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ゲーム化する世界
コンピュータゲームの記号論
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2013年5月
- 書店発売日
- 2013年5月17日
- 登録日
- 2013年4月22日
- 最終更新日
- 2013年5月9日
紹介
◆ゲームは私たちをどこへ連れてゆくのか◆
テレビゲーム、コンピュータ・ゲーム、オンライン・ゲームと、世の中、いまや「ゲーム」全盛です。スポーツはもちろん、買い物から金儲け、学問まで、すべてが「ゲーム化」しているといってもいいでしょう。人はなぜゲームに夢中になるのか。ゲームは私たちをどこへ連れてゆくのか。ゲームと現実の区別がなくなるという危惧は本当か、……など、ゲームと現実をめぐるさまざまな問題を、記号論的な視点から考察します。また、ファミコンゲーム出現以前の、ゲームを作る人と楽しむ人が分離していなかった時代を、ハドソンの創業者・三遊亭あほまろ氏(噺家ではありません)にお聞きした「マイコンゲーム創世記」は、物作りの魅力にあふれていて、とても楽しいです。そのほか、香山リカ氏の寄稿など、魅力満載の新装「セミオトポス」第二弾です。
目次
ゲーム化する世界 目次
刊行によせて 吉岡 洋
「ゲーム化する世界」がもたらしたもの、もたらしつつあるもの 松本健太郎
第一部 マイコンゲーム創世記
対談 マイコンゲーム創世記三遊亭あほまろ×吉岡 洋
対談「マイコンゲーム創世記」を終えて 吉岡 洋
第二部 ゲームの存在論―その虚構世界の複合的なリアリティをめぐって
ビデオゲームの記号論的分析―〈スクリーンの二重化〉をめぐって 吉田 寛
スポーツゲームの組成―それは現実の何を模倣して成立するのか 松本健太郎
(コンピュータ・)ゲームの存在論―その虚構性と身体性 河田 学
対論を終えて 前川 修
第三部 オンラインのなかのコミュニケーション―ゲーム、カウンセリング、コミュニティ
オンラインゲームとコミュニティ 田中東子
オンライン・カウンセリングの可能性と限界 香山リカ
オンラインとオフラインのはざまに―ゲームにおける「動能機能」 小池隆太
第四部 ゲーム研究の展望
ゲーム研究のこれまでとこれから─感性学者の視点から 吉田 寛
第五部 記号論の諸相
H・G・ウェルズ『タイムマシン』における時間概念
―タイムトラヴェル=タイムマシン考察のために 太田純貴
パースにおける「進化」概念とそのあらたな解釈 佐古仁志
フェリックス・ルニョー論─写真を通じた身体の変容と更新 松谷容作
あとがき 松本健太郎
山口昌男さんの死を悼む 吉岡 洋
資料 日本記号学会第三一回大会について
執筆者紹介
日本記号学会設立趣意書
装幀―岡澤理奈
装画―尹 貞仁
前書きなど
ゲーム化する世界 あとがき
ロラン・バルトの見解に依拠するならば、写真とは現実をあるがままに反映する透明な表象、あるいは自己の他者としての現前を実現する媒介物ということになるのだろう。これと比較するならば、デジタル・イメージによって織りなされたコンピュータゲームの場合、そこからは写真とは異質な組成のリアリティやアイデンティティが派生しつつある、そう考えることができるのではないだろうか。
とくに「私」と、私をとりまく「現実」がイメージの水準で揺らぐ場という観点から、本書がゲームを題材に展開してきた議論を簡単にふりかえっておこう。第一部の「マイコンゲーム創世記」では、草創期のゲーム作品をめぐる(プレイヤー=プログラマーによる)想像力とリアリティとの組合わせが現在のそれとは大きく異なることが明らかにされた。三遊亭あほまろ氏が『スタートレック』をとりあげながら言及されているように、そこでは「完全に頭の中で組み立てて、頭の中で映像化して想像するしかない」、あるいは「一緒にゲームしていても、隣の人間と自分とは考えてることが違う、考えてる世界が違うことがある」という事態が発生しえたのである。その後、前川修氏が第二部のまとめで総括するように、一九八〇年代以降になると「インターフェースの向こう側が不可視になり」、そこで、「ある意味で透明化したかに見える「スクリーン空間」の重層性や不透明性」が前景化されることになる。そして二〇一三年現在、(おもに第三部で論及された題材であるが)オンラインゲームによって媒介される共同性の次元、あるいはコミュニティの次元は、この混濁した重層的空間において一定の拡がりを獲得しつある。
クリフォード・ギアツは、人間が紡ぎだすと同時に人間を支える「意味の網の目」として文化を把握したが、近年その「網の目」がデジタルテクノロジーによって更新される速度は格段に向上したと考えられる。とくに媒介テクノロジーと記号的想像力の間隙で私たちを虚構世界の当事者として陶冶するコンピュータゲームは、私たちのアイデンティティやアクション、あるいは、私たちが関与するコミュニケーションやコミュニティの巨大な変換装置として作用しつつあるのではないだろうか―現代人なら誰しもが抱きうるそのような直感を、本書では多彩な論者のお知恵を拝借しながら活字化することができたのではないかと思う。
二〇一〇年の第三一回大会の際に私は三〇代半ばであまりにも頼りなく、吉岡洋会長から「若すぎる実行委員長」と紹介されることもあったが、その若輩の力不足を支えてくださった小池隆太事務局長、そして本書の編集にあたって常に的確な助言をくださった前川修編集委員長をはじめとする関係諸氏の皆様すべてに感謝するとともに、学会直後に逝去された私の恩師、本学会の会員でもあった京都大学名誉教授・松島征先生に本書の刊行を(心のなかで)御報告したい。
編集責任者 松本健太郎
上記内容は本書刊行時のものです。