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沖縄 鎌田 慧(著) - 七つ森書館
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沖縄 抵抗と希望の島

発行:七つ森書館
四六判
392ページ
上製
定価 2,500円+税
ISBN
978-4-8228-1008-5
Cコード
C0036
一般 単行本 社会
出版社在庫情報
在庫あり
初版年月日
2010年4月
書店発売日
登録日
2010年3月19日
最終更新日
2013年2月22日
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書評掲載情報

2010-05-16 東京新聞/中日新聞
評者: 新崎盛暉(沖縄大学名誉教授)

紹介

普天間飛行場移転はどうなる?
1975年7月の海洋博開幕から、2010年1月、普天間基地の移設に反対する名護市長が当選するまでの、35年におよぶ沖縄取材をまとめる。
基地依存経済から脱して、地域がどのような持続可能な道を歩んでいくのか。農業の復興もふくめ、沖縄から、日米新時代を考える。

目次

はじめに

1 辺野古住民の抵抗
  「辺野古に基地はつくらせない」
  非暴力直接行動
  自衛隊の沖縄派兵事態
  黄金色に輝くジュゴンの海
  ジャングル戦の基地化
  稲嶺名護新市長の決意
  高江住民、オスプレイへの抵抗
  持続可能な地域づくり

2 痛憤の島
  ウチナーとヤマトのつながり
  怒りの沖縄
  集団自決の悪夢
  読谷村の痛哭
  基地の島に生きる女性たち
  沖縄が左側通行になる日
  四大新聞の「琉球処分」に抵抗した男

3 海どぅ宝・石垣島
  空港建設を拒否
  島おこし
  白保陸軍飛行場
  魚わく海

4 「復帰の祭典」海洋博の傷痕
  荒廃の海
  二人の区長
  明日につなぐ夢
  さまざまな道

5 海洋博 そのまえとあと
  農民を追い出した用地買収
  皇太子訪沖阻止闘争
  伊江島の闘い
  沖縄復帰とは何だったのか
  本土資本侵攻作戦
  沖縄経済が浮上しない理由

あとがき

前書きなど

まえがき

 はじめて沖縄を訪れたのは、一九七五年春、七月からはじまる「沖縄海洋博」のすこし前だった。鳴り物入りで宣伝されている海洋博の問題点を書け、という週刊誌の依頼を受け、一カ月ちかく滞在して、六回の連載だった。
 そのころ、週刊誌の編集者は、そんな企画を考えていた。巻末に収めた「海洋博 そのまえとあと」がその記事である。FAXなどなかった時代だったから、毎週、那覇空港に駆けつけ、原稿とフイルムをまとめて航空便で送っていた。
「復帰」はその三年前だったが、残念ながらそれ以前の沖縄は知らない。もしもタイムマシンで移動できるならば、パスポートを見せて入域し、ドルを使用していた異国・沖縄の空気を感じてみたい、と思う。
 七五年七月の海洋博開幕から、二○一○年一月、普天間基地の移設に反対する名護市長が当選するまでの、三五年におよぶ沖縄取材をまとめて一冊にしたのが、この本である。波照間、与那国、南大東島など、やや長めのルポルタージュは、『日本列島を往く』(全六巻、岩波現代文庫)に収録されている。

 沖縄海洋博の会場は、南の海の果てに起ち上がっているちいさな恐竜のような、沖縄本島の左手の部分、東シナ海に突き出された本部町の岬(みさき) の海岸にある。いま、米軍海兵隊の新基地として狙われている(過去形にしたいのだが)辺野古崎は、その東隣に接する名護市の海岸、海洋博の会場と反対側の太平洋岸にある。
 那覇市から、巨大な米軍・嘉手納基地フェンスを眺めながら、ひたすら北上して名護市に至る高速道路は、海洋博開催のすこし前に開通したような記憶がある。海洋博の会場は名護市から左手にすすむのだが、辺野古は右に曲がって海へむかう。その分岐点あたり、名護市の入り口に立っている美事なガジュマルの老木は、三五年まえとおなじように、長い髭状の気根を地上に垂らしつづけて、来訪者を迎えている。
 海洋博の会場のために、農地ごと「没収」された農家をまわっていた。山側の山川、豊原、備瀬などの部落を汗を拭きつつ歩きながら、雪国で育ったわたしは、まるで夢幻の異境を彷徨っているような至福感を感じていた。
 空の蒼を背景にブーゲンビリアの赤い色がくっきり映えていた。緑の濃い福木の並木道を通り抜けると、太陽を浴びて輝く海のむこうに、メキシコ帽の伊江島がシルエットでみえる。はじめての南郷だった。それ以来、沖縄にいくチャンスは意識的につくりだしてきた。
 この本は、普天間移転を拒否する辺野古の抵抗闘争に三割がた割かれている。沖縄の現在ばかりか、日本の未来にとっての重要な課題、と考えるからである。基地依存経済から脱して、地域がどのような持続可能な道を歩んでいくのか、農業の復興をふくめて、沖縄がほかの地域にあたえられる教訓でもある。
 元名護市長・岸本建男さんの「逆・格差論」がこころに残っている。所得格差を縮めていこうとする首長は、えてして大企業や迷惑施設の誘致によって逆転を図ろうとする。しかし、所得の大きさは、けっして幸福感の大きさとは比例しない、という事実を若き日に論証して、彼は名護市の地域づくりを考えていた。
 これは戦後以来、としても議論されてきた。極端にすぎる表現だったにしても、「イモハダシ論」芋を食し、裸足であっても幸福な生活がある、という思想は、発展史観からの脱却だった。「ビフテキよりも青空に梅干し」といういい方もある。
 無限の消費と画一化、都会で金銭の奴隷になるよりも、自然のなかでのより人間的な豊かな生活がある、という主張だ。が、「逆・格差論」を掲げた岸本市長も、中央政府の圧力には抗しきれなかった。それが彼の悲劇だったが、いままた未来を考えるための理論のひとつとして甦っている。
 復帰後三年目、七五年の沖縄海洋博のときにも、自立の思想が議論されていた。CTS(石油備蓄基地)などの誘致によって、一挙に近代化をすすめようとする思想への対置でもあった。ほかの地域よりもはるかに自然に恵まれている、沖縄独自の未来像の創造は、これからである。

 海洋博がはじまろうとするころ、会場のなかは工事でごった返していた。労働者の宿舎の大食堂で皿とフォークとがガチャガチャぶつかる音が、騒音となって道まで響いてきた。その活気がいまでも耳についている。
 宿舎の前に置かれた赤電話に、労働者たちが長い行列をつくっていた。強い日差しの下で、辛抱強く待っているのは、家族の消息を聞くためだろう。そのころの公衆電話は、十円銅貨をいれつづけ、早口で話す方式だったのだ。それは出稼ぎ労働者たちの悲しい風景だったが、本土資本が上陸してくる前触れでもあった。
 本土との一体化完成の儀式が、「7・30交通変更」(七八年)だった。その日の朝六時を期して、地域全体の人間の歩き方が変えさせられる。これ以上の支配の貫徹はない。それは中央からの強制であり、クーデタでもあった。
 「あめりか世」から「やまと世」へ、その虚大な祝祭が「沖縄海洋博」だった。「やまと世」への統合としての「7・30交通変更」、そして、米軍再編成と日米軍事同盟強化の象徴が、普天間基地移転である。その三つが時代のメルクマール(指標)だと思う。その取材のあいだに、金武湾CTS反対闘争や石垣島・白保海岸の飛行場建設反対闘争がある。
 米兵のひき逃げ事件にたいする憤激からはじまった、一九七〇年一二月の「コザ暴動」は、いまでも語りつがれているが、海洋博直前の、「皇太子訪沖阻止闘争」は、負の記憶としてあるのか、奇妙なまでに語られない。この日の決行を事前に語った若者の話を、わたしは記事にした(三二三ページ)。長い獄中生活だったようだ。
 二〇〇七年九月、教科書から「集団自決」の記述が削除されたことへの抗議として、沖縄で十万人を越す大集会があった。その場にいて、わたしはこれからの運動を沖縄がリードする昂揚を予感した。
 九五年一〇月にひらかれた、米兵による少女強姦事件への抗議集会よりも、倍以上になった大集会だった。日本兵の虐殺や集団自決の強制があったのは、戦時中のことだが、いまも米兵の女性たちへの犯罪がつづいているのは、ここがいまだ戦場とつながっているからである。
 渡嘉敷島での集団自決の生き残り女性の話を書いたのは、八六年だった。集団自決について、沖縄のひとたちが、意を決して話しだしたのは、〇七年の十万人大集会の昂揚があったあとからだった。

 この本のサブタイトルを、「抵抗と希望の島」としたのは、この六五年のあいだ抵抗しつづけ、苦悩の中からあらたな持続可能な道をあるきはじめている、沖縄のひとたちから学びたいからである。

版元から一言

「これ以上、沖縄を犠牲にするな!」米占領軍の過剰存在はさまざまな悲惨な事件を起こしてきた。「沖縄海洋博」からはじまった本土資本の植民化、そして普天間基地移転にともなう辺野古新基地建設などと闘い続ける、沖縄の人々との交流35年の記録を集大成!

著者プロフィール

鎌田 慧  (カマタ サトシ)  (

1938年青森県弘前市生まれ。新聞、雑誌記者をへてルポルタージュ作家に。著書に『自動車絶望工場』『空港〈25時間〉』(講談社文庫)、『六ヶ所村の記録』(講談社文庫、91年、毎日出版文化賞)『鎌田慧の記録』(全6巻)『ドキュメント屠場』『反骨のジャーナリスト』『大杉榮 自由への疾走』『椎の若葉に光あれ』『日本列島を往く』(全6巻)『いじめ自殺』『教育工場の子どもたち』『死刑台からの生還』『ぼくが世の中に学んだこと』『狭山事件の真相』(岩波書店)、『橋の上の「殺意」』(平凡社)、『痛憤の現場を歩く』『絶望社会』(金曜日)、『全記録 炭鉱』『反冤罪』(創森社)、『民主党 波瀾の航海』(アストラ)、『こんな国はいらない!』、『時代を刻む精神』『抵抗する自由』(七つ森書館)ほか多数。

上記内容は本書刊行時のものです。