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スカラ座の思い出 エンリーコ・ミネッティ(著) - スタイルノート
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スカラ座の思い出 (スカラザノオモイデ) コンサートマスターから見たマエストロの肖像 (コンサートマスターカラミタマエストロノショウゾウ)
原書: RICORDI SCALIGERI

芸術
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四六判
160ページ
仮フランス装
定価 2,400円+税
ISBN
978-4-7998-0140-6   COPY
ISBN 13
9784799801406   COPY
ISBN 10h
4-7998-0140-6   COPY
ISBN 10
4799801406   COPY
出版者記号
7998   COPY
Cコード
C1073  
1:教養 0:単行本 73:音楽・舞踊
出版社在庫情報
在庫あり
初版年月日
2015年7月
書店発売日
登録日
2015年7月9日
最終更新日
2019年12月3日
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書評掲載情報

2015-12-11 週刊読書人
評者: 江川純一=東京大学研究員・宗教学専攻
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紹介

世界のオペラハウスの中でも最高峰と言われるのがミラノ・スカラ座。本書は、そのスカラ座オーケストラで長年コンサートマスターを務めた、エンリコ・ミネッティ氏による回想録。デ・サバタ、ミトロプーロス、シェルヘン、カンテッリなどの大指揮者との思い出や対話も記されている。中でも、伝説的指揮者トスカニーニとともにスカラ座で過ごした思い出は見逃せない。トスカニーニについては様々な言い伝えや評伝があるが、その中でトスカニーニが本当はなんと言ったのかといった点についても書かれている。また、戦争中のスカラ座がどのような状況だったか、ミラノ空襲後のスカラ座、敗戦後の活動などについてもありありと書かれている。

目次

1.デ・サバタを訪ねて サンタ・マルゲリータ、一九六八年
2.ミトロプーロスの思い出
3.シェルヘンとの一日
4.小年代記
5.再び戦火で荒廃した世界
6.グイード・カンテッリの思い出
7.エンツォ・マルティネンギ
8.マスカーニの思い出
9.エンリーコ・ポーロの思い出
10.戦争と劇場 スカラ座の爆撃
11.オーケストラから見たアルトゥーロ・トスカニーニ
 コンサートマスター エンリーコ・ミネッティ

前書きなど

 一九六六年二月のある日、私はサンタ・マルゲリータにいた。今でもそうだが、そこへ行くのは、冬の間のミラノの、息を吸ったら病気になりそうな霧から逃れるためだった。この町の陽のあたる小さな広場(ピアッツェッタ・デル・ソーレ)で、私は澄んだ爽やかな大気に含まれた潮の香りを味わい、燦々と輝きわたる太陽の暖かい陽射しを心ゆくまで楽しんでいた。あまりの幸福感に酔っぱらった頭の中を、様々な思いがやさしく軽やかに水泡のように浮かんではまた消えていった。その中でも繰り返し戻ってくるのは、ヴィクトール・デ・サバタが引退後の常の棲家として選んだホテルで数日前に行われた面談の記憶だった。彼もまたその数年前からこの海辺の小さな町に隠退生活をしていた。もちろんそれまでに、彼とは別の場所で何度も会っていたし、洒落た有名クリニックでも、何度かお目にかかった事もあった。彼はひどく苦しめられていた関節炎の治療をしてもらうため、そこに時々入院していた。
 どうしてだかわからないが、私はその対話で得た印象を書きとどめておこうと考えた。きっとまた明日にでもなって、思い出すのに都合が良いようにという事だったのかもしれない。その対話は、いろいろな面で通常の会話とは違った性格を帯びていた。いつもの話よりずっと熱のこもった、郷愁(ノスタルジック)に満ち、親愛の情にあふれたものだった。もう少し説明を加えれば、それはマエストロが私に示してくれた貴重な友情のために自然と熱がこもり、二人がスカラ座で過ごしたあの情熱的な協力の長い年月とその共通の思い出ゆえのノスタルジックであり、また彼が私にあらためて捧げてくれた賛辞がゆえの親愛の情にあふれるものだったといえるだろう。
 幸いポケットに入れていた紙片を取り出し、手にしていた新聞を下敷き代わりに、私は鉛筆で「デ・サバタ訪問記」と題する小文を書き始めた。だがこの時には、私の頭に『スカラ座の思い出』などという連載、たとえそれがごく限られた数の読者にしても、人々の関心に値するようなシリーズを始めようという考えはまったくなかった。ところが、友人で高名な指揮者(マエストロ)のレミー・プリンチペが、ありがたい事に、まだ私の書いたものを読んでもいないうちから、「『クルチ音楽時報』に発表したらどうか」と、編集部に話を持ち込んでくれて、急に事が進んだのだった。

