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東京電力・帝国の暗黒 恩田 勝亘(著) - 七つ森書館
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東京電力・帝国の暗黒

発行:七つ森書館
四六判
160ページ
並製
定価 1,300円+税
ISBN
978-4-8228-0753-5
Cコード
C0036
一般 単行本 社会
出版社在庫情報
在庫あり
初版年月日
2007年10月
書店発売日
登録日
2015年8月22日
最終更新日
2015年8月22日
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紹介

中越沖地震で“原発震災”が現実のものに! 東電の管理体制、人事抗争、財務体質は? 暗躍する企業を再検証する。

目次

はじめに

第1章 東電帝国炎上
    1 炎上
    2 失態続々
      ◆……東電社長の座は大臣級
    3 的中した武本和幸氏の警鐘
      ◆……柏崎刈羽原発停止でガソリン価格下がる?
    4 鳥の羽の謎

第2章 隠蔽体質
    1 被曝事故は闇から闇
      ◆……2メートルのニワトリ
    2 隠し隠され──平井証言
      ◆……9・11
    3 臨界事故

第3章 雲上の闘争
    1 超優良企業
    2 温かい会社の奥の院
      ◆……雲上人

第4章 暗闘と暗躍
    1 剛腕次官との暗闘
      ◆……甘利大臣の徳政令
    2 労使両輪体制
      ◆……ちょっと怖い話
    3 東電流アメとムチ

あとがき

前書きなど

第1章 東電帝国炎上
    1 炎上

 白い大きな建物を背に、もくもくと湧き上がる黒煙と足下からのぞく赤い炎。上空を旋回するヘリコプターのカメラが 、その様子を近づいたり、引いたりしながら容赦なく、延々と映し出す。異常な事態であることは誰の目にも明らかだ。が、カメラが引いて映し出される建物の周囲一帯に消防車はもとより、現場に駆けつける人影すらなく、無気味に静まり返っている。
 2007年7月16日午前10時13分に発生した新潟県中越沖地震は、震源が柏崎市の沖合いわずか16キロメートル地点。同市北寄りの海岸に7基の原発を並べる東京電力柏崎刈羽原子力発電所を直撃した。
 地震発生数十分後、柏崎へ真っ先にヘリを飛ばした報道機関はNHKだ。同局は数年前の暮れから正月にかけて東京直下型地震発生を想定、緊急時報道態勢による模擬訓練をしたといわれるだけに素早い対応が取れたのだろう。現地でいち早く原発火災を発見、先のように迫力ある現場の様子をリアルタイムで流し続けた。
 しかし、東電にとってはこれほど屈辱的かつダメージの大きなニュース映像はなかろう。
 稼働中あるいは建設中を問わず、過去に日本の原発で起きた火災はボヤを含めれば数えきれない。2年前、IAEA(国際原子力機関)や原子炉解体企業に関係するドイツの原子力専門家らと茨城県東海村にある日本原子力研究開発機構を訪れた際、構内で消防車の納まった車庫を見かけた。国内の原子力施設を訪れたのは、1999年に同じ東海村のJCOで起きた臨界事故以来だった。
 9・11テロに続く北朝鮮との緊張関係など、近年は何が起きても不思議はない国内外の情勢下にあるだけに、原子力施設での消防車は当たり前のこと。ただ来訪者の目にとまる場所で消防車を見たのは過去にあまり記憶がなく、緑の松林のなかで妙な新鮮さを感じた。ただ同機構はもともとが官製の組織。民間企業の電力会社と異なり、人目を気にすることもなく、何かあればすぐ出動できる態勢をとっているのだろう、と思ったものだ。
 そんな研究施設と違って電力会社の原発は広い敷地をもち、常に数百、数千人の従業員が出入りする以外に、視察や見学などの一般来訪者も多い。発電所自体がいわば一つの街を形成しているだけに、消防車は必要な装備の一つ。まして先のように近年の国内外情勢の下では何が起こるかわからない。ミサイル、ロケット砲といった外部からの攻撃、あるいは内部からのテロ、そして過去に多発している火事、ボヤを想定すれば、どこで発生するかわからない火災に備えるのは当たり前のことである。原発という特殊な施設のリスク管理はより厳しくなければならないのは、電力会社の当然の義務だ。人目には入らなくてもどこかに消防車ぐらいは配備しているのだろう、と思っていた。
 ところが目の前のテレビ画面のどこを見ても、消火に駆けつけようとする人や車の姿が現れない。それどころか施設全体が無機質な白いコンクリートの建物群だけが目立ち、芝生に覆われた敷地やその間をぬう道路上を行き交う人や車など、動くもの自体が見当たらない。広大な発電所全体がまるで静止画面のように見える。そのなかでコンクリート壁にへばりつき、蛇の舌のように揺らぐ赤い炎とそこから噴き上げる真っ黒い煙が否応なく現実を突きつける。
 この日は3連休の最終日。平日と違って出勤している従業員は少ないとはいえ、稼働中の原発もあり、人がいないはずがない。燃えているのは3号炉のタービン建屋の外部にある変圧器だという。火災が直ちにタービン、そして原子炉という原発中枢部に影響を及ぼし、放射能漏洩につながるようなものではない。とはいえ地震で出火するというのは、施設全体が相当な打撃を受けていると予想される。
 1号機から7号機まで、見た目には何事もなく立っている原子炉建屋やタービン建屋の内部では何が起きているのか。目に見えないところでとんでもない事態が発生、従業員たちはその対応に追われ、外部で発生した火災にも気づいていないのではないか。いや気づいたとしてもなす術もないほど、内部が混乱しているのではないか。そんな疑念すら感じさせる。
 事態の推移を同じニュース画面で見ている東電社員も多いはず。とりわけ経営首脳たちは、目前の出来事をどう受け止め、何を考えているのだろうか。
 同社は1971年に福島で最初の原発を稼働させて以来36年、これまで大小幾多の事故を起こしながら、小規模であれば「軽微で安全性に問題なし」、放射能を漏らしても「人体に影響なし」を繰り返し、重大事故は隠してきた。それによって官僚同様、自らの無謬性を保つことに腐心してきた。しかし、2002年にはついに炉心隔壁ひび割れという重大な事故を隠してきたことが発覚。当時の首脳陣が一斉に退陣を余儀なくされるという、企業としては大きな打撃を受けた。
 あれから5年を経た今年3月、福島第一原発3号炉が29年前に臨界事故というチェルノブイリ級大事故にもなりかねないさらに重大な事故を起こしていたことが判明した。きっかけは昨年秋に発覚した中国電力のデータ改ざん問題を機に、電力各社の過去の不正、事故隠しが次々と発覚。監督官庁の経済産業省も各社に未届けの不正、隠蔽の総点検を指示せざるをえなくなったからだ。しかし、そこで取りまとめられたものはすべて過去のこと。チェルノブイリのようにたとえ後でも映像でその凄まじさが理解されるものではない。金融機関の不良債権の一斉処理同様、やがて忘れられるだろう、というタカをくくった姿勢を感じ取ったのは筆者だけではないはずだ。
 だがテレビ画面で進行中の事態は、逃れようもない現実である。
 地震と原発の問題もまた何十年にもわたって議論されてきたこと。その都度、東電をはじめとする電力各社は耐震性に問題なしとし、国もまたそれを容認してきた。そんな彼らに目の前の事態はどう映っているのだろうか。とりわけ日本の電力会社を代表し、政財官すべてに影響力を行使してきた東電の原発が、衆人環視の下でいままさに燃え上がり、なす術を失っている。規模の違いはあれ、同じく無謬性を誇ってきた旧ソ連が崩壊するきっかけとなったチェルノブイリ事故そのものではないか。それは日本に君臨してきた国家内国家、東京電力の終わりの始まりにも見えた。

著者プロフィール

恩田 勝亘  (オンダ カツノブ)  (

1943年(昭和18年)生。67年より女性週刊誌、雑誌のライターを経て、71年から講談社「週刊現代」記者。政治、経済、事件、科学など幅広く取材、執筆。07年からフリーのジャーナリストとして活動開始。
著書に『仏教の格言』(KKベストセラーズ)、『原発に子孫の命は売れない』(七つ森書館)、『日本に君臨するもの──フリーメーソン日本ロッジ幹部の証言』(共著、主婦の友社)がある。

上記内容は本書刊行時のものです。