルというオックスフォード大学クライスト・チャーチの数学の先生だったのです。
 ルイス・キャロルが生きた英国のヴィクトリア朝は、英国が大英帝国として最も輝いていた時代でした。社会のあらゆる変化がせわしく大きく動いていた時期でもありました。彼は数学の研究者として著書を何冊か書いていますが、それに加えて、少女たちを機知で楽しませる雰囲気をもっている人で、当時世に出始めた写真術ではアマチュアのカメラマンとして大学の一角に撮影スタジオまで作ってしまいます。動植物に造詣が深く、大学の改革路線に反対する気骨の人でもありました。さまざまなことの一つひとつに凝り性である性格が投影されていきます。最後の博物学者と言ってもよい人であったと思います。
 凝り性の気質は、少年時代、電車ごっこで電車から落ちた人は少なくても三回電車にひかれなければ手当てを受けられないなどの独自のルールを作るなどの遊びの工夫にも見ることもできますし、英国のいにしえのアングロサクソンの古詩として北欧古代のルーン文字に似せて詩を書いたりしていました。この詩は、後に『鏡の国のアリス』のジャバーウォッキーの第一スタンザ(連)となります。凝り性は、『不思議の国のアリス』の元となる『地下の国のアリス』の手稿本でも十二分に発揮され、『不思議の国のアリス』『鏡の国のアリス』に引き継がれていきます。『不思議の国のアリス』は今でいう自費出版の形で出版されたことが功を奏しました。できあがってみれば、この自費出版という出版形式は、完璧を目指すルイス・キャロルからすれば、なまじ出版社に肩入れしてもらうよりも、妥協を許さない組み方や印刷を主張するには、最も良い方法であったことになります。
 ルイス・キャロルは、すらっとしたやせ形で姿勢が良かったと言われています。散歩が好きで、オックスフォードの町を大股で歩くその姿は、いかにも大学の住人を思わせるものでした。多くの写真を撮影し、確認できるものだけでも千枚弱の写真が残されていますが、生涯で写真展へは一度しか出品しませんでした。
 本ハンドブックは、ルイス・キャロルの生涯(PART1)に始まり、作品を通してルイス・キャロルの魅力に迫る主要な作品解説(PART2)、ルイス・キャロルのことば遊びの本質(PART3)と続きます。PART4では、日本のルイス・キャロルの選りすぐりの十名の研究者がそれぞれの立場でルイス・キャロルの姿を照らし出します。英語ではある角度から見た姿をアスペクト(aspect)と言い、さまざまな角度から見るときにはこの語の複数形のaspects(諸相)を用います。PART4の表題に「万華鏡」という語を選んだのは、それぞれの研究者の見方によって、さまざまな角度からのルイス・キャロル像がより立体的に浮かび上がってくると考えたからです。編集者として、全体の原稿に目を通し、筆を入れながら、わたしの中で化学反応が起こっているように思えました。英語学ということばの分析が専門のわたしにとって、ルイス・キャロルへの興味の中心はことばを手がかりにして一直線に突き進むことでした。そこに踏みとどまっていたわたしの興味が、編集を進めながら、気がつくと二次元に広がり、さらに、三次元に拡大されていくように感じたのです。わくわくするような瞬間がただただ積み重ねられていきました。ルイス・キャロルのハンドブックを読み進む読者の方々も、編者が得たこの不思議な体験を追体験することができるのではないかと思っています。
 このハンドブックは初めから順に読んでいくのも良いのですが、必ずしも順番を守る必要はありません。興味のあるところ、どこからでも読み始められます。興味が新たな興味を呼び起こし、興味の赴くままに誘われて読み進むうちに、気がつくとこのハンドブックをすみからすみまで読了していたという読み方ができれば、それが最高の読み方になります。目次に沿って読まなくても全体を読み切ったときには、ルイス・キャロルのイメージが、二次元的な広がりではなく、確実に立体となって迫ってくるはずです。さらに、折に触れての参照文献として役割を十分に果たすことができる内容ですので、読み終わった後も手元に置いていただくことができれば、さらに新しい興味をかき立てることができるのではないかと思います。そうなれば、それは編者にとってこの上なくありがたいことです。
 『不思議の国のアリス』の主人公であるアリスが、とうとう最後にきれいな庭に抜ける扉の鍵を手に入れたように、このハンドブックが、読者の皆さんが思いもよらなかった新しい世界への扉を開ける秘密の「鍵」となってくれたらと願っています。そのとき、わたしたちは、皆さんをまたお待ちしています。

   日本ルイス・キャロル協会会長/筑波大学名誉教授  安井 泉

版元から一言

<日本ルイス・キャロル協会とは>
1994年、高橋康也(東京大学名誉教授)により創立。英国、北米、豪州、カナダなど世界6カ国のキャロル協会と連携。在野の研究者を中心に100名を超える国内会員、50名近い海外会員を擁する。本書Part4「キャロルの万華鏡」に会員による最新の研究成果を収録した。

著者プロフィール

安井 泉  (ヤスイ イズミ)  (編著

 1948 年、東京都生まれ。日本ルイス・キャロル協会会長、聖徳大学教授、筑波大学名誉教授。ロンドン大学客員教授、英語語法文法学会会長等を歴任。
 著書に『音声学』(現代の英語学シリーズ第2巻、開拓社、第27回市河賞受賞)、『ことばから文化へ』(開拓社言語・文化選書第18巻)など。訳書『地下の国のアリス』『鏡の国のアリス』(以上、新書館)など。

上記内容は本書刊行時のものです。