(中略)

 私がこの本の中で故人についてのみ語る事を、どうかお許し願いたい。言わずもがなの名人伝を書くという事でなければ、存命者について何も書く事はできないだろう。真実を語るということは、こちらから進んで災いや不運、敵意や反目を受けたいというのでなければ、あまり奨められることではない。
 あまり趣味の良くない逸話や、信憑性に欠けるある種のエピソードについても触れない方が良かろう。オペラ界ではすでに、あのマエストロは、このマエストロが、この歌手は、あの演奏家がといった逸話が、それこそ掃いて捨てるほどあって、噂の花が咲いているから。誰もが多かれ少なかれ知っている話をここであらためて思い出す事もないだろう。
 従って、この小文に目を通そうという気を起こしてくださったごく少数の辛抱づよい方々に、ご寛容とご辛抱、厚情を願う事以外に、これ以上私が付け加える事はない。「お苦しみ、長からざれば!(saràbreve il dolore!)」

版元から一言

この本は、イタリア・ミラノにあるオペラの殿堂、ミラノ・スカラ座について、スカラ座オーケストラのコンサートマスターがその思い出を回顧したものです。スカラ座といえば、いまでも数年おきには来日公演をしたり、テレビで上演が放映されるなど、日本人にも親しみ深い代表的なオペラハウスですが、その歴史も輝かしいものがあります。
特に、アルトゥール・トスカニーニはスカラ座の歴史の中でも特筆される指揮者として人気があります。個性的で厳しい言動で知られたトスカニーニ。そのため様々な言い伝えや評伝がありますが、その有名な出来事や発言の一部が事実と異なると本書では書かれています。「声を聞く場所としても、それを覚えている年齢としても、一番有利な位置にいたといえる。だから確信をもっていえる。」と。リハーサルで烈火のごとく激怒する様子、また、プッチーニの葬儀の際の憔悴しきったトスカニーニなどについても触れられています。その他、何人もの著名な指揮者の思い出や、作曲家マスカーニとの思い出も情感豊かに描かれています。
中でも、戦中戦後のスカラ座についての記述は胸が痛みます。ミラノは大規模な空襲に遭い、スカラ座も大きな被害を受けます。また、戦局の悪化で公演が難しくなっていき、敗戦後のスカラ座再開の困難など、その場にいた人物、それもコンサートマスターという責任者だからわかることがたくさん書かれています。
歴史的なオペラハウスの舞台裏を知ることができる貴重な1冊です。

著者プロフィール

エンリーコ・ミネッティ  (エンリーコ・ミネッティ)  (

1902年ベルガモ生まれ、1908年ミラノ音楽院ヴァイオリン学科入学、エンリーコ・ポーロに師事。1918年音楽院卒業、スカラ座入団。
1920年・21年トスカニーニ・オーケストラの北米ツアーに参加。1933年から1965年までスカラ座オーケストラのコンサートマスターをつとめる。
1970年没。

石橋 典子  (イシバシ ノリコ)  (

イタリア語翻訳、通訳。イタリア在住。
東京大学薬学部・文学部イタリア文学科卒業。
訳書にジャンリーコ・カロフィーリオ『無意識の証人』(2005年文春文庫)、『眼を閉じて』(2007年文春文庫)、フランコ・ラ・チャクラ『反建築』(2011年鹿島出版会)など。

上記内容は本書刊行時のものです